メンター制度とは?メリット・デメリットや成功事例を紹介

組織内の人間関係の希薄化や労働市場の流動化などの影響を受け、メンター制度に注目が集まっています。

メンター制度の導入を検討するために、メリットやデメリットをしっかりと理解したい企業も多いでしょう。

本記事では、メンター制度について、基本情報から企業が導入する目的、企業や当事者にとってのメリット・デメリット、成功させるためのポイント、成功事例まで徹底解説します。

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外部環境の変化が激しい昨今に対応するために、組織開発や人材育成による従業員の成長は欠かせない要素の1つとなっています。しかし「育成の時間や余裕がない」「育成ノウハウがない」など、多くの企業が課題を抱えています。

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目次

メンター制度とは

メンター制度とは、先輩社員(育成担当者)が、新人社員や若手社員(育成対象者)をサポートする人材育成方法のことです。

育成担当者は、育成対象者の実務面以外にあたるキャリア形成やメンタル面のフォローを行います。

メンター、メンティ、メンタリングとは

メンター制度には、メンター、メンティ、メンタリングといった似た言葉がいくつか出てきます。それぞれの意味は以下のとおりです。

単語説明
メンター先輩社員(育成担当者)
メンティ新人社員や若手社員(育成対象者)
メンタリングメンターがメンティに対して行うサポートやフォロー

メンターの由来は、ギリシャ神話の登場人物「メントール」です。

メントールは、王の息子に帝王学・学問・人間力の指導を行った賢人で、メンター制度では、この言葉を「相談者、助言者」の意味で使っています。

基本的に、メンターは、メンティとは部門・部署が異なる先輩社員が担当します。

一般的には、社歴や年齢が近い先輩社員が担当するため、後輩社員にとっては相談しやすく、先輩社員にとっても悩みなどに共感しやすいメリットがあります。

その他の人材育成手法(制度)との違い

人材育成手法(制度)には、メンター制度の他にも、OJTやエルダー制度、コーチングなどがあります。ここでは、メンター制度とその他の人材育成手法(制度)との違いを解説します。

OJT制度との違い

OJTとは「On-the-Job Training」の略で、職場での実務経験を通じて知識やスキルを習得する育成方法です。OJT制度は、OJTを「意図的・計画的・継続的」に行うための取り決めになります。

メンター制度とOJT制度の違いは、支援する範囲と育成担当者の部署です。

違いメンター制度OJT制度
支援する範囲実務面以外にあたるキャリア形成やメンタル面のフォロー実務経験を通じた知識やスキルの提供
育成担当者の部署他部署同部署

OJT制度は、同じ部署の上司や先輩が育成担当者となり、実務経験を通じて知識やスキルの育成を行います。

一方、メンター制度は、他部署の先輩社員がメンターとなり、実務面以外にあたるキャリア形成やメンタル面のフォローを行います。

OJT制度についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

OJT制度とは?構築時の注意点と効果を高める方法を解説

エルダー制度(ブラザー・シスター制度)との違い

エルダー制度(ブラザー・シスター制度)とは、育成担当者が、社会人になったばかりの新卒社員に対し、実務を指導しつつサポートを行う育成方法です。

エルダー制度とブラザー・シスター制度には、厳密な違いがなく、どちらも同じ意味合いで使用されています。

メンター制度との違いは、目的や育成対象者、育成担当者の部署です。

違いメンター制度エルダー制度(ブラザー・シスター制度)
違いメンター制度エルダー制度(ブラザー・シスター制度)
目的実務面以外のキャリア形成やメンタル面のフォローを行う新卒社員がスムーズに組織に馴染めるようサポートする
育成対象者新入社員や若手社員※新卒社員に限らない新卒社員
育成担当者の部署他部署同部署

エルダー制度(ブラザー・シスター制度)は、新卒社員を対象に、育成と定着を目的として、同部署に在籍している年齢が近い先輩が育成を担います。業務面以外の相談にも応じる部分は、メンター制度と共通します。

一方で、メンター制度の育成対象者は新卒社員に限らず、目的はあくまで実務面以外のキャリア形成やメンタル面のフォローです。育成は他部署の先輩社員が担います。

コーチングとの違い

コーチングとは、主に対話を通じて育成対象者の能力・気力を引き出し、自己成長や自発的な行動を促す育成手法です。

メンター制度との違いは、テーマやアドバイスの有無が挙げられます。

違いメンター制度コーチング
テーマキャリアや人間関係の悩みも含まれる実務に関連する内容
アドバイスの有無ありなし

コーチングは、育成担当者と育成対象者が上下関係を意識せずに並走しながら、事前に設定した目標の達成を目指します。

主に、実務に関連する内容をテーマにし、アドバイスではなく、質問や問いかけなどによって育成対象者から答えを導き出す手法です。

一方で、メンター制度は、キャリアや人間関係の悩みもテーマに含まれ、メンターがメンティの課題に対し、アドバイスを行います。

1on1ミーティングとの違い

1on1ミーティングとメンター制度は、ともに育成担当者が育成対象者に対してサポートを行う制度ですが、異なる点がいくつかあります。

違いメンター制度1on1ミーティング
目的キャリア形成支援や人格的成長支援業務の進捗確認や課題共有
関係性メンターとメンティの関係上司と部下の関係
頻度ある程度の期間を設定定期的(週次や月次)
話題の範囲業務以外の幅広い話題主に業務に関すること

1on1ミーティングは、上司が部下の業務の進捗を確認し、課題を共有するための方法です。

一方、メンター制度は、メンターがメンティのキャリア形成や人格的成長をサポートすることを目的としており、業務以外の話題についても幅広く議論できます。

メンター制度では上司と部下ではなく、メンターとメンティの関係性になります。

企業がメンター制度を導入する目的

企業がメンター制度を導入する目的には、組織内の人間関係の希薄化を改善する、従業員の精神的な負担を軽減する、労働市場の流動化に対応するなどが挙げられます。

それぞれ解説しますので、メンター制度が自社の目的に沿う内容か確認しましょう。

組織内における人間関係の希薄化の改善

メンター制度を導入することで、メンティが他部署の先輩社員に気軽に相談できる環境を構築でき、組織内の人間関係の希薄化を改善できます。

近年では、リモートワークやweb会議の普及などにより、対面でのコミュニケーション機会は減少傾向です。

通信を介したコミュニケーションでは、効率性や必要性が重視され、コミュニケーションの頻度や時間が減り、最小限のやり取りに留めるといった状態になりがちです。

人間関係が希薄化してしまうと、以下のようなトラブルにも発展しかねません。

  • 仕事のやり方に相違が生まれる
  • 価値観に相違が生まれる
  • 評価について問題が生じる
  • 勘違いやすれ違いにつながる

人間関係上のトラブルは、メンティの不安に直結しやすいものの、同じ部署のメンバーには相談しにくいものです。

メンター制度の導入により、相談しやすい環境を構築でき、解決が図れます。

人材の精神的な負担の軽減

業務量の問題や仕事でのトラブル、人間関係、プライベートの悩みなど、働く人材には、さまざまな精神的な負担が生じます。

そこで、メンタルを支えられるメンター制度の存在が重要になっています。

メンティは、気軽に相談できる相手を得ることで、ストレスをコントロールしやすくなるでしょう。

労働市場の流動化への対応

近年では、働く価値の多様化や組織への帰属意識低下を受け、離職率の上昇や中途採用の増加など、労働市場の流動性が高まっています。

働きやすい職場環境を整備しなければ、人材の量と質が低下し、さらには自社の競争力低下につながりかねません。

入社直後のフォローとしてメンター制度が用意されていれば、新入社員は安心感が高まります。企業としての信頼性や、魅力アップも期待できるでしょう。

増加している中途採用においても、即戦力と期待される中途社員が企業文化に慣れて人間関係の不安を解消するために、メンター制度が有効といえます。

価値観の変化への対応

ワークライフバランス、ハラスメント問題、ダイバーシティなど、価値観も多様化しており、メンター制度の導入によって対応している企業もあります。

メンティにとって、同じ部署の上司・部下の関係では相談しにくい悩みや、他部署からの意見を参考にしたい状況が生じることもあるでしょう。こうした状況においても、メンターがいることで容易に相談しやすくなります。

人材が不足する中での育成

労働者人口の減少や採用市場の競争激化を背景に、組織における人材不足が生じやすい状況です。

企業は、限られた人材を最優先である経済活動・業務遂行にあてなければならず、育成に携わる人材を十分に確保できないケースも少なくありません。

例えば、繁忙期など業務遂行で手一杯となり、自部署の新入社員に対するメンタル面のフォローまで手が回らない場合もあるでしょう。

こういった状況でも、メンター制度を導入することで、他部署の社員にメンティのフォローを任せることができます。

メンター制度におけるメリット

メンター制度の導入は、企業と当事者、どちらにもメリットをもたらします。

企業・メンター・メンティに対するメリットをそれぞれ解説しますので、自社の課題を解消できるか考えてみましょう。

企業のメリット

メンター制度の導入は、社内コミュニケーションの活性化や上司(管理職)の負担軽減、離職率の低下など、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。

以下で具体的に解説します。

社内コミュニケーションの活性化

メンター制度を介して他部署の社員同士がコミュニケーションをとることで、組織全体におけるコミュニケーションの量と質も向上します。

異なる立場同士の意見を交換する、本音で話をするといったことも可能です。

他部署との人脈構築や情報共有がスムーズに行えるようになるでしょう。

上司(管理職)の負担軽減

メンター制度は、メンティの上司にあたる管理職の負担を軽減します。

企業がメンター制度を導入していない場合、育成対象者のキャリア形成やメンタル面での悩みをサポートするのは上司(管理職)です。

しかし、マネジメント全般を担う管理職は、多忙な傾向があります。

メンター制度の導入で、メンティの精神的なサポートはメンターにある程度任せられるため、管理職の負担軽減につながるでしょう。

上司は、メンターと連携をとりながらメンティと適切にコミュニケーションを図ると、より効果的な育成環境を構築できます。

リーダーの育成

メンター制度は、リーダーを育成する絶好の機会です。

リーダーを担う前段階においては、目標達成や進捗管理などの業務マネジメントより、人材マネジメントを実践で学ばせることが重要になります。

メンティからのさまざまな相談に対してアドバイスを行う、メンティの能力を引き出す努力をするといった行動をとることで、メンターは人材マネジメントを習得できるでしょう。

離職率の低下

メンター制度が適切に運用されていると、離職率の低下につながります。

メンティが悩んでいるときに親身に話を聞いて的確なアドバイスができるメンターがいれば、メンティが退職を決意する前に問題に対応できます。

採用力の強化

入社後の不安を軽減できるメンター制度の導入は、採用力の強化につながるでしょう。

採用市場の競争が激しさを増すなか、求職者は、より安心して働ける企業を志望します。

メンター制度は安心して働けるという企業としての魅力が高まり、応募率の上昇にもつながる可能性があります。

メンターのメリット

育成担当者であるメンターにとってのメリットには、価値観やキャリアが明確化する、スキルと人間力が向上する、リーダーとしての疑似体験ができるなどが挙げられます。

メンターに選定された社員に対して、モチベーションを高めてもらうために、メリットを伝えるのも一つの方法です。

価値観やキャリアの明確化

メンターは、メンター制度を通じて、自らの価値観やキャリアを明確化できます。

メンタリングを行う際、メンターは、メンティの価値観やキャリアについて確認するために、自分の場合はどうなのか把握しておく必要があります。

価値観やキャリアが明確化できると、今後のキャリアにも活かせるでしょう。

明確化を図る際には、参考として、以下のキーワードをメンターに共有しておくのがおすすめです。

  • 信頼関係
  • 健康
  • 貢献
  • 協調性
  • 個性
  • 社会課題
  • 豊かさ
  • 環境
  • 家族

自分が大切にしていることや、より大切にしたいことは何か、5年後10年後の場面を想像しながら考えると明確化しやすくなります。

スキルと人間力の向上

メンター制度での育成経験を通じて、メンター自身もスキルや人間力を向上させることが可能です。具体的には、以下のスキルや心構えの習得が期待できます。

習得できるスキルや心構え概要
傾聴力相手の気持ちに共感しながら本音を理解するスキル
質問力不明点を解消する的確な問いかけを行うスキル、相手に気づきを与える際も用いる
提案力相手の状況を理解したうえで、適切かつ有効な選択肢や行動を提示するスキル
モチベーションマネジメント高い意欲をもって仕事に取り組めるように動機づけを行い、サポートするスキル
信頼関係構築力互いを信じて頼りにし合える関係性を築くスキル
利他の精神自分以外の利益を重んじて、自己をささげる心構え

こうしたスキルは他の業務にも広く応用できるため、メンターにとって大きなメリットになるといえます。

リーダーとしての疑似体験ができる

メンター制度において、メンターはリーダーとして疑似体験できます。

特に、初めてリーダーを務めることになった際に苦労しがちなのが、人材マネジメントです。

メンター制度によって、早めに人材マネジメントの苦労を実感・体験することで、あらかじめ多くの気づきや学びを得られます。不安が少ない状態でリーダーになれるでしょう。

メンターには、次世代のリーダーとしての自覚をもち、実際にリーダーとなった将来を想定しながら活動するよう伝えるのがおすすめです。

メンティのメリット

育成対象者にあたるメンティにとってのメリットには、他部署の人脈を得られる、業務外のことでも気軽に相談できる環境を得られる、組織に早く馴染めるなどが挙げられます。

導入する際には、企業が提示するメンター制度の概要に入れておくと、新入社員がメリットを把握しやすくなるでしょう。

それぞれのメリットを解説します。

他部署の人脈を得られる

メンターは他部署の先輩社員であり、メンティは早い段階から他部署の人脈を得られます。

メンター制度で築かれたつながりは、実施期間後も残ります。

メンティだった社員が自部署の企画について他部署の率直な意見が欲しいとき、メンターだった先輩社員に協力してもらうこともできるでしょう。

業務外のことでも気軽に相談できる

メンター制度は、メンティが一人で悩みこまずに、気軽に相談できる環境を作れます。

組織や業務に慣れないうちは、メンティにはさまざまな不安が生じます。

業務に関する内容であれば周囲の先輩社員に聞けますが、価値観やキャリアについては同部署のメンバーにはかえって話しにくいものです。

メンターがいることで、メンティは悩みこむ前に相談でき、問題の早期解決やモチベーションの維持などにつなげられます。何でも気軽に相談できる相手がいるということだけでも、安心感を得られるでしょう。

組織に早く馴染める

メンターである他部署の先輩社員とつながりができることで、メンティはより早く組織に馴染めるようになります。

入社して間もない時期は、メンティーは組織と自らのつながりを感じにくく、心が落ち着かず不安や居心地の悪さを抱きがちです。

自部署の先輩社員に加えて、他部署の先輩社員とも関係性を構築できれば、組織に馴染みやすくなるでしょう。

メンター制度のデメリット

メンター制度には、企業・メンター・メンティ、それぞれに対してデメリットも存在します。

それぞれ解説しますので、対処法を検討したうえで制度の導入を進めましょう。

企業のデメリット

メンター制度の導入にあたって、企業はメンターをサポートするための体制を構築し、自部署外へ情報漏洩しないよう対策を講じることが重要です。

また、メンター制度が効果的に行えなかった場合には、メンター・メンティ双方の離職リスクにもつながります。

コンプライアンスを遵守しつつ効果的にメンター制度を運用できるよう、企業におけるデメリットや注意点を把握しておきましょう。

メンターの負担を考慮した体制が必要

企業はメンターの負担を考慮し、サポートできるような体制を構築しなければなりません。

メンターは通常業務に加えてメンティのフォローを行うため、負担が大きくなります。メンター制度の運用に際して、以下のように対応するのもよいでしょう。

  • メンターを担当する期間は業務量を軽減する
  • 繁忙期のメンター制度導入は避ける
  • メンターに任せきりにならず、周囲もフォローする

メンターに限らず、メンティに対して周りも積極的にコミュニケーションをとっていくと、より最適な育成環境を整えられます。

自部署外に情報が漏洩するリスクがある

メンターとメンティが気軽に相談できる間柄になると、相談のつもりで、各部署内に留めるべき情報を口走ってしまう可能性もあります。

例えば「メンティの部署で退職予定者がいるが、業務上の都合もあり全社共有は控える」といった場合などが当てはまるでしょう。

情報漏洩のリスクを避けるためには、メンター制度導入前に、重要事項を事前に説明することが重要です。

メンター・メンティ双方の離職リスクがある

メンター制度がうまく機能していなかった場合、メンターとメンティ、双方の離職リスクが生じます。

人間関係は離職理由でも多いため、企業はメンティとの相性を考えつつ、メンターを選定しなければなりません。選定後にうまくいっていない場合には、早期に介入し、必要時にはメンターの変更も考える必要があります。

メンターのデメリット

メンターには、負担が大きくなってしまう、企業によっては評価につながらないなどのデメリットがあります。

これらのデメリットは、企業の取り組みにより解決を図ることが可能です。それぞれ把握して、対策を講じましょう。

メンターの負担増加

メンターは通常業務に加えてメンタリングを行うため、業務量が増加してしまいます。

業務負担の増加が原因で、メンターが疲弊してしまっては効果的なメンタリングは行えません。企業には、部署内において可能な範囲で業務を代行する、繁忙期はサポートの度合いを軽減するなどの工夫が必要です。

企業によっては、自身の評価につながらない

人材育成が人事評価の基準に含まれない企業では、メンターは評価されないことでモチベーションの低下や不満につながります。

メンター制度に意欲的になれず、十分な効果が得られないでしょう。

企業は、評価基準や人事制度の見直しをするのも一つの方法です。

メンティーのデメリット

メンター制度を導入しても、適切に運用されていなければメンティーの育成効果にも影響します。

メンターとメンティの相性が悪ければ逆効果となり、さらにメンター次第でもサポート度合いに差が生じるでしょう。

メンティーが安心して勤められるよう、企業はこれらの可能性を考慮して、最適な環境を整える必要があります。

メンターとメンティの相性が悪いと逆効果

メンターとメンティの相性が悪い場合、メンター制度導入は逆効果になります。

本来であればメンター制度は、メンターのサポートによって、メンティのモチベーションが維持・向上し、組織への定着につながる効果があります。

しかし、反対にメンターとメンティの関係性がうまくいかないと、メンティのモチベーションは低下し、早期退職を助長してしまうでしょう。

相性を予測するのは容易ではありませんが、企業は双方の性格や仕事への取り組み方、価値観など、知り得る限りの情報を基にペアリングを検討することが重要です。

メンター次第でサポート度合いに差が生じる

メンターとなる社員の能力や取り組み姿勢、業務状況によって、サポート度合いには差が生じてしまいます。

メンティによっては「自分のメンターより他のメンターの方が、サポートが手厚い」といった不満をもつ可能性もあります。

メンター制度を設けるにあたって、企業は面談を定期開催するなど、サポート内容に関して一定のルールを設けるのがよいでしょう。

メンターとしての能力水準を合わせるために、メンター研修を実施するのもおすすめです。

メンター制度を導入する流れ

メンター制度を効果的に運用するためには、以下の流れで導入するのがおすすめです。

  1. メンター制度を導入する目的を明確化する
  2. 運用方法やルールを決める
  3. 社員からメンターを選出し育成する
  4. 運用を始める
  5. 評価して改善を図る

企業、メンター、メンティそれぞれがメリットを享受できるよう、適切な段取りを把握しておきましょう。

1. メンター制度を導入する目的を明確化する

まずは、企業の実態を調査し、メンター制度で解決可能な課題を明確にしましょう。

自社の課題が明確になれば、メンター制度でどのポイントに注力すべきかが把握できます。

メンター制度の導入が決定した際には、これらの課題を従業員にも周知し、社内全体で協力体制を構築できるように調整することも重要です。

2. 運用方法やルールを決める

メンター制度を効果的に運用するために、社内で運用方法やルールを決めます。

企業は主に、以下に取り組んでおくとよいでしょう。

  • 事前研修の実施
  • マニュアルの整備
  • メンターのサポート体制構築

メンターの負担軽減のために、研修やマニュアルの整備に加え、人事部門や経営層、メンターやメンティの所属部署の上司などから理解と協力を得て、メンターへのサポート体制を作っておくことも重要です。

3. 社員からメンターを選出し育成する

運用方法やルールが決定したら、社員からメンターを選出し、適切にメンティをサポートできるよう育成します。

選出方法には、立候補形式の他、企業が適性を見極め、管理職候補として育成したい社員を指名する方法もあります。いずれにおいても、選出した社員にはメンター研修を受講させ、役割を十分に把握できるようにしておきましょう。

4. 運用を始める

メンターが十分に自分の役割を理解し、必要なスキルを得られたら、実際にメンター制度の運用を開始します。

メンターとメンティのペアを決めるときには、双方の性格や特徴を考慮し、相性のミスマッチを防ぐことが重要です。

とはいえ、そのペアがうまくいく組み合わせかどうかは、実際に運用してみなければわからないところもあります。

そのため、企業には、相性を定期的にモニタリングし、うまくいっていない場合にはメンターを変更するなど、柔軟な対応が必要になります。

5. 評価して改善を図る

メンター制度の実施期間が終了したあとは、メンターとメンティ双方にアンケートやヒアリングを実施して振り返りを行います。

その結果を参考に次回のメンター制度に活かすと、より効果的な運用につなげられます。

メンター制度を成功させるためのポイント

メンター制度のメリットを発揮するためには、制度をスムーズに運用するためのサポート体制の確立が欠かせません。

サポート体制を構築するためのポイントを解説しますので、メンターとメンティそれぞれの育成に役立ててください。

会社全体にメンター制度を周知する

メンター制度について会社全体に周知すると、必要性の理解を促せることでメンターやメンティがスムーズにメンタリングを行えるようになります。当事者以外のメンバーからも協力を得やすくなるでしょう。

企業は、以下の項目を周知するのがおすすめです。

  • なぜメンター制度を導入したのか
  • メンター制度に期待される効果
  • メンター制度の支援体制(メンター研修・相談窓口・資金補助)
  • メンター制度のルール(面談の開催頻度・時間・場所・報告書)

メンター制度の支援体制における資金補助については、ランチミーティング形式やカフェでの面談実施を推奨し、飲食代を企業が補助するといったケースがあります。

自社がメンター制度を行う目的と照らし合わせて、趣旨に沿っているなら採用するのも一つの方法です。

メンターとメンティに対して事前説明や研修を行う

メンターとメンティには、実施前に必ず説明を行いましょう。

全体に対して案内を行っていたとしても、当事者はメンター制度の必要性や重要性が把握できていない可能性があります。

改めて事前説明することで、当事者意識の向上を図ることが可能です。また、メンターに対しては、メンター研修を実施します。

これらの実施により、デメリットを避けつつ、メンター制度のメリットが発揮されやすくなります。

直属の上司や周囲に事前理解を得る

メンター制度のメリットを発揮するためには、メンターおよびメンティの直属の上司および周囲の事前理解が欠かせません。

メンターへの負担を加味し、企業は通常業務のサポート体制について事前に整えておくことが重要です。

また、直属の上司とメンターとの連携を整えておくと、メンティに対してスムーズなメンタリングを行えます。

メンターとメンティの相性へ配慮する|相談窓口の設置

メンターとメンティの相性によってメンター制度の効果が変わるため、企業はできるだけ相性を考えてペアを決定する必要があります。

しかし、メンティが入社間もない場合など、相性を考えるのが困難なケースもあります。

そこでおすすめなのが、メンターとメンティどちらも受付可能な相談窓口の設置です。気兼ねなく相談できる体制を整えておくと、相性が合わない場合にも早期に対応できます。

また、相談窓口は、ハラスメント問題など、当事者間では解決しがたい内容の相談先としても機能します。

メンターとメンティに対して個別フォローを行う

企業は、メンターとメンティに対して、個別にフォローを行う機会を設けましょう。個別面談で両者の現状や成果などを把握できると、必要に応じたサポートを行えます。

特に、メンターはメンティから常に相談を受ける立場であり、自らが相談できる機会は多くありません。そのため、個別フォローによる悩みや問題のヒアリングが重要になってきます。

面談の時間を確保できない場合は、活動報告書の提出をルールにする方法もあります。ただし、報告書の作成はメンターやメンティにとって負担となるため、内容を簡易なものにするなどの工夫が必要です。

なお、個別面談は、人事部門が第三者的立場で行うのが望ましいでしょう。

メンターとメンティのフォローアップに努める

メンター制度の実施期間が終了した後は、必ずフォローアップが必要です。

メンター制度を通して、メンターとメンティには、それぞれ気づいた点・学んだ点があるはずです。以下の項目例を参考に振り返りを行い、今後に活かしていきましょう。

メンターとの振り返り内容メンティとの振り返り内容
・気づいた点
・自身に身に付いたスキル
・印象に残った出来事や言葉
・メンティが身に付けたスキル
・メンティが成長した点
・反省点
・メンティへのメッセージ
・気づいた点
・身に付いたスキル
・印象に残った出来事や言葉
・反省点
・メンターへのメッセージ

実施形式は、メンターとメンティが同席するパターン、メンター同士で行うパターン、メンティ同士で行うパターンなどさまざまです。

自社の目的や実施規模に応じて、最適なパターンを選択してください。

なお、メンター制度の期間は、短い企業で3ヶ月、長い企業だと3年かけて行うケースがあります。長期に及ぶ場合は、定期的なフォローアップが必要です。

メンター制度に必要なスキルの向上を図る

メンター制度のメリットを発揮するためには、メンターの育成能力が重要です。とはいえ、育成や人材マネジメントを経験したことがないメンターも少なくありません。

そのため、メンターには、マネジメントスキルを高めるための研修を行うのがおすすめです。

傾聴力・質問力を磨くためのコーチングや本質や本音を知るためのロジカルシンキング(論理的思考)、クリティカルシンキング(批判的思考)など、さまざまなスキルを目的に合わせて習得できるよう、研修を開催しましょう。

メンターの負担を抑えながら受講を進めるのに有効なのが、PCやスマートフォンなどとインターネットを利用して学習を行える「eラーニング」です。

e-ラーニングはインターネット環境さえあれば時間や場所を問わずに受講できるため、受講者側は空き時間などで活用できます。

開催側も、研修のために参加者全員のスケジュール調整を行う必要がありません。「スキル向上も重要だけど、そこまで手が回らない」という課題の解決策になります。

eラーニング活用について詳細を知りたい方は、以下の資料をご確認ください。

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メンター研修を実施する

メンター制度を導入する際には、メンターとなる人材に向けた研修の実施が欠かせません。

該当社員がメンターの役割や心構え、メンティとの関わり方などを事前に学べると、制度を効果的に機能させられます。

メンター研修では一般的に、以下のような内容を扱います。

研修項目目的
メンターの役割と責務メンターに求められる役割と責任を理解する
メンターのスキルメンティとの対話力、傾聴力、質問力などを習得する
メンティとの関係構築メンティとの信頼関係構築の方法を学ぶ
メンター倫理メンターとしての心構え、倫理観を身に付ける
ロールプレイメンター役とメンティ役を体験する

研修を通して制度の趣旨を十分に理解できると、メンターとしての自覚と責任をもてるようになります。

メンターに必要な技術や態度を身に付けてもらえることで、企業としてもメンター制度を円滑に運営できるでしょう。

メンター制度のメリットを活かした成功事例

メンター制度のメリットを活かして、人材育成に成功した企業の事例を2つ紹介します。なかでも、2つ目の大手精密部品メーカーO社は、メンター制度を女性社員活躍推進に応用した事例です。

自社に活用できる内容がないか、成功事例を参考にしてください。

医薬品製造および販売メーカーD社

医薬品や漢方薬の製造・販売を手がけるD社は、社会の高齢化と医療・医薬への関心の高まりを受け、業容を拡大しました。しかし、残業増加など職場環境の厳しさが増し、離職者が相次ぎました。

そこで、働きやすく、かつ働きがいのある職場・企業の実現を目指し、経営層から社員までが一丸となって意識を高めることを目的に「メンター制度」を導入しました。

D社のメンター制度は以下のような対象・期間で行われました。

メンティ新入社員
メンター入社10年前後の社員
メンタリング期間1年間

その結果、雑談はもちろん、互いに気軽に話し合える雰囲気ができあがりました。導入後の新入社員は、全員離職に至ることなく定着しています。

参照元:日本メンター協会「大峰堂薬品工業様メンター制度導入事例 新入社員職場定着目的

大手精密部品メーカーO社

大手精密部品メーカーであるO社は、女性社員が管理職へのあと一歩を踏み出せないという課題解決のためにメンター制度を導入しました。

管理職として活躍する先輩の女性社員がメンターを担当することで、メンティが仕事や働き方について、具体的にイメージできるような環境を整えました。

O社のメンター制度は、以下のような対象・期間で行われています。

メンティ希望があった女性社員
メンターメンティが希望した先輩の女性社員(他部署)
メンタリング期間1年間

メンターからサポートを受けたメンティからは「後輩や年下との接し方に自信がなかったので、メンターに相談できるのはとても心強かったです。これまでは、雑談的なおしゃべりをすることはあっても、自分が今どう感じているのか?どんなふうに考えているのか?など、深い部分の話しをすることがなかったので、とても新鮮であり良い機会でした。」という感想があり、一定の効果を得られたといえます。

参照元:日本メンター協会「【メンター制度 取組事例-1 女性活躍推進編】

まとめ

メンター制度とは、知識と経験のある先輩社員がメンターとなり、後輩社員であるメンティに対してキャリア形成上の課題解決・メンタル面のサポートなどを行う制度です。

OJT制度やエルダー制度とは、育成の範囲などが異なります。

メンター制度は企業にとって、社内コミュニケーションの活性化になる、リーダーの育成機会となる、離職率が低下するなどのメリットがあります。

また、メンターにとってのメリットは、価値観やキャリアの明確化を図れる、スキルと人間力を向上できる、リーダーとしての疑似体験ができるといった点です。

メンティにも、他部署との人脈を得られる、業務外のことでも気軽に相談できる環境が得られる、職場に早く馴染める、といったメリットがあります。

ただし、メンター制度には懸念点として、メンターの負担が増加しやすい、メンターとメンティの相性が悪いと逆効果になる、メンター次第でサポート度合いに差が生じるなどがあります。

企業は、必要なサポート体制を整えてからメンター制度を導入・運用しましょう。

人材育成に活用したい「最新育成モデル」を無料公開

外部環境の変化が激しい昨今に対応するために、組織開発や人材育成による従業員の成長は欠かせない要素の1つとなっています。しかし「育成の時間や余裕がない」「育成ノウハウがない」など、多くの企業が課題を抱えています。

そこで人材育成にお悩みの企業担当者に向けて、最新の人材育成モデルやその実現ノウハウをまとめた『デジタル時代の人材育成モデル』をお届けしています。

社員が成長し、最終的に成果をあげるまでに必要な育成施策とその流れをモデル化したものになりますので、自社の状況と照らし合わせて育成方法を検討したい方はぜひご活用ください。