コンプライアンスとは法令や社会規範を守ることを意味しますが、近年その範囲は年々拡大しています。単に法令を守るだけでなく、企業倫理や社会的責任まで含まれるようになってきました。
このようにコンプライアンスの範囲が広がる中、企業にはコンプライアンス意識を従業員一人ひとりに浸透させる取り組みが欠かせません。そこで重要な役割を果たすのが「コンプライアンス研修」です。
コンプライアンス研修では、次の3点を従業員に理解してもらうことが重要となります。
項目 | 内容 |
---|---|
1. 基本知識 | 法令やルールの基本知識を身につける |
2. 重要性 | コンプライアンス遵守の重要性を理解する |
3. 実践力 | 業務でコンプライアンスを実践できるスキルを身につける |
本記事では、企業におけるコンプライアンスの重要性と、コンプライアンス研修のテーマ例、実施手順などを解説していきます。成果が見えにくいコンプライアンス研修を評価する方法についても紹介していきますので、自社のコンプライアンス研修の参考にしてください。
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目次
コンプライアンス研修とは
コンプライアンス研修とは、従業員のコンプライアンスへの意識を向上させるとともに、社会人としての倫理観や社会的責任感を育成するための研修です。単に知識を伝達するのではなく、従業員の意識・行動変容を促し、組織全体のコンプライアンス体制を強化することを目的としています。
コンプライアンスとは
コンプライアンスは、企業活動における「法令遵守」を意味します。しかし昨今、コンプライアンス違反の範囲は年々広がっており、法律を守ることに加え、社会規範の遵守や企業倫理の確立といった側面も重要視されるようになりました。
具体的な範囲は以下のようなものが挙げられます。
範囲 | 内容 |
---|---|
法令遵守 | 労働基準法、個人情報保護法などの法令を遵守すること |
社会規範遵守 | 社会通念上の倫理観や価値観を尊重すること |
企業倫理確立 | 企業の健全性や社会的責任を果たせるよう企業理念を定めること |
また、国内の法令だけでなく、海外の法令にも留意する必要があります。 グローバル展開を行う企業では、各国の法令はもちろん、現地での社会規範や企業倫理にも配慮しなければなりません。
このように、コンプライアンスの範囲は多岐に渡るため、企業はその範囲を正しく認識し、研修を通じて従業員に周知徹底することが重要です。
コンプライアンス研修の必要性
企業は、従業員一人ひとりがコンプライアンス(法令遵守)を理解し実践することが求められています。なぜなら、従業員の不祥事は企業に対する社会的信用を失墜させ、場合によっては企業存続の危機にもつながるからです。
具体的には、コンプライアンス違反があると、次のようなリスクや影響が生じます。
- 行政処分・刑事罰
- 損害賠償責任
- 社会的信用の失墜と株主離れ
- 従業員の離職
このようなリスクを未然に防ぐためにも、全従業員に対するコンプライアンス研修は欠かせません。研修を通じて、法令や社内規定の理解を促すとともに、コンプライアンス意識の向上を図ることが重要なのです。
コンプライアンス研修で伝えるべきこと
コンプライアンス研修では、法令や社内規程の遵守に関する知識だけでなく、企業倫理やリスク対応の観点から、次のような内容を伝えることが重要です。
伝えるべき内容 | 具体例 |
---|---|
企業理念・行動規範 | 企業の存在意義、社会的責任、求められる行動 |
違反の背景・要因 | 業務多忙、無知、過剰な営業圧力など |
違反事例と影響 | 過去の不祥事事例、法的リスク、企業イメージ低下 |
報告ルートと対応 | 内部通報窓口、調査プロセス、是正措置 |
単に「違反行為はダメ」と説明するのではなく、違反行為がなぜ問題なのか、違反行為によってどのような影響が及ぶのか、を事例などをもって具体的に伝えることが大切です。
また、従業員自身がコンプライアンスに違反する可能性や、違反を見過ごした場合の責任も意識付けを行うことで、リスク感度を高めることができます。
コンプライアンス研修の目的
コンプライアンス研修の目的を正しく理解することは、効果的な研修プログラムの設計と実施につながり、ひいては組織全体のコンプライアンス体制の強化に結びつきます。以下、具体的な目的を一つずつ見ていきましょう。
法令・社内ルールを共有する
コンプライアンス研修の第一の目的は、組織内で法令と社内ルールを共有することです。
法規制は刻々と変化しますが、その知識のアップデートを個々人に任せてしまうと、組織全体でコンプライアンスへの意識水準にばらつきが生じ、重大な違反リスクを招く恐れがあります。そのため、企業は定期的な研修を通じて、最新の法令や規制の変更を従業員全体に周知し、共通理解を形成する必要があります。
また、コンプライアンス違反対策は、個々の従業員の意識改革に留まるものではありません。組織として、問題を早期に発見し、リスクを最小限に抑えるシステムを構築することが不可欠です。
そして研修では、このような企業の取り組みも共有することが求められます。そうすることで、個人の意識向上と組織的な取り組みを結びつけることができます。
従業員一人ひとりが自らの責任を理解し、組織全体で一貫したコンプライアンス対策を実施することで、より強固で効果的なリスク管理体制を確立することができるのです。
コンプライアンス違反によるリスクを抑える
コンプライアンス研修の重要な目的の一つは、違反行為がもたらす深刻なリスクを従業員に理解させ、それを効果的に抑制することです。
まず、コンプライアンス違反が企業にもたらす具体的なリスクを明確に示すことが重要です。これには財務的損失、法的制裁、社会的信用の失墜、取引機会の喪失などが含まれます。実際の事例などを用いて、これらのリスクがいかに重大で長期的な影響を及ぼすかを説明すると効果的です。
また、個人レベルでの影響も伝えることも不可欠です。コンプライアンス違反が従業員自身のキャリアや生活にどのような影響を与えるか、具体的なシナリオを提示することで、従業員一人ひとりの当事者意識を高めることが期待できます。
以上のように、組織レベル、個人レベルでのコンプライアンス違反のリスクを伝えることで、従業員の意識向上、行動変容を促し、結果としてコンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
風通しの良い職場環境を作る
コンプライアンス研修を実施し、意識水準を標準化することで、風通しの良い職場環境の構築に繋がります。
風通しの良い職場環境とは、従業員が自由に意見を述べ、疑問や懸念を躊躇なく提起できる雰囲気が醸成されている状態を指します。このような環境では、潜在的なコンプライアンス問題が表面化しやすく、早期対応が可能になります。
また、風通しの良い職場は、従業員のエンゲージメントにも良い影響を与えます。なぜなら、従業員が自身の意見や懸念を自由に表現できるという安心感は、会社への信頼に繋がり、仕事への満足度や組織への帰属意識が高まるためです。これは、単にコンプライアンスの観点だけでなく、企業の生産性や創造性の向上にもつながる重要な要素です。
このように、コンプライアンス研修を通じて風通しの良い職場環境を構築することは、コンプライアンスリスクの低減だけでなく、組織の競争力の向上にも大きく貢献します。それゆえ、コンプライアンス研修は、企業の持続的な成長と発展にとっても極めて重要な意味を持つのです。
企業価値を高める
コンプライアンス研修は、単なる法令遵守の徹底以上に、企業価値の向上に直結する重要な取り組みです。
大手企業でもコンプライアンス違反を起こす中、コンプライアンス違反防止に徹底的に取り組む姿勢は、ステークホルダーの信頼を勝ち取ることができます。
たとえば、機密情報や個人情報を取り扱う業界では、顧客や取引先は、自らの重要な情報を適切に管理できる企業を選択します。そこで、コンプライアンス違反対策への徹底した取り組みを示すことができれば、ビジネスチャンスの拡大にも繋がるでしょう。
このように、コンプライアンス研修はマーケティング戦略の一環としても有効なのです。
コンプライアンス研修のテーマ例
コンプライアンス研修で何を取り扱えば良いかわからない場合は、次の4点を優先的に取り扱うとよいでしょう。
- ハラスメント
- 情報セキュリティ
- 各種法律
- SNSの取り扱い
これらは特に問題になりやすいテーマです。以下の内容を参考に、自社にあったプログラムを設計しましょう。
ハラスメント
ハラスメントは広く一般的に取り上げられるようになったテーマです。職場におけるハラスメントの代表的な類型としては、以下のようなものがあげられます。
ハラスメントの類型 | 概要 |
---|---|
性的ハラスメント | 性的な言動によってプライバシーを侵害したり、 不快な思いをさせたりすること |
妊娠・出産等に関するハラスメント | 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いなど |
育児・介護休業等に関するハラスメント | 子の養育や家族の介護を理由とした不利益取扱いなど |
パワーハラスメント | 職務上の地位や人間関係などの優位性を背景にした言動 |
研修ではこれらハラスメントの背景にある構造的問題や、被害者の心理的影響についても触れることが重要です。 一人ひとりのちょっとした気づきや、意識改革がハラスメントの未然防止につながるからです。
情報セキュリティ
企業が保有する個人情報や機密情報の漏えい事故は、企業の信用を大きく損なうリスクがあります。このため、情報セキュリティに関する研修は、重要なコンプライアンステーマの1つと言えます。
具体的な研修内容としては、以下のようなものが考えられます。
- パスワードの設定ルール
- USBメモリやクラウドストレージの利用ルール
- SNSやメールの書き方のルール
- 個人情報や機密情報の取り扱い方
- セキュリティインシデントが発生した際の対処法
また、単に知識を教えるだけでなく、以下のような工夫も有効です。
工夫 | 内容 |
---|---|
体験型の研修 | 実際に不審メールに返信する練習をするなど |
ゲーム形式の研修 | クイズ形式で知識を確認するなど |
事例の共有 | 過去の事故事例を具体的に紹介する |
従業員一人ひとりが、情報セキュリティの重要性を実感できるような研修を心がける必要があります。
コンプライアンス研修のネタ・事例の探し方
コンプライアンス研修では、リスクを身近に感じてもらうため、具体的な事例を紹介することが大切です。コンプライアンス研修のネタや事例を探す際は、次の4点を実施しましょう。
- 自社・同業他社の過去の不祥事事例を活用する
- 社内アンケートで関心のあるテーマを調査する
- 省庁・関連団体で取り上げられている事例を活用する
- 新聞・ニュースサイトでキーワード検索を行う
自社・同業他社の過去の不祥事事例を活用する
自社や同業他社で過去に起きたコンプライアンス違反の事例を活用することで、研修の訴求力を高めることができます。
事例の種類 | 効果 |
---|---|
自社の事例 | 身近で現実味がある。再発防止の必要性を強く感じられる。 |
同業他社の事例 | 業界関係者なら同じリスクがあることを認識できる。 |
ただし、個人や企業が特定されないよう配慮し、必要に応じて一部情報を加工・修正する必要があります。
事例の選定に当たっては、以下の点に留意しましょう。
- 違反の内容が研修テーマに合致していること
- 事実関係が明確で、詳細を把握できること
- 社会的影響が大きく、注目を集めた事例であること
適切な事例を抽出し、研修で活用することで、受講者の問題意識を高め、違反防止につなげることができます。
社内アンケートで関心のあるテーマを調査する
社内のコンプライアンス意識や、従業員が関心を持っているテーマを事前に把握することも重要です。
アンケートを実施する際は、以下の点に留意しましょう。
- 無記名方式で実施し、本音が出しやすい環境を整える
- 自由記述欄を設け、意見を幅広く収集する
- 部門・役職・年代別の集計を行い、偏りがないか確認する
アンケートの設問例は以下の通りです。
設問 | 選択肢 |
---|---|
コンプライアンスに関する関心度は? | ①高い ②やや高い ③普通 ④やや低い ⑤低い |
特に関心のあるテーマは? | ①ハラスメント ②情報セキュリティ ③贈収賄 ④環境問題 ⑤その他(具体的に記述) |
過去に研修を受けたことがあるか? | ①ある ②ない |
研修の受講形態は? | ①集合研修 ②eラーニング ③両方 |
このように社内の実態や要望を把握した上で、優先すべきテーマや受講形態を検討することが大切です。
省庁・関連団体で取り上げられている事例を活用する
省庁や業界団体が公表しているコンプライアンス違反事例は、研修の題材として大変有用です。例えば、公正取引委員会が過去に行った企業への排除措置命令の事例集は、具体的な事案とその背景、関連法規を分かりやすく解説しています。
事例 | 概要 |
---|---|
大手食品メーカー | 従業員に対し、過剰な長時間労働を強いる違法な労働管理を行っていた |
大手通信事業者 | サービス契約の締結に際し、不当に有利な条件を設定していた |
特定の事例を題材に取り上げることで、法令違反の実態や影響を具体的に伝えられます。また、業界団体が発行している規範やガイドライン、事例集なども活用できます。研修にこうした第三者機関の資料を取り入れることで、より客観性と説得力が高まります。
新聞・ニュースサイトでキーワード検索を行う
新聞・ニュースサイトは、コンプライアンス事例を収集する際の有力な情報源です。検索エンジンでキーワードを入力することで、最新の不祥事事例を網羅的に把握することができます。
キーワード例 | 関連情報 |
---|---|
コンプライアンス違反 | 企業の不正会計事例 |
内部統制 | 社内規程違反の事例 |
ハラスメント | パワハラ・セクハラの具体例 |
製品事故 | リコール隠しの事例 |
情報漏えい | 個人情報・機密情報の流出事例 |
上記のようなキーワードから検索を行うと、様々な企業における最新の不祥事例を入手できます。新聞社や報道機関の情報は客観的でわかりやすく、実際に起きた事例のため研修ネタとして活用しやすいでしょう。
ただし、個別の事例に留まらず、その背景や問題点、対策などを幅広く学べるよう工夫する必要があります。
コンプライアンス研修の流れ
コンプライアンス研修は以下の流れで実施しましょう。
- コンプライアンスの知識・意識レベル調査
- 優先順位の決定
- 内容の策定・実施
- 振り返りと調査
コンプライアンスの知識・意識レベル調査
コンプライアンス研修を実施する前に、まず従業員のコンプライアンスに関する知識と意識のレベルを把握することが重要です。これには以下の方法が有効でしょう。
- アンケート調査
- テスト・試験
- 上長・部下間の面談
調査結果を分析し、従業員の強み・弱みを把握したうえで、研修の優先順位や内容を決定することが求められます。
優先順位の決定
コンプライアンス研修のテーマを決める際には、以下の要素を総合的に勘案し、優先順位を決定します。
要素 | 内容 |
---|---|
重大性 | 違反があった場合の影響が大きいものから優先する |
発生頻度 | 過去の事例が多発しているものから優先する |
リスク顕在化の可能性 | リスクが顕在化しやすいものから優先する |
法令上の義務づけ | 法令で義務付けられているものから優先する |
従業員の関心 | 従業員から関心が高いものを優先する |
例えば、重大な影響があり、発生頻度も高く、リスクも顕在化しやすいハラスメントについては優先度が高くなります。一方、発生頻度が低く、従業員の関心も低い分野は後回しにすることができます。様々な要素を考慮しながら、自社の実情に合わせて優先順位を決定することが重要です。
内容の策定・実施
コンプライアンス研修の内容は、目的に合わせて適切に選定する必要があります。例えば、新入社員向けの研修では、社会人としてのモラルや倫理観を養うことに重点を置きます。一方、管理職向けの研修では、部下のコンプライアンス違反を見逃さない姿勢を養うことが求められます。
研修内容を策定する際は、以下の3点を押さえましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
重点テーマの選定 | ・ハラスメント ・情報セキュリティ ・インサイダー取引 |
事例の収集・作成 | ・社内外の過去事例を収集 ・フィクションの事例も有効 |
資料の作成 | ・スライド資料 ・動画教材 ・eラーニングコンテンツ |
研修の実施方法も、集合研修とeラーニングを組み合わせるなど工夫が必要です。年1回の集合研修に加え、eラーニングで定期的に意識を高めるのが理想的です。
振り返りと調査
コンプライアンス研修の効果を検証し、改善につなげるためには、研修後の振り返りと調査が欠かせません。
具体的には以下の項目を確認することが有益です。
項目 | 内容 |
---|---|
研修後アンケート | 研修内容の理解度や満足度、改善要望などを収集する |
理解度テスト | 研修内容の知識定着度を確認する |
行動量の比較 | 研修前後での行動変化を確認する |
意識レベル比較 | 研修前後でのコンプライアンス意識の変化を確認する |
業務上の成果確認 | コンプライアンス違反の減少や業務効率化など、研修の効果を確認する |
これらの確認結果を分析し、次のステップである優先順位の見直しや内容の改善に活かすことが大切です。コンプライアンスの徹底は継続的な取り組みが必要不可欠であり、研修の振り返りとPDCAサイクルを確立することが違反防止につながります。
コンプライアンス研修の成果を評価する方法
コンプライアンス研修における大きな課題の一つが、「成果がわかりづらい」という点にあります。なぜなら、コンプライアンス研修の成否は、究極的には問題が発生していないということでしか判断できないからです。
それでもコンプライアンス研修の効果を可能な限り測定し、評価することが重要といえます。適切な評価は、研修プログラムの改善や、組織全体のコンプライアンス体制の強化につながります。
それでは、コンプライアンス研修の成果を評価する方法を紹介していきます。
研修後アンケート
研修後のアンケートは、理解度や満足度を確認するためだけでなく、改善点を把握する上でも重要な役割があります。
アンケートでは以下の項目を設けることをおすすめします。
項目 | 目的 |
---|---|
理解度 | 研修内容の理解状況を把握する |
満足度 | 研修の質を評価してもらう |
改善点 | 次回に活かすべき意見を収集する |
自由記述欄 | 質問項目以外の意見を収集する |
アンケート結果を分析し、研修内容や方法の見直しを行うことで、より効果的なコンプライアンス研修を実現できます。継続的にアンケートを実施し、経年変化を追うことも重要です。従業員のコンプライアンス意識の変化を把握でき、研修の成果を評価する一助となります。
理解度テスト
コンプライアンス研修の理解度を確認するため、研修終了後に理解度テストを実施します。これは受講者が研修内容をどの程度理解できたかを測るためのものです。
理解度テストの実施方法としては、以下のようなパターンが考えられます。
方法 | 特徴 |
---|---|
筆記テスト | 設問に対して記述式で解答する形式。理解度を細かく測ることができる |
クイズ形式 | 選択式の問題に答える形式。大人数に対して短時間で実施可能 |
レポート課題 | 研修内容に関するレポートを課す。理解度に加え思考力も測れる |
理解度テストは、単に知識の有無を確認するだけでなく、実際の業務で活かせる理解度があるかどうかを測ることが重要です。そのため、具体的な事例を示しつつ、受講者の判断力や適用力を問う出題形式が求められます。
行動量の比較
コンプライアンス研修の効果を評価する際に、研修前後における社員の行動量を比較することは有効な手段です。例えば、次のような指標を設定し、研修前後でその変化を観察することができます。
指標例 | 内容 |
---|---|
コンプライアンス違反件数 | ハラスメント、情報漏洩、贈収賄等の違反件数 |
内部通報件数 | 社内の通報窓口に寄せられた通報件数 |
ヘルプデスクの問い合わせ件数 | コンプライアンスに関する質問や相談の件数 |
研修受講率 | eラーニングなどの研修の受講率 |
研修前は違反や通報が少なく、研修後に一時的に増加することもありますが、中長期的に見れば違反は減少し、問い合わせは増加するなど、社員の意識向上が見られるはずです。
客観的な数値を継続的にモニタリングすることで、コンプライアンス研修の効果を評価することができます。ただし、単に数値を追うだけでなく、根本原因の分析や是正措置を講じることが重要となります。
研修前後の意識レベルの比較
コンプライアンス研修の効果を測る上で、研修前後の受講者の意識レベルを比較することは有効な手段です。事前に意識調査を行い、研修後に同様の調査を実施することで、どの程度意識が向上したかを把握できます。
具体的には、以下のような調査項目が考えられます。
調査項目 | 研修前 | 研修後 |
---|---|---|
コンプライアンスに関する基礎知識 | ○ | ◎ |
コンプライアンス違反のリスク認識 | △ | ◎ |
自身の業務とコンプライアンスの関係性 | △ | ○ |
違反発生時の自身の対処方法 | × | ○ |
研修の前後で受講者の意識がどのように変化したかを可視化することで、研修の効果を客観的に把握することができます。さらに、研修後のアンケートでは、自由記述欄を設けることで、受講者の気づきや疑問点を収集することも重要です。これらの声を次回の研修に反映させることで、より効果的な研修を実施できるようになります。
コンプライアンス研修の効果を高めるポイント
コンプライアンス研修の目的は、単に知識の伝達をすることではなく、従業員の意識と行動の変容を促し、組織全体のコンプライアンス体制を強化することです。この目的を達成するために、次のようなポイントを意識すると良いでしょう。
当事者意識が持ちやすい工夫を取り入れる
コンプライアンス研修では、受講者自身が当事者意識を持ちやすいよう工夫することが重要です。
例えば、次のような手法が有効でしょう。
教育方法 | 内容 | 効果 |
---|---|---|
ロールプレイング | 受講者に当事者役と対応者役に分かれてもらい、実際の事例を題材として演じる | 具体的なシチュエーションを疑似体験することで、リアリティを持たせられる |
自身の事例共有 | 受講者に日頃の業務で遭遇した事例を共有してもらう | 自分の経験に基づいた事例なので、主体的に考えられる |
ケーススタディ | 架空の事例を受講者に提示し、グループで検討を行ってもらう | 議論を通じて、当事者としての視点を養うことができる |
このように受講者が疑似体験したり自身の経験を振り返ったりすることで、コンプライアンス上の問題をより身近に感じられるようになります。研修の内容を自分事として捉えやすくなり、当事者意識の醸成に役立ちます。
リスクの大きさを実感させる
コンプライアンス違反のリスクを軽視してはいけません。単に法令違反に問われるだけでなく、企業に甚大な損害をもたらす可能性があります。
例えば、次のようなリスクが考えられます。
リスク | 内容 |
---|---|
企業への損害賠償請求 | 違反行為により被害を受けた場合、多額の賠償金支払いを求められる |
社会的信用の失墜 | 企業イメージが悪化し、取引先や顧客から見放される |
従業員の離職 | 不祥事により従業員のモラルが低下し、優秀な人材が離職する |
事業機会の喪失 | 官公庁からの入札指名停止など、事業チャンスを失う |
コンプライアンス違反は企業に致命的な打撃を与える可能性があります。研修では、具体的な事例を示しながら、リスクの大きさを実感してもらうことが重要です。
感覚や常識にズレがないかを確認させる
コンプライアンス研修では、受講者一人ひとりの感覚や常識からズレがないかを確認させることが大切です。
例えば、ハラスメント研修であれば、次のような質問をします。
質問内容 | はい | いいえ |
---|---|---|
「気持ち悪い」などと言われても仕方がない発言をしたことがある | □ | □ |
上司や先輩からの発言なら、許容できると思う | □ | □ |
このように自身の行動や考え方を問うことで、受講者自身に気づきを促します。さらに、回答結果を受講者全員で共有し、感覚のズレを確認させます。
ただし、個人の尊厳を損なわないよう、適切な質問内容や回答の共有方法を検討する必要があります。研修の目的は、一人ひとりの感覚を正すことにあり、誰かを非難することではありません。
経営層・管理職に対して率先して研修を実施する
経営層や管理職は、組織全体のコンプライアンス意識の醸成に大きな影響力を持っています。そのため、コンプライアンス研修では経営層や管理職に対して率先して実施することが重要です。
経営層や管理職が研修を受けることで、以下のようなメリットが期待できます。
メリット | 具体例 |
---|---|
トップダウンでの意識付け | 経営層や管理職の言動が部下に影響を与える |
リスク認識の共有 | 組織として重視すべきリスクの理解が深まる |
実践的なリーダーシップ | コンプライアンス違反への対処方法を学ぶ |
一方で、経営層や管理職への研修実施には、以下のようなデメリットも存在します。
- 研修時間の確保が難しい
- 研修内容への関心が希薄になりがち
こうしたデメリットを踏まえつつも、コンプライアンス意識の組織的な浸透のためには、経営層や管理職への研修を優先的に実施することが不可欠です。
定期的に研修を行う
コンプライアンスは、法改正や時代の変化とともに常に進化する概念です。そのため、コンプライアンス研修についても定期的に内容を見直し、実施していくことが重要となります。
頻度 | 内容 |
---|---|
年1回 | 全社員を対象とした基本的な内容の研修 |
随時 | 新入社員研修、役職者向け研修、部門別研修など対象を絞った研修 |
年1回の全社員向け研修では、コンプライアンス全般の基本事項を再確認します。一方で、新入社員や役職者、特定の部門に対しては、より具体的な事例や深掘りした内容を盛り込むことで、実効性を高めることができます。
また、過去の研修を見直し、受講者の理解度や満足度を検証することも大切です。そうすることで、次の研修内容の改善につなげられます。コンプライアンス研修は一過性のものではなく、継続的に行うことで、組織の問題意識を維持・向上させることができます
eラーニングを活用する
近年のコンプライアンス研修では、eラーニングの活用が広がっています。eラーニングとは、インターネットやイントラネット上で学習コンテンツを提供するシステムのことです。
eラーニングを活用することで、以下のようなメリットがあります。
メリット | 内容 |
---|---|
時間と場所に制約がない | 社員一人ひとりの都合に合わせて学習可能 |
効率的 | 集合研修に比べて低コスト |
理解度の把握が容易 | 小テストを実施し、確認しやすい |
また、定期的な受講を促すリマインダー機能や、動画コンテンツの視聴履歴の確認など、研修の実施と管理が効率化できます。ただし、eラーニングは一方通行の学習になりがちです。そのため、eラーニングと集合研修を組み合わせるなど、双方向のコミュニケーションを取り入れることが重要になります。
まとめ
コンプライアンス研修は、従業員一人ひとりの意識向上を目指すだけでなく、企業としてのリスク管理にも重要な役割を果たします。
研修の成果を適切に評価するためには、以下の方法が有効です。
評価方法 | 内容 |
---|---|
研修後アンケート | 研修内容の理解度や満足度を確認する |
理解度テスト | 知識の定着度を把握する |
行動量の比較 | 研修前後の行動変化を測る |
意識レベルの比較 | アンケートやヒアリングで意識変化を確認する |
業務上の成果を確認 | コンプライアンス違反件数の減少など |
さらに、研修の効果を高めるためには、参加者の当事者意識を高める工夫や、経営層・管理職への優先的な実施、定期的な実施といった取り組みが重要です。eラーニングの活用も有効な手段の一つとなります。
企業は、こうした評価と改善を継続的に行うことで、コンプライアンス研修の質を高め、企業価値の維持・向上につなげることができます。
人材育成を成功に導く「最新育成モデル」を活用しませんか?
人材育成を成功に導くためには、育成過程の注力ポイントを知り、必要な成果に向けて適切なステップと育成スキームを選択することが重要です。
KIYOラーニングでは、「人材育成で大切な8つのこと」を仕組みでカバーできる『デジタル時代の人材育成モデル』をお届けしています。
社員が成長し、最終的に成果をあげるまでに必要な施策とその流れをモデル化したものになりますので、自社の状況と照らし合わせて育成方法を検討したい方はぜひご活用ください。