多くの企業でDXが検討、実施されている中でDXを推進するための人材育成の必要性が声高に叫ばれていますが、具体的に研修担当者が果たすべき役割は明確になっていません。
この記事では、IPAの調査結果(※)をもとにDX推進における課題を総括するとともに、その課題解決のために研修担当者が果たすべき役割を全3回にわたって解説します。
※「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」2019年5月17日
「DX推進人材の育成における課題と研修担当者の果たすべき役割(全3回)」
第2回「DX推進人材の現状と課題」
連載第2回の今回は、DX推進人材の現状と課題について解説します。
目次
DX推進人材を構成する6つの職種とは何か
IPA調査では、DX 推進を担う人材の状況についても調査を行っていますが、その際に、DX推進人材の種類として6つの職種を定義しています。
出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」
リーダー職であるプロデューサーと企画職であるビジネスデザイナーが、DXプロジェクトの推進、管理を行う立場にあり、他の4つの職種はそれぞれが固有の専門分野を持つ技術職になります。
技術職の中でアーキテクトとエンジニア/プログラマは、従来のITアーキテクトとITエンジニアとほぼ同義であり、UXデザイナーは従来のWebデザイナーの延長線上にある職種と考えられますが、データサイエンティスト/AIエンジニアは、ここ数年の間に急速に必要とされるようになった極めて新しい職種といえます。
特に重要視されているのは推進役となるリーダー職と企画職
それでは、IPA調査で定義された6つの職種について、企業はどの職種が重要と考えているのでしょうか?
IPA調査では、前述の6つの職種それぞれについての重要性を問い、回答を集計しています。
出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」
それによると、「非常に重要」と回答した割合が特に大きいのが、リーダー職であるプロデューサー(48.9%)と企画職であるビジネスデザイナー(52.2%)になっています。
DXにおいて最新テクノロジーの導入は重要ですが、最終目標はビジネス変革にありますから、自社のビジネス内容と今後の戦略を熟知した上でDXプロジェクトの推進、管理を行う立場にあるこの2つの職種が特に重要視されるのは当然の結果といえるでしょう。
不足感が強いのは推進役とデータサイエンティスト
次に、6つの職種について、どの職種が特に不足しているのかを見てみましょう。
IPA調査では、前述の6つの職種それぞれについての不足感を問い、回答を集計しています。
出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」
それによると、全ての職種において、「大いに不足」と回答した企業が35%以上にのぼっており、DX推進人材が全般的に不足していることがわかります。
その中でも、半数以上の企業が「大いに不足」と回答したのが、推進役のプロデューサー(51.1%)とビジネスデザイナー(50.0%)に加えてデータサイエンティスト/AIエンジニア(51.1%)となっています。
推進役であるプロデューサーとビジネスデザイナーの不足感が強いことは、多くの企業においてDXが初期段階にあり、中核となるべきDX専門組織自体がまだ確立されていないことがうかがえます。
データサイエンティスト/AIエンジニアの不足感が強いのは、この職種が極めて新しい職種であるためだと思われます。
他の技術職であれば、ITアーキテクトやWebデザイナーといった類似したスキルを持つ既存の社内人材をアサインすることが可能ですが、データサイエンティスト/AIエンジニアの場合、経験者を採用するか、既存の社内人材を未経験者としてアサインし、一から育成する必要があります。
このため、短期的な充足は難しく、結果として不足感が大きくなっていると考えられます。
育成方法は既存の社内人材からの育成が主流となっている
前述の調査結果から、DX推進人材が全般的に不足していることがわかりますが、その解消にむけて企業はどのような育成方法を用いているのでしょうか。
IPA調査では、6つの職種それぞれについての育成・獲得手段として、「既存の人材を育成」、「連携企業等から補完」、「中途採用により獲得」、「新卒採用により獲得」のうち、もっとも重視する手段を問い、回答を集計しています。
出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」
全体的な傾向としては、「既存の人材を育成」が主流となっていますが、その中でもプロデューサーとビジネスデザイナーの育成については、「既存の人材を育成」が特に重要視されていることがわかります。
これは外部の人材や新規に採用した人材では、自社のビジネスに対する理解が浅くDXプロジェクトの推進役は務まらないと考えられていることがうかがえます。
一方で、データサイエンティスト/AIエンジニアとUXデザイナーについては、「中途採用による獲得」を重視する割合が、わずかながら「既存の人材を育成」を重視する割合を上回っています。
データサイエンティスト/AIエンジニアは、前述したように、既存の社内人材を短期間に育成することが難しく、即戦力性をもとめるのであれば「中途採用による獲得」を重視せざるをえない状況にあると考えられます。
逆に、UXデザイナーは、前述の調査結果で比較的重要視されておらず、また不足感も強くないため、既存の社内人材の育成を考える上で、優先度が下がった結果、「中途採用による獲得」を重視する企業が多くなっていると考えられます。
一般社員の危機感の醸成とリテラシー向上も課題として強く認識されている
ここまで、DX推進人材の育成に焦点をあてて、IPA調査の結果をご説明してきましたが、DXを推進する上でのさまざまな課題の中で、DX推進人材の育成がどの程度重要視されているのかを最後に見てみましょう。
IPA調査では、DXを推進する上での自社の課題として「DXを担う能力のある人材が社内で育成できない」をはじめとする12項目をあげ、重要度の高いものを最大3つまで選択させる形式で問い、回答を集計しています。
出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」
その結果を見ると、DX推進人材の育成に直接関連する項目としては、「DXを担う能力のある人材が社内で育成できない」が3番目(34.8%)に、「DXを担う能力のある人材が社外から獲得できない」が9番目(15.2%)にランクされています。
「DXを担う能力のある人材が社外から獲得できない」と比較すると、「DXを担う能力のある人材が社内で育成できない」がはるかに上位にランクされていますが、これは前述の育成方法に関する設問の回答結果に見られるように、DX推進人材育成において既存の社内人材からの育成が主流となってためだと思われます。
「DXを担う能力のある人材が社内で育成できない」以外に上位にランクされた項目を見ると、「DXの前提となる将来への危機感が、企業全体になかなか浸透しない」、「ビジネスや組織の変革に対する社内の抵抗感が強い」、「DXを実現する上で、社員のITリテラシーが不十分である」といった一般社員の意識改革、リテラシー向上を必要とする項目が並んでいます。
このことは、DXを推進するためには、DXを担うコア人材の育成だけではなく、一般社員に対する啓蒙、教育活動も重要であることを示しています。
まとめ
IPA調査によると、ほとんどの企業でDXの必要性が強く認識されています。しかし、実際の取り組みは、DXの主眼であるビジネス変革ではなく、今までの延長線上にある「効率化と生産性の向上」が多くなっています。
さらに、具体的な成果が出ている企業は非常に少なく、もっとも積極的に取り組まれている「効率化と生産性の向上」でさえ、成果の出ている企業は3割にも満たないという結果になっています。
さらに、この調査では、成果の出ている数少ない企業の特徴を分析していますが、もっとも顕著な特徴として「DX専門組織」を設置していることをあげています。
IPA調査の結果から、DXを推進するためには、既存の社内人材の中からDXを担うコア人材を育成するとともに、一般社員に対する啓蒙、教育活動も重要であることがわかります。
そこで、次回は、DX推進におけるこれらの課題の解決に向けて研修担当者の果たすべき役割を解説します。
「DX推進人材の育成における課題と研修担当者の果たすべき役割(全3回)」
第2回「DX推進人材の現状と課題」