人材育成で大切なこと7つ|必要なスキルや成功事例を紹介

人材育成は、企業の成長の礎となる重要な取り組みです。

しかし、人材育成・教育担当者の方の多くが、

  • 何から始めればいいかわからない
  • 施策の成果をうまく見える化・管理できない
  • 多様な働き方に対応しきれていない
  • 自律的な学びの風土が醸成されていない

といった悩みを抱えているのではないでしょうか。

人材育成の目的は、組織の成長や発展に寄与するよう、個々の社員の能力を最大限に引き出し、育て上げることにあります。

「数年後を見据えた育成設計はどうあるべきか?」や、「どうすれば事業成長に貢献できる人材を育てられるか?」など、育成を戦略的に考え推進していくことで、自社に必要な取り組みやスキルが見えてきます。

本記事では、効果的な人材育成のために大切な7つのポイントと、人材育成の成功事例をご紹介します。

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企業の発展に従業員の成長は欠かせません。しかし、「育成の時間や余裕がない」「どう進めるべきかがわからない」など、多くの企業が課題を抱えています。

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人材育成とは?

人材育成とは、組織の成長や発展に寄与するよう、個々の社員の能力を最大限に引き出し、育て上げる活動のことを指します。

重要なポイントは、「自社で貢献・活躍できるように育成する」ということです。

そのため、人材育成計画は、自社の理念や戦略、現状の課題などに基づいた独自性のあるものでなければなりません。

人材育成の制度や手法には、狭義では「OJT」「自己啓発」「eラーニング」など、広義では「ジョブローテーション制度」「人事評価制度」など、さまざまな手法があります。

いずれも社員一人ひとりが持つ可能性を伸ばし、そのスキルや知識を高め、より高いパフォーマンスを発揮できるように支援することを目指しています。

企業にとって人材育成が重要である理由

日本では現在、労働人口の減少、資本蓄積の低下、生産性の伸び悩みといった課題が同時に進行しており、「人材への投資=人的資本の蓄積」が経済成長のカギとなっています。

しかし、主要国と比べて日本企業は人材投資に非常に消極的で、2000年代以降、人材投資額は減少傾向にあり、GDPに対する投資比率も低下しています。

引用:公益財団法人 日本生産性本部 生産性総合研究センター「日本企業の人材育成投資の実態と今後の方向性~人材育成に関する日米企業ヒアリング調査およびアンケート調査報告~」

日本企業の研修では、OJT(職場での実務を通じて知識やスキルを習得させる手法)が依然として主流ですが、これは新技術や新たなビジネスモデルへの対応には不向きです。

一方、Off-JT(社外研修等)は特にサービス業において生産性向上に効果的であるとされています。

また、近年はAIやIoTなどの技術革新に伴い、ICT人材の需要が急増しています。

ICT導入企業では、社内研修の充実や中途採用、専門人材の配置などが強化されています。

一方で、中小企業は人的投資に対してより消極的であり、研修時間も短い傾向にあります(多くが年間10時間未満)。その結果、技術革新への対応が遅れ、生産性の格差が拡大しています。

今後の成長戦略においては、こうした中小企業も含め、人材育成を積極的に推進することが重要です。企業が競争力を獲得するためには、人材への投資を強化し、人事戦略と経営戦略を一貫させることが求められています。

人材育成のよくある課題

企業の人材育成でよくある課題には以下のようなものがあります。

  • 社員が忙しく、時間と余裕がない
  • 担当者の育成能力や指導意識が不足している
  • 育成を受ける社員が意義を理解できていない
  • 無計画に人材育成を進めてしまう

社員が忙しく、時間と余裕がない

人材育成を推進する上で、育成担当となる社員の多忙さは大きな障壁となります。

日常業務に追われ、育成のための時間を確保することが難しい状況では、効果的な人材育成を実現することが難しくなります。

担当者の育成能力や指導意識が不足している

育成の担当者となる社員自身の育成能力や指導意識が不十分であることも課題です。

厚生労働省の「人材育成上の課題」の調査では、「上長等の育成能力や指導意識が不足している」を、課題として認識している企業が多く存在することがわかります。

引用:厚生労働省「人材育成の現状と課題」

効果的な育成を実現するためには、育成する側の意識も高めていく必要があります。

育成を受ける社員が意義を理解できていない

社員がOJTや研修といった育成を受けているものの、その意義を理解できていないことも課題として挙げられます。

育成担当者の能力や意識が低く人材を育成する風土も根付いていない場合、部下である社員にも育成の意義を理解し、積極的に参加してもらうことが難しくなります。

無計画に人材育成を進めてしまう

人材育成が目的が曖昧なまま不定期・単発で開催されたり、継続的な育成が中断されたりと計画的に行えていない場合に育成効果が不十分になります。

無計画な育成施策は、以下のような悪習慣を招きます。

  • OJTを行っているが、目標は設けずにトレーナーを任命するだけになっている
  • 集合研修を行っているが、開催後の効果測定やフォローはしていない
  • ジョブローテーション制度を導入しているが、形式的な配置替えになっている

無計画に人材育成を実施した場合、コストを浪費してしまいます。

人材育成で大切な7つのこと

人材育成で大切な7つのことは以下のとおりです。

  1. 人材要件を設定し、教育計画を策定する
  2. 育成プロセスを管理する
  3. 従業員の自律的な成長を促す
  4. 育成担当者のスキルを高める
  5. 育成を支える組織体制を作る
  6. 階層別研修を実施する
  7. フレームワークを活用する

1. 人材要件を設定し、教育計画を策定する

まずは自社が理想とする人物像へと社員を育成するために人材要件を設定し、教育計画を策定しましょう。

人材要件とは、企業が求める人材の特性を明確にしたもので、それぞれの企業が持つ経営戦略や人員計画に合わせて設定され、人材の採用・配置・育成に用いられます。

人材要件は、業種や年齢、スキルなどを以下の様に記述し、整理しましょう。

可視化することで、自社に必要となる人材の具体的なイメージがつくようになります。

例:製造業界の従業員300人の企業

  • 年齢:25~30歳
  • 業務経験:生産管理または在庫管理3年以上
  • ソフトスキル:論理的思考力、現場コミュニケーション能力

また、人材要件の設定と合わせて、教育目標の策定も重要となります。

教育目標は以下の項目ごとに定めていきましょう。

  • 研修
  • 部署配置・ジョブローテーション
  • OJT
  • ストレッチアサインメント(業務経験を積んだ社員に、より高度な業務を割り当てること)
  • 部下指導
  • サクセッションプラン(企業の将来を担う人材を育成するための計画)

人材育成では、予め定めた人材要件や教育目標をゴールとして社員それぞれがパフォーマンスを発揮し、上司が管理・フォローを行っていきます。

人材育成の目標は、「客観的に判断できる指標であること」と「企業としての成果にもつながること」が重要です。

人材育成の目標の具体的な立て方については以下の記事をご覧ください。

関連記事:人材育成計画の立て方|階層別の記入例や目標設定、テンプレート

2. 育成プロセスを管理する

人材育成を効果的に行うためには、育成プロセスをしっかりと管理することが大切です。

その中でも、「スキルの可視化」と「スケジュール管理」は欠かせない要素です。

スキルの可視化では、スキルマップなどを活用して、業務ごとのスキルレベルを数値化・レーティングすることで、長所・短所が可視化され、個別の育成計画が立てやすくなります。

また、スキルレベルが明確になることで、上司と部下の間で育成の方向性や目標についての共通理解も生まれやすくなります。

関連記事:人材育成ロードマップとは?目的や作成手順・注意点を解説

さらに、計画的に育成を進めるためにはスケジュール管理も重要で、目指すスキルや成長目標に対して具体的な達成期日を設定することで、育成の進行状況を把握しやすくなり、必要に応じた計画の見直しも可能となります。

期日を把握しスケジュールの感覚を持つことで、育成担当者と育成対象者の双方が進行状況や成果を確認し、必要に応じて育成計画を修正することが可能となります。

育成プロセスの管理には、LMS(Learning Management System)の活用が効果的です。

LMSとは、インターネットやパソコン/スマートフォンで学習を行うeラーニングを実施する際のベースとなるシステムです。

多くのLMSでは受講者がログインして学習する受講機能、管理者が受講履歴や成績管理を行う管理機能からなり、受講者である社員の学習進捗の管理を簡単に行うことができるようになります。

3. 従業員の自律的な成長を促す

人材育成において、育成対象者である社員の自律性を育むことは不可欠です。

社員の自律的な成長を促すには、育成対象者のモチベーション管理も大切です。

モチベーションとは、「やる気を起こさせる動機づけ」のことです。

モチベーションには、報酬や競争など外部要因によるもの(外的モチベーション)と、「どうなりたいか」といった内面から湧き上がる動機(内的モチベーション)があり、自律的な学びを促進し組織的成長を実現するためには、後者をいかに育むかが鍵となります。

関連記事:自律学習とは?必要性やメリット、eラーニングの効果的な活用方法を解説

また、上司によるフィードバックやフォローの体制を整えることも効果的な手段です。

フィードバックは、上司と部下による双方向のコミュニケーションによって行われます。

上司との対話の中で、部下は自らの至らない点や足りない点について気付きを得ることができ、自律的な思考を養うことができます。

フィードバックの目的は、上司が部下に業務上の問題点を率直に伝えて改善案を共に考えることです。

上司は事前に客観的な事実を収集したうえでフィードバックに臨み、部下の行動改善について共に考えていきます。

教える側が一方的に教えるティーチングは若手社員や新入社員に対して有効ですが、経験を積んだ社員に対してはフィードバックが有効です。

関連記事:1on1とは?目的・やり方、効果を高めるポイントを解説

また、社員の自発性・自主性も向上させるためにもLMSは有効な手段です。

社員の自発性・自主性を育むうえで、LMSには以下のメリットがあります。

  • 学習履歴を可視化できる
  • おすすめ講座表示などのパーソナライズ機能で社員一人一人に適した学習を提供できる
  • マイクロラーニング(5~10分といった短い時間での学習)を導入することで、日常業務に研修を組み込みやすくなる
  • 学習内容の進捗度や受講者があらかじめ設定した目標への達成度を表示し、学習意欲を高めることができる

テレワークなどの多様化した労働環境の中で、社員の自律的成長を実現したい場合には、LMSの導入も検討すると良いでしょう。

4. 育成担当者のスキルを高める

人材育成を成功させるには、育成担当者自身のスキル向上も欠かせません。

とくに必要となるのは、目標達成へ導く「目標管理能力」、教え導くための「コミュニケーションスキル(ティーチング・コーチング)」、状況を客観的に判断する「ロジカルシンキング」などです。

ただし、育成担当者は彼らの本来の業務も多忙なことが多く、人材育成スキルを並行して学び、実践するのは簡単ではありません。

そのため、育成担当者が効率的にスキルを身につけられる仕組みや支援も必要となります。

関連記事:ビジネススキルとは?一覧と必要なスキルの習得方法をわかりやすく解説

5. 育成を支える組織体制をつくる

継続的かつ効果的な人材育成を実現するには、制度とリソースの両面から、育成を支える体制を整えることが不可欠です。

OJTや研修、ジョブローテーションなど、育成制度を仕組み化し導入・運用することで、属人的になりがちな育成の質を平準化できます。

多摩都市モノレール株式会社では、従来の集合研修が非効率であるという課題に対し、全社的なeラーニング導入を進め、部署ごとにオリジナルコンテンツを作成・活用するボトムアップ型の運用体制を確立しています。

導入当初は告知や全社員教育への組み込みなどで認知を促進し、徐々に各部署が自発的に動画教材の作成や運用に取り組む文化を醸成しました。

現在では講演会や年頭挨拶の配信、マニュアルの動画化などにも活用されており、社員自らが教材を制作することも制度となり、「学びの一環」として機能しています。

導入事例:eラーニングを各部署が自発的に活用する環境を構築し、教育の効率化・効果UPを実現

組織主導で育成環境を整え、現場が自発的に動ける体制を作っていることが、育成の定着と持続可能性を高めている好例です。

加えて、人材育成には時間や人的リソースの「余白」も欠かせません。

現場が多忙であればあるほど、人材育成の優先度が下がってしまいがちですが、中長期的な視点で見れば組織にとって大きな投資効果をもたらします。

たとえば、定期的に育成プログラムの時間を設ける、業務の中に育成の視点を組み込むなどの工夫が求められます。

制度とリソースの両輪が整ってこそ、人材育成は機能し、組織の成長を支える基盤となります。

6. 階層別研修を実施する

階層ごとにスキルが異なるため、最適な研修を実施するようにしましょう。

以下は、階層ごとに実施すると良い育成スキームの例です。

新入社員

  • OJT
  • OFF-JT
  • メンター制度
  • eラーニング

中堅社員

  • OJT
  • メンター制度
  • eラーニング
  • ジョブローテーション

マネージャー

  • eラーニング
  • 外部研修
  • 人事評価研修

新入社員には実務を通じた学習(OJT)、メンター制度が有効で、中堅社員には経験豊富なメンターから学ぶ制度やジョブローテーションが効果的です。

マネージャーになると、多角的な視点を持つための外部研修や人事評価研修が推奨されます。

階層別研修の詳細については以下の記事をご覧ください。

関連記事:階層別研修とは|目的や内容、カリキュラム設計のポイントを解説

7. フレームワークを活用する

人材育成において、フレームワークは「育成の見える化」と「再現性の確保」に役立ちます。

育成の目的に応じて、最適なフレームワークを選ぶことで、施策の精度や効果測定のしやすさが向上します。

以下は、目的別に活用できる代表的なフレームワークです。

目的有効なフレームワーク
目標管理ベーシック法 SMARTの法則
トレーナー選出・育成段階管理思考の6段階モデル
スキル管理カッツモデル
効果測定カークパトリックモデル

効果的に活用するには、目的に合ったフレームワークを選択しましょう。

人材育成で活用できるフレームワークの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。

関連記事:人材育成に役立つフレームワーク7選!活用ステップと注意点も解説

人材育成の成功事例

上記のポイントを踏まえた、人材育成に成功した企業の事例を紹介します。

OJTトレーナー制度の導入で信頼関係の構築に成功|トッパン・フォームズ株式会社

トッパン・フォームズ株式会社では、新入社員に対して入社後1年間にわたってOJTトレーナーをつけています。必要な能力一覧に沿って、業務に必要な知識・スキルを伝承。自己評価・上司評価と面談によるキャリア形成の支援を行っています。

1年間をともに行動することで、プライベートな相談やコミュニケーションも生じます。これにより、お互いに信頼関係が育まれることで、特に女性のライフステージの変化にも対応しやすい、風通しの良い働きやすい環境づくりに成功しています。

参考:厚生労働省 人材育成事例007「トッパン・フォームズ株式会社」

自他推薦による公募制を取り入れ、意欲のある優秀な人材を早期発見|株式会社アイエスエフネット

IT人材サービス、ITインフラ業を展開している株式会社アイエスエフネットでは、企業からの指名ではなく、自他からの推薦による管理職公募制を取り入れることで、意欲の高い優秀な人材の早期発見に成功しています。

IT人材サービスを行っていることで、社員の多くは顧客先に常駐しているなか、キャリアアップを目指す人材の発掘、および直接的な支援が難しい状況でした。そこで取り入れたのが、管理職の公募制度です。8ヶ月間かけて仮管理職として審査を受け、2回の合否で合格を勝ち得た人が管理職となれます。

社員のやる気を認め、キャリアビジョンを明確にすることで管理職へのチャレンジを促した結果、2年間で10名の管理職が誕生。企業からの指名制度を廃止したことで、職歴やスキルの確認といった管理職登用のために発生していたコストの削減にも繋がっています。

参考:厚生労働省 人材育成事例026「株式会社アイエスエフネット」

階層ごとに最適な育成スキーム、若年層の定着率・売上高・利益UP|東日本機電開発株式会社

東日本機電開発株式会社では、自社独自の「教育に関する方針」をもとに、社員教育の体系を定めて、新人・中堅・幹部・管理監督者の階層ごとに教育を実施。社内研修・社外研修・OJT研修などをはじめ、社員1人ひとりが作成する「自己啓発計画書」に基づき、資格取得や研修の助成を実施しています。

また、社員の自発的な行動を促すために、提案制度や表彰制度も取り入れた結果、5年間にわたって新卒入社した社員の離職者をゼロにすることに成功し、さらに売上高・利益も過去最高を記録。そして最大の成果として、社員自らが必要な知識やスキルを自覚し、自ら研修に志願したという能動的人材の育成に成功したことを挙げています。

参考:厚生労働省 人材育成事例032「東日本機電開発株式会社」

まとめ|目標を明確に定め、適切な育成手段を選択しよう

本記事では、人材育成におけるよくある課題を明らかにしながら、その背景にある要因や、実際に効果を生むための考え方を解説してきました。

より本質的な育成を実現するために必要なのは、本記事でご紹介した「大切な7つのこと」です。

人材育成は、単なる研修の実施にとどまらず、企業の成長や社員一人ひとりのキャリア形成に直結する重要な取り組みです。

しかし、目の前の課題に追われる中で、つい育成の本質を見失ってしまうケースも少なくありません。

人材育成はすぐに成果が見えるものではありませんが、「学びを支える環境づくり」と「成長を促す関わり方」があれば、確かな変化が生まれていきます。

長期的な視点で組織の未来を見据えながら、着実に取り組んでいきましょう。

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社員が成長し、継続的に成果をあげるためには、時代の変化や企業課題にあわせた適切な育成手法が欠かせませんが、多くの企業が以下のような悩みを抱えています。

  • 「人材育成を行う時間と余裕がない」
  • 「どのように人材育成を進めるべきかがわからない」
  • 「社員自身が人材育成の重要性を認識できていない」

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