組織の成長と発展を支える人材の育成では、研修を適切に実施することが欠かせません。なぜなら研修は、従業員のスキルや知識を向上させ、組織の目標達成に必要な能力を開発する効果的な手段の1つだからです。
実際多くの企業で、人材育成の一環として研修を取り入れていることでしょう。一方で以下のように考えている担当者も多いのではないでしょうか。
- 研修による人材育成の成果を高めたい
- 今の研修を見直すアイデアが欲しい
研修は単に実施すれば良いわけではありません。事前準備からフォローアップまでの一連のプロセスを適切に管理することが研修成果を左右します。
本記事では「研修を通じて人材育成を成功に導くにはどうすれば良いか」といった観点から、研修の目的や研修の種類、設計方法などを解説していきます。本記事を通じて、人材育成における研修の重要性や効果的な活用方法について理解を深め、実際の研修作り・見直しに役立てていただけますと幸いです。
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目次
人材育成の目的
人材育成とは、「企業活動に貢献できる人材を育成すること」です。組織の成長や発展に寄与するため、個々の社員の能力を最大限に引き出し、育て上げる活動のことを指します。
それは、単に社員に対してスキルや知識を付与することを指すのではありません。「企業活動に貢献できる人材を育成する」ということは、組織に対する高いエンゲージメントがあり、身につけたスキルや知識を、組織のために積極的に活用するモチベーションがある人材を育成するということでもあります。
人材育成における研修の役割
人材育成は、企業が持続的に成長を遂げるためには欠かせない活動であり、その中心を担うのが研修です。人材育成における研修の役割は大きく三つに分けることができます。
利点 | 内容 |
---|---|
スキル・知識習得の場 | 新たな技術や業務知識を学ぶ時間を設けることが可能で、従業員一人ひとりの能力向上を図ることができる。 |
社員のモチベーション向上 | 会社が社員の成長に投資をしているというメッセージを伝え、社員のモチベーションを高める。 |
組織文化の醸成・共有 | 企業理念や価値観を共有し、組織文化を醸成することができる。 |
これらの役割を果たすためには、研修の設計や運営が重要になります。次章では、効果的な研修を実現するための設計方法について詳しく解説します。
研修形式の種類
研修には様々な形式があり、それぞれの特徴を理解することが効果的な研修設計につながります。主要な研修の種類として、集合研修、オンライン研修、eラーニングが挙げられます。
それぞれの形式には長所と短所があるため、研修の目的や対象者に合わせて適切な形式を選択することが重要です。
集合研修(座学研修)
集合研修(座学研修)は、その名前の通り、受講者を一箇所に集めて行う研修形式です。特に、理論や知識を深く理解する必要があるテーマ、または直接的なファシリテーターの指導が必要なテーマに適しています。
この研修形式の最大の利点は、受講者同士の情報共有や意見交換が容易にできる点にあります。具体的な実例や経験を共有することで、それぞれが持っている知識や視点の違いから新たな学びを得ることが可能です。また、ファシリテーターからの直接的な指導により、誤った理解を訂正することもできます。
一方で、集合研修は場所や時間を共有する必要があるため、受講者全員のスケジュール調整が必要となります。また、大人数の場合は各個人への指導が難しくなるでしょう。
以下に、集合研修のメリットとデメリットを表にまとめました。
メリット | デメリット |
---|---|
情報共有や意見交換が容易 | 場所や時間の調整が必要 |
ファシリテーターからの直接的な指導が可能 | 大人数の場合、個別指導が難しい |
集合研修はこれらの特性を理解した上で、適切なテーマと組み合わせることで、人材育成に有効的に活用することができます。
オンライン研修
オンライン研修は、顔を合わせることなく自宅やオフィスなどから参加することが可能な研修形式です。近年では、新型コロナウイルスの影響や、時間・場所の制約をなくすために導入する企業が増えています。
主な特徴としては、以下の3点が挙げられます。
特徴 | 説明 |
---|---|
柔軟性 | 様々な場所や時間帯からアクセスが可能であり、自身の都合に合わせて学習が進められます。 |
コスト削減 | 会場のレンタル料や移動費などが発生しないため、費用の削減が期待できます。。 |
安全性 | 集団での研修に比べ、感染症のリスクが低いというメリットがあります。 |
ただし、物理的な距離があるため、参加者同士のコミュニケーションや、直接指導を受ける機会が少なくなるというデメリットも考慮に入れる必要があります。
そのため、適切なツールを使用し、参加者同士の交流や質疑応答の時間を設けるなどの工夫を行うことが大切です。
eラーニング
eラーニングとは、インターネットを活用した学習形式の一つで、人材育成の研修においても重要な役割を担っています。パソコンやスマートフォンからアクセスすることで、場所や時間を選ばず、受講者の都合に合わせて学習を進めることができ、受講者がモチベーションを保ちやすい形式と言えます。
また、受講者の学習状況を管理システム上で確認することができるため、進捗や理解度のチェックも容易です。これらのデータは、自社の人材の傾向分析や教育施策の検討に活用することができます。
研修の設計方法
効果的な研修を実施するためには、体系的な設計プロセスが不可欠です。研修の設計は、ニーズ・課題の抽出から始まり、研修目標の設定、計画の策定、実施、そして効果測定までの一連の流れで構成されます。
各段階において重要なポイントを押さえることで、組織や個人のニーズに合致した研修を提供することができるでしょう。
1.ニーズ・課題の抽出
人材育成の研修を設計する際に不可欠なのが、企業や組織のニーズと課題の抽出です。この段階では、「現状のスキルレベルはどうか」「何が足りないと感じているか」「これから必要となるスキルは何か」等を明確にすることが求められます。
課題抽出のためには、全社員を対象にスキルや知識の不足点や研修の改善希望点を尋ねる「アンケート調査」、上司・部下・同僚など複数人の評価者による授業員の評価を行う「360度フィードバック」などが有効でしょう。
これらはあくまで一例ですが、適切なニーズと課題の抽出を行い、それを研修の設計に反映させることで効果的な人材育成が可能となります。
2.研修目標の設定
研修を設計する際、研修目標の設定は重要なプロセスです。これは、研修を通じて達成したいスキル上達レベルや理解度を具体的に明示するものです。目標設定が明確でないと、受講者が何をどこまで学ぶべきか、また、達成感を感じるための基準が曖昧になってしまいます。
具体的な設定方法としては、“SMART”原則が有用です。
- Specific(明確な):具体的に何をどの程度理解・習得するか。
- Measurable(測定可能な):達成度を測定できる具体的な指標を設ける。
- Achievable(達成可能な):現実的な目標を設定し、挫折しないようにする。
- Relevant(関連性のある):ビジネス目標や個々の職務と関連付ける。
- Time-bound(期限が明確な):達成までの期限を設定する。
これらを踏まえて設定した研修目標は、研修の振り返りを行う際にも重要な役割を果たします。研修は振り返りと改善を繰り返すことで、より良いものになっていきます。効果的な改善につなげるためにも、目標設定は慎重に行うようにしましょう。
3.研修計画の策定
研修計画の策定は人材育成研修の根幹をなす重要なステップです。一般的に、研修計画を策定する際には、以下のポイントを押さえると良いでしょう。
ポイント | 説明 |
---|---|
研修の目的 | 抽出した課題やニーズに基づいて、作成・見直しを行う研修の目的を考えます。 |
研修のターゲット | 研修の対象となる参加者を明確にします。職種、役職、経験年数などを考慮して設定します。 |
研修の場所 | 研修を実施する場所を決定します。社内の会議室、外部の研修施設、オンライン上など、目的に合った場所を選びます。 |
研修の内容・テーマ | 研修の目的を達成するために必要な知識やスキルを習得できる内容を設定します。参加者のニーズや課題に合致したテーマを選定しましょう。 |
研修の日時 | 参加者のスケジュールを考慮しつつ、研修の目的や内容に適した日程と時間帯を設定します。 |
研修の形式 | 講義形式、グループワーク、ロールプレイ、e-ラーニングなど、研修の内容や目的に適した形式を選択します。 |
4.研修の実施
研修のコンテンツが固まったら、いよいよ本番の実施段階に入ります。研修を効果的に進めるためには、まず参加者全員に研修の目的や狙いを明確に理解してもらうことが不可欠です。事前に目的などを伝えていたとしても、全員が完全に把握しているとは限りません。
そこで研修の冒頭で、なぜこの研修が企画されたのか、これからの時間で何を学ぶのかを丁寧に説明することが重要なのです。こうすることで、参加者一人ひとりが研修の意義を認識し、共通の目標に向かって学習に取り組むことができるようになります。
5.効果測定
研修の最終段階に位置する「効果測定」は、人材育成を評価し、研修の有効性を検証する重要な工程です。
まず、具体的な研修の目標に対して、その達成度合いを定量的に評価することが求められます。例えば、営業スキル向上を目指す研修であれば、研修前後での売上実績の差分や顧客満足度の変動など、数値で捉えられる指標を用いて効果を測定します。
また、効果測定は参加者の視点からも行われます。研修終了後にアンケートを実施し、研修内容の理解度や満足度、今後の仕事への活用度などを確認します。
以下の表は効果測定の一例です。
測定項目 | 測定方法 |
---|---|
研修目標の達成度 | 定量指標による評価 |
研修内容の理解度 | 参加者アンケート |
研修満足度 | 参加者アンケート |
より効果的な人材育成を行うためには、これらのデータ分析に基づいて、研修の内容や進め方を改善していくことが大切です。
【階層別】代表的な研修テーマ
はじめて研修プログラムを任された担当者は、研修の具体的な内容やテーマのイメージが付きづらいでしょう。ここでは、階層別の代表的な研修テーマを紹介します。
新入社員向けのテーマ
新入社員(入社1から3年目を想定)では、ビジネスマナーやビジネススキルの基礎を固めることが大切です。この時期に基礎を固めておけば、実践経験を重ねるごとに知識やノウハウの定着や強化、自ら振り返りを行えるようになります。
また初めての業務・慣れない業務に翻弄されがちな時期でもあるため、セルフマネジメントに関する知識の習得もおすすめします。
具体的には以下の通りです。
- ビジネスマナー(挨拶、言葉づかい、敬語、電話応対、来客応対、名刺交換など)
- ビジネスマインド(社会人としての心構え、タイムマネジメント、セルフモチベーションなど)
- コミュニケーション(報連相、伝え方と聞き方、プレゼンや発表のコツなど)
- ビジネス文章の書き方(Eメール、企画書、稟議書など)
- ITスキル(パソコン操作、社内システム操作)
新入社員の育成については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
新入社員の育成|具体的な方法やテーマから重要ポイントまで解説
中堅社員向けのテーマ
中堅社員(入社4年目以降を想定)は、業務にも慣れて独り立ちし、部下や後輩もできる頃です。中堅社員に対しては、組織の中枢を担うことの自覚や育成担当者としてのスキル向上、管理職候補としてのマネジメントスキル向上などが必要となります。
具体的には以下の通りです。
- 担当業務の専門性向上(営業研修、技術研修など)
- メンター研修
- OJT研修(OJTトレーナーのための研修)
- マネジメント(管理職候補として)
- プレゼンテーションスキル強化
中堅社員向けの研修については、以下の記事でそれぞれ詳しく解説しているので、研修作りの参考にしてください。
OJT研修とは?目的や手順、優秀なトレーナーを育成するポイント
リーダー向けのテーマ
部下を育成する立場にいるリーダーの育成は、組織の成長や業績向上に大きな影響をおよぼすため、特に重要な研修です。
問題解決力やコーチング力といった、リーダーとしてのスキルセットはもちろん、リーダーとしてのマインドセットの醸成も重要です。
具体的には以下の通りです。
- リーダー研修
- コーチング
- メンタリング
- 分析力・判断力
リーダー育成については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
リーダー育成のポイント|必要なスキルや役割、課題別の育成方法
リーダー研修とは?リーダーに必要な能力や効果的な研修内容を解説
管理職向けのテーマ
管理職は、企業理念や経営層の経営方針やビジョンを正しく理解して、目標達成に向けマネジメントを行う役割です。そのため経営やマネジメントスキルに関するテーマが中心となります。
具体的には以下の通りです。
- 経営戦略
- マネジメント(現役の管理職として)
- 目標管理
- 人事評価
- 部下育成
全社員向けのテーマ
階層や入社時期など関係なく、全社員が学ぶべきテーマもあります。ハラスメント関連やコンプライアンスなど、法令やモラルに関するものが中心です。
具体的には以下の通りです。
- 各種ハラスメント
- コンプライアンス
- 情報セキュリティ
- チームビルディング
例外的に、チームビルディングは全階層・全社員が参加するゲームやスポーツのようなエンターテイメント要素が強いものがおすすめです。社内のチームワークの向上や、コミュニケーションの円滑化に寄与します。
研修を通じて人材育成を成功に導くポイント
研修は人材育成において重要な役割を果たしますが、単に研修を実施すればよいというわけではありません。研修の効果を最大限に引き出し、組織の目標達成につなげるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
事前準備から研修後のフォローアップまで、一連のプロセスを適切に管理することで、研修が人材育成の強力なツールとして機能するでしょう。
事前にスキル・能力の現状把握を行う
研修を通じて人材育成を成功に導く一つ目のポイントは、事前に参加者のスキル・能力の現状把握を行うことです。これは、研修の内容やテーマを自社のニーズに合致させるための重要なステップとなります。
具体的な方法としては、スキルアップや面談、または過去の評価結果などを用いて、参加者の現在のスキルレベルや課題を明確にします。
現状把握を行うことで、研修の内容を個々のニーズに合わせて調整することが可能となり、また参加者自身が自分の課題を認識する機会となるため、研修への参加意欲も高まります。つまり、事前のスキル・能力の現状把握は、研修がより効果的かつ効率的に進行するための基礎となるのです。
研修の意義を周知し参加へのモチベーションを高める
研修を通じた人材育成は、企業成長の大きな柱であり、個々のスキルアップにも繋がります。しかし、研修そのものの意義が理解されず、参加者のモチベーションが低いと、その効果は半減してしまいます。それを防ぐためには、研修の意義を周知することが求められます。
まず、研修の目的とその必要性を明確に伝えることが大切です。例えば、新入社員向け研修では「ビジネスマナーや社内ルールを学び、自立した社会人として活躍するための基盤を築く」といった具体的な内容を示すことで、研修の価値が伝わります。
また、適切なフィードバックや報酬システムを設けることも重要です。研修参加や成果による昇進や賞与の結びつきを示すことで、参加者のモチベーションは一層高まります。以下に一例を示します。
研修参加 | フィードバック | 報酬 |
---|---|---|
新入社員研修参加 | 上司からの評価向上 | 昇進の早期化 |
リーダーシップ研修達成 | チームからの信頼向上 | 賞与の増加 |
上記のように、研修の意義を周知し、参加者それぞれに具体的なメリットを感じさせることで、モチベーションを高め、効果的な人材育成に繋げることができます。
日常業務を考慮しつつ仕組みを整える
人材育成の重要性は理解していても、社員の日常業務が忙しく、なかなか研修の時間を確保できないケースもあります。
冒頭でも触れたとおり、人材育成研修の方法はさまざまです。集合研修やオンライン研修、eラーニングを組み合わせるなど、柔軟性を持たせて人材育成計画を立案することで、社員の時間的制約を考慮しましょう。
研修アンケートを実施し改善を繰り返す
人材育成の研修では、その効果を把握し、継続的な改善を図るために、研修後にアンケートを実施することが推奨されます。具体的には、研修の内容、方法、講師の質、理解度など、様々な観点から参加者のフィードバックを得ることが重要です。
例えば、以下のような質問項目を設けてみます。
- 研修へ参加する前に悩んでいたことは何ですか?
- 研修に参加して何を得ることができましたか?
- 研修で学んだことを活かして今日からどんな行動をしますか?
- 今回の研修を100点満点で採点すると何点ですか?
- 研修の運営に関して、ご意見やご要望を教えてください
今後、受講したい研修のテーマを教えてくださいこのアンケート結果を基に、研修内容の見直しや教材の改善、講師選定などの方法を試みることで、研修の品質向上につなげます。また、参加者の意見を反映させることで、より具体的なニーズに対応した研修を提供できるようになるでしょう。
研修アンケートの作り方については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
研修アンケートの項目例・作り方のコツを紹介【無料テンプレ付】
実践の機会を設ける
研修を成功へと導くために欠かせないポイントのひとつが、実践の機会を設けることです。なぜなら、研修で得た知識が仕事の場で活かされなければ意味がないからです。
具体的には、研修後にその内容を活用する機会をスケジュールに組み入れます。例えば、営業スキル研修を受けた後は、実際に顧客へのプレゼンテーションをスケジュールすると良いでしょう。
また、実践の場を設けることで、研修の成果が目に見える形で現れるため、受講者の達成感や自信を引き立てます。これにより、学習意欲を高め、受講者のさらなる自己成長を促すことができるでしょう。
まとめ
本記事では、人材育成における研修の役割から、研修の設計方法、階層別の研修テーマまで詳しく解説してきました。
研修プログラムの作成・見直しにおいて重要なことは、それが人材育成の目的に適っているかを評価することです。人材育成とは「企業に貢献できる人材を育成すること」ですが、研修前の現状把握や研修後のフォローアップは、この目的を達成するためのプロセスと言えます。この観点がなければ、受講者が意義を感じられない退屈な研修になりかねません。 研修は社員一人ひとりの成長に繋がる大切な機会です。その価値を理解し、研修を通じて社員の能力を引き出し、組織の成長に寄与するよう努めましょう。
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企業の発展に従業員の成長は欠かせません。しかし、多くの企業が
- 「人材育成を行う時間と余裕がない」
- 「どのように人材育成を進めるべきかがわからない」
- 「社員自身が人材育成の重要性を認識できていない」
といった悩みを抱えています。
社員が成長し、事業成果をあげるためには、時代の変化や企業課題にあわせた適切な育成手法の選択が欠かせません。
KIYOラーニングでは、人材育成にお悩みの企業担当者に向けて、最新の人材育成モデルやその実現ノウハウをまとめた『デジタル時代の人材育成モデル』を公開しています。
社員の学習が習慣化する仕組みなど、人材育成を成功に導くポイントが詰まっていますのでぜひご活用ください。