学習性無力感とは、回避できないストレスに長期間さらされるうちに、ストレスに耐えるだけで自発的な行動を起こさなくなってしまう現象のことです。
学習性無力感はプライベートだけでなく仕事においても生じます。
自らの意見を発しない、主体性・自発性がない、学習意欲が低い・・・
自社の現状を振りかえると思い当たる社員もいるのではないでしょうか。
学習性無力感は組織内に広まり全体のパフォーマンス低下につながるため、原因を理解した上での対策が重要です。
そこで本記事では、学習性無力感を抱いている社員の特徴や仕事にもたらすリスク、原因と対策を徹底解説します。
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学習性無力感とは
学習性無力感とは、回避できないストレスに長期間さらされるうちに、ストレスに耐えるだけで自発的な行動を起こさなくなってしまう現象のことです。
学習性無力感は、1967年に心理学者マーティン・セリグマンにより発表されました。
概要は以下の通りです。
- 電気ショックが流れ続ける部屋A・Bを用意し、各部屋に犬を入れる
- Aはスイッチを押せば電流が止まる、Bはスイッチを押しても電流が止まらない仕掛けを施す
- 結果、Aにいる犬はスイッチを押すが、Bは何もせず耐えるのみになった
- さらにA・Bにいた犬を「仕切りさえ飛び越えれば電流から逃れられる部屋」に移す
- Aにいた犬はすぐに飛び越え電流を回避したが、Bにいた犬は何もせず耐えるのみだった
同様に人間もストレスを感じる環境に置かれた際は回避行動をとります。
ただ、いくら努力しても回避できない場合「行動しても無意味だ」「自分は無力だ」などと考え、やがて行動を起こさなくなります。
こうした「学習性無力感」を仕事上で抱く社員も存在するのです。
仕事に学習性無力感を抱いている社員の特徴
仕事に学習性無力感を抱いている社員の特徴を紹介します。
当てはまる項目が多い社員は注意が必要でしょう。
自らの意見を発しない
仕事に学習性無力感を抱いている社員は、打合せや会議において自らの意見をあまり発しません。
「自分が意見しても状況は変わらない」と考えているためです。
主体性・自発性がない
自らの意志で責任を持って行動する主体性や、自ら進んでものごとを行う自発性がみられないのも学習性無力感の特徴です。
業務においては、いわゆる「指示待ち」や「受け身」の姿勢として表れます。
積極性を感じられない状態とも表現できるでしょう。
自信がない
仕事に学習性無力感を抱く社員は、仕事上の様々な場面で自信がなく消極的です。
期待して任せようとしても「自信がありません」「不安です」といった発言がみられます。
周囲の優秀な社員と自分を比較して劣等感を抱いているケースもあるでしょう。
あきらめの発想が見受けられる
仕事上のさまざまな場面であきらめの発想が見受けられる場合も、学習性無力感を抱いている可能性があります。
「どうせ無理だ」「やっても意味がない」など明確な言葉に表れずとも、自らに課せられた目標や業務に対してモチベーションが高まらない様子からも読み取ることができるでしょう。
学習意欲が低い
仕事への学習性無力感を抱いている場合、業務や研修を通じて新たな知識を身に着けることに消極的になりがちです。
具体的には、業務を新たに教える場面では「メモをとらない・質問がほとんど無い・知識が定着しない」といった状態がみられます。
また、教育制度に対しても「自由参加の研修には参加しない・研修の課題提出が遅れる・eラーニングを受講しない」などがみられる場合があります。
学習性無力感が仕事にもたらすリスク
学習性無力感は、仕事にどのようなリスクをもたらすのでしょうか。
以下で具体的に紹介します。
学習性無力感が組織内に広まる
学習性無力感は社員間で伝染し、組織内に広がります。
例えば、身近な先輩社員が「うちの会社は新しい意見を言っても聞いてもらえないよ」のような学習性無力感を表す発言をすると、発言を聞いた後輩社員にも同様の意識が刷り込まれます。
明確な言葉に表れなくとも、日々の活動量や仕事に対する姿勢に学習性無力感が表れていると周囲に影響を及ぼしかねません。
とくに管理職が学習性無力感を表すと組織に与える影響はさらに大きくなるため注意が必要です。
学習性無力感をもつ社員のフォローに労力を要する
学習性無力感をもつ社員は仕事のパフォーマンスが低下しがちです。
低下した分を補うためには、別の社員をフォローにあてるか、本人が学習性無力感を克服する必要があります。いずれにしても、通常以上の労力が必要となってしまうのです。
受け身の社員が増える
学習性無力感は主体性や自発性、そして積極性を低下させます。
上司から明確に指示されたことのみをこなすだけ、自ら創意工夫して仕事を行うことはしないといった社員が増加します。
受け身の社員増加は、組織としての成長・発展を大きく妨げてしまうのです。
意見交換や提案が行われなくなる
学習性無力感をもつ社員は、自らの意見を発さず、新たな提案も行わない傾向があります。
そのため、打合せや会議などでも意見交換が行われない、新しい企画やアイデアが必要な場面でも提案が出てこないといった事態につながります。
組織に求められる「風通しの良さ」が失われた状態になりかねません。
うつ病などの精神疾患につながる
学習性無力感はうつ病や不眠症などの精神疾患につながるリスクがあります。
仕事に学習性無力感を抱いている状態では、仕事への意欲は低下します。意欲低下はミスや目標未達などにつながり、さらに仕事に対して消極的になってしまいます。
こうした「負のスパイラル」が精神に負荷をかけ続けることになり、精神疾患のリスクを高めてしまうのです。
社員の離職・休職が増える
学習性無力感は離職や休職のリスクを高めます。
今の会社では「自分にできることはない」「何をしても無駄だ」のような考えが続くと、離職に至ってしまいます。納得できない状況があっても、今の環境下で自ら行動を起こすことはせず組織を去っていくのです。
また、学習性無力感をきっかけとした精神疾患による休職にもつながりかねません。
学習性無力感が仕事上で生じる原因
学習性無力感が仕事上で生じてしまう原因はさまざまです。
原因を理解することで、学習性無力感を引き起こしやすい環境や状況を避けることが可能となります。
新しい意見に対して否定的な風土がある
社員が新たに意見を発することに否定的な社内風土があると、学習性無力感が生じやすくなります。
例えば、意見したその場で反論やできない理由を並べられたり、一旦は意見を受け取ってもらえるものの放置されたりなどが頻発している場合は危険です。
新たな意見をないがしろにされた社員は「意見しても無駄だ」「考えても意味がない」のような学習性無力感に陥りかねません。
指摘や注意ばかりになっている
ミスや出来ていないことへの指摘・注意ばかりになると学習性無力感を引き起こしやすくなります。
ミスや出来ていないことに対しての指摘や注意は、社員の育成には欠かせません。注意や指摘を受けた社員にとっては一時的なストレスですが、努力による解消が成長につながります。
しかし努力を重ねる一方で、次々に新たな指摘と注意ばかり受け続けてしまうと「努力してもダメなままかも知れない」「頑張っても無駄だ」という発想に陥りかねないのです。
完璧主義に固執している
完璧主義は学習性無力感を誘発しやすいといえます。
完璧主義者は少しのミスを「出来ていない・ダメだ」と評価してしまいがちです。
ただ仕事において全てが完璧であることは皆無なため、完璧を求めるが出来ていない状況が繰り返されることになります。
こうした状況が完璧主義者にとっては「頑張っても無駄」という認識となり、学習性無力感を引き起こしてしまうのです。
組織としても社員個人としても、完璧主義は避けるべきでしょう。
本人の力量より高い難易度の仕事ばかり任せている
本人の力量よりも難易度が高い仕事ばかりを任せると学習性無力感を引き起こしやすくなります。
本人の力量を上回る仕事はいつも以上の努力を要するため、取り組むことで成長を見込めるでしょう。しかし一方で、難易度の上昇とともにミスや目標未達の可能性も高まります。
いつも以上の努力や気力を要するものの結果がともなわない状況が続けば、学習性無力感を引き起こしかねません。
「自分は同じ時期にこのくらいは出来ていた」「この程度は出来てもらわないと困る」といった基準ではなく、本人の力量を把握して難易度が高い仕事が連続しないよう注意しましょう。
パワハラやモラハラが起きている
パワーハラスメントやモラルハラスメントも学習性無力感を引き起こす原因です。
例えば「こんな簡単なことも出来ないのか」のような能力を否定する発言は自信を喪失させます。結果として「自分は何をやってもダメだ」といった学習性無力感につながってしまうのです。
仕事における学習性無力感への対策
仕事における学習性無力感には、どのような対策を行うべきなのでしょうか。
以下で具体的な対策を紹介します。
仕事での小さな成功体験を積ませる
小さな成功体験を積ませることが、学習性無力感への対策となります。
学習性無力感の特徴がみられる社員に対して、あえて難易度が低い仕事を任せます。簡単に達成できるかもしれませんが「行動が結果につながる」ことを実感できれば良いのです。
「行動が結果につながる」という意識は、ストレスを感じても行動を起こさない学習性無力感を予防・克服に役立ちます。
出来ていることを褒める
ささいな点でも出来ていることを褒めれば、学習性無力感への対策となります。
社員の成長を期待するあまり、出来ていないことへの指摘・注意が多くなる場合もあるでしょう。ただ、指摘・注意ばかりでは学習性無力感に陥りかねません。
そこで、出来ている点を褒めて努力の成果が表れていることを実感させましょう。
自信の創出から学習性無力感の予防・克服につながります。
失敗のとらえ方を教える
仕事における学習性無力感の対策において失敗をどうとらえるかは重要です。
以下では、失敗のとらえ方のポイントを4つ紹介します。ぜひ指導にお役立てください。
- 完璧な人間は存在せず、誰でも失敗することがある
- 失敗は自己否定の材料ではなく、次回の成功の糧である
- 失敗しても対処・反省・対策を行ったなら、頭を切り替えて後に引きずらない
- 次に同じような仕事に挑戦する際は、失敗した当時とは状況や条件が異なると認識する
適度な期待感を示す
適度な期待感を示すことは、学習性無力感への対策となります。
期待感を示していない場合、「自分は期待されていないのでないか」という発想から学習性無力感につながるリスクがあります。
期待していることを明確に伝えることでモチベーションを向上させ、自発的な行動を促しましょう。
自発的な行動の喚起は、学習性無力感の予防・克服どちらにも有効です。
また「適度」であることも大切です。過度な期待は「頑張っても期待に応えられない」といった発想から、かえって学習性無力感につながってしまいます。
ポジティブなコミュニケーションを行う
できる限りポジティブなコミュニケーションを心がけましょう。
例えば、難易度が高い仕事を担うことになった社員がいた場合には「〇〇さんなら大丈夫」「期待の表れですね」といったポジティブな声がけを行います。
プレッシャーなどのストレスにさらされる状況下では、ストレスに耐えることで精一杯で自発的な行動を起こせなくなるケースも少なくありません。
ポジティブな声がけは、自信をもった一歩目につながるのです。
また反対にネガティブなコミュニケーションを避けることも重要です。
とくに新入社員は周囲から学び取ろうとする姿勢が強く影響を受けやすいため、注意が必要です。例えばちょっとしたグチや冗談のつもりでも、先輩社員の本音として受け取られてしまいかねません。
もちろん時にはネガティブな部分に寄り添うことも大切ですが、基本的にはポジティブなコミュニケーションを心がけて学習性無力感を払拭しましょう。
意見を聞き入れる姿勢を示す
組織として意見を聞き入れる姿勢を示すことで学習性無力感への対策を図れます。
具体的には、アンケート調査の実施、経営層との1対1面談などを行うとよいでしょう。
ただし、実施後の対応にも注意が必要です。せっかく意見したのに、結果やどう反映されるのかが分からないような状況では、逆効果になりかねません。
実施にあたっては、開示方法や採択基準などをあらかじめ明確に定めておきましょう。
提案やチャレンジを称賛する機会を設ける
業績などの結果だけでなく、提案やチャレンジなどを称賛して自発性を喚起することで、学習性無力感の対策に役立てます。
例えば、社内の業務改善策を多く提案した人や、難易度が高い仕事にチャレンジした人を表彰する機会を設けます。年間表彰などの際に特別枠として設けるとよいでしょう。
これにより、自ら行動すること自体が認められていると実感でき、学習性無力感に陥らずにすむのです。
育成担当者への教育を行う
仕事における学習性無力感の対策には、育成を担う上司や先輩社員の理解も欠かせません。
育成担当者の影響力は大きく、学習性無力感の理解度によって予防や克服に貢献する存在にも、反対に助長させる存在にもなるためです。
仕事に学習性無力感を抱いている社員の特徴や、原因と対策についてを育成担当者が学ぶ機会を設けるべきでしょう。
eラーニングを活用する
学習性無力感に関連する社内教育にはeラーニング活用がおすすめです。
学習性無力感の対策においては、全社員に基本的なビジネスマインド、上司には部下育成やパワーハラスメントなどについての教育が有効です。
ただし、日常業務がいそがしく研修機会を確保できない場合も多いでしょう。
eラーニングであれば、運営側と受講側のどちらの負担も少なく、学習性無力感の予防・克服につながる学習をいつでもどこでも効率よく行えます。
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まとめ
仕事に学習性無力感を抱いている社員の特徴やもたらされるリスク、原因と対策について解説しました。
学習性無力感を抱いてしまうと、ストレスに耐えるだけで自発的な行動を起こさなくなってしまいます。さらに学習性無力感は社員間で伝染し、組織内に広がるのも恐ろしいところです。
仕事上での学習性無力感を予防するために、または克服させるために、有効な対策をとりましょう。
具体的には、小さな成功体験を積ませる、出来ていることを褒める、失敗のとらえ方を教える、社内教育としてeラーニングを活用するなどがあげられます。
万全な学習性無力感への対策により、全社員が主体性や自発性を常に発揮できる環境を実現させましょう。
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人材育成によって社員が成長し、成果をあげるためには、企業課題や育成課題にあわせた育成スキームの選択が欠かせません。
しかし、多くの企業が
- 「人材育成を行う時間と余裕がない」
- 「どのように人材育成を進めるべきかがわからない」
- 「人材育成が継続的な取り組みとして定着しない」
といった悩みを抱えています。
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