DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法│第1回「プロデューサーとビジネスデザイナー」

多くの企業でDXを推進するための人材育成の必要性は認識されているものの、実際にどのような役割とスキルを持った人材が必要かを定義し、具体的な育成プランを立てている企業は、まだ少ないのが現状です。

この記事では、IPAが定義したDX推進人材を構成する6つの職種を基準に、それぞれの職種で必要となるスキルとその育成方法について全3回にわたって解説します。

「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)

第1回「プロデューサーとビジネスデザイナー」

第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」

第3回「UXデザイナーとエンジニア」

連載第1回の今回は、プロデューサーとビジネスデザイナーについて解説します。

DX推進人材を構成する6つの職種

独立行政法人情報処理推進機(以下IPA)が、2019年5月17日に公開した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」(以下、IPA調査)では、DX 推進を担う人材の状況について調査を行っていますが、その際に、DX推進人材の種類として6つの職種を定義しています。

出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」

リーダー職であるプロデューサーと企画職であるビジネスデザイナーが、DXプロジェクトの推進、管理を行う立場にあり、他の4つの職種はそれぞれが固有の専門分野を持つ技術職になります。

技術職の中でアーキテクトとエンジニアは、従来のITアーキテクトとITエンジニアとほぼ同義であり、UXデザイナーは従来のWebデザイナーの延長線上にある職種と考えられますが、データサイエンティストは、ここ数年の間に急速に必要とされるようになった極めて新しい職種といえます。

ここからは、このIPA調査で定義された6つの職種を基準に、それぞれの職種で必要となるスキルとその育成方法について解説していきます。

プロデューサーの役割と必要とされるスキル

IPA調査では、プロデューサーは「DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材」と定義されていますが、これだけでは具体性に欠けます。

プロデューサーの役割と必要とされるスキルについては、ITリサーチ企業ITRのエグゼクティブ・アナリスト内山悟志氏の著書「デジタル時代のイノベーション戦略」(技術評論社より2019年6月7日に発売)において、より詳細に定義されています。

内山氏によると、プロデューサーの役割とは「顧客・パートナー・事業部門との良好な関係を構築・維持し、イノベーションの創出から事業化までの全プロセスを一貫して統括する」ことであり、必要とされるスキルは以下の3つとなります。

  • ビジネス・マネジメント力
    • 事業全体を俯瞰的に把握し、投資や経営資源の配分などに対して的確な意思決定ができる
  • 外部環境把握力
    • 自社の業界を理解し、ビジネスを取り巻く社会・経済の環境変化と将来動向を読み解ける
  • 組織牽引力
    • 内部・外部の人材・組織を巻き込みながら、人脈を拡大し、必要となる体制構築や予算確保を牽引する

プロデューサーの育成方法

それでは、プロデューサーの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。

前述のIPA調査では、6つの職種それぞれについての育成・獲得手段として、「既存の人材を育成」、「連携企業等から補完」、「中途採用により獲得」、「新卒採用により獲得」のうち、もっとも重視する手段を問い、回答を集計しています。

それによると、プロデューサーの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「既存の人材を育成(29.3%)」、「中途採用により獲得(15.2%)」、「連携企業等から補完(1.1%)」、「新卒採用により獲得(0%)」となっており、「既存の人材を育成」が特に重要視されていることがわかります。これは外部の人材や新規に採用した人材では、自社のビジネスに対する理解が浅くDXプロジェクトのリーダー役は務まらないと考えられていることがうかがえます。

実際に内山氏の定義したプロデューサーに求められる3つのスキルを見ると、「事業全体を俯瞰的に把握」、「自社の業界を理解」、「内部・外部の人材・組織を巻き込み」といった条件が並んでおり、自社のビジネスや組織に対する理解なくしては、プロデューサーは務まらないといえます。

したがって、すでに求められるスキルを持っていると思われる既存の人材から候補者を選抜し、DXに必要な知識を習得させ、経験を積ませるといった、ある程度長期的な計画のもとに育成をはかる必要があるといえます。

ビジネスデザイナーの役割と必要とされるスキル

IPA調査では、ビジネスデザイナーの役割について「DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材」という簡単なものしか定義されていませんが、こちらについても、前述の内山氏の著書において、必要とされるスキルとともにより詳細に定義されています。

内山氏によると、ビジネスデザイナーの役割とは「マーケットや顧客の課題やニーズをくみ取って、ビジネスやサービスを発想し、能動的に提案を行ったり、事業部門やパートナーと共に企画を構築する」ことであり、必要とされるスキルは以下の3つとなります。

  • 着想力
    • 市場や顧客の課題やニーズをくみ取って、ビジネスやサービスを発想し、それを有効なコンセプトに発展させることができる
  • 企画構築力
    • アイデアやコンセプトを、分析・組み合わせ・図解・説明などを駆使して、魅力ある企画に仕立て上げることができる
  • ファシリテーション力
    • ビジネスの現場やチーム内の合意形成や相互理解をサポートし、議論の活性化および協調的活動を促進させる

ビジネスデザイナーの育成方法

それでは、ビジネスデザイナーの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。

前述のIPA調査では、ビジネスデザイナーについても育成・獲得手段に対する回答が集計されており、それによると、ビジネスデザイナーの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「既存の人材を育成(31.5%)」、「中途採用により獲得(12.0%)」、「連携企業等から補完(4.3%)」、「新卒採用により獲得(0%)」となっており、プロデューサーと同様に「既存の人材を育成」が特に重要視されていることがわかります。

しかし、その理由は、プロデューサーとは異なり、ビジネスデザイナーには、経営企画、営業・マーケティングといった既存の部門の人材が適用できる可能性が高いためだと考えられます。

実際に内山氏の定義したビジネスデザイナーに求められる3つのスキルのうち、「着想力」と「企画構築力」は、経営企画部門や営業・マーケティング部門に必要なものであり、ビジネスデザイナーには、これらの部門に所属する既存の人材の適合度が高いと考えられます。

これを間接的ではありますが、裏付けるデータがIPA調査の中にあります。「DX専門部署以外でDXを担当している部署は」という問いに対して、「情報システム部門(56.5%)」についで、「経営企画部門(31.5%)」と「営業・マーケティング部門(20.7%)」が多いという結果になっています。

出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」

この結果から直接いえることは、DX専門部署を設置しない企業においては、情報システム部門についで、経営企画や営業・マーケティング部門が担当部署となるケースが多いということですが、その理由を考えると、DX推進人材として選抜される社員がこれらの部署に多いということになります。

より具体的には、アーキテクトやエンジニアといったIT系の職種については情報システム部門から、ビジネスデザイナーといった企画系の職種については経営企画や営業・マーケティング部門から選抜されるケースが多いと考えられます。

経営企画や営業・マーケティング部門から選抜されるビジネスデザイナー候補者は、「着想力」と「企画構築力」については即戦力性が期待できますので、残るスキルは「ファシリテーション力」となります。

多くの企業では、標準的にファシリテーション研修を実施していますが、ほとんどの場合、基礎的なレベルにとどまります。

ビジネスデザイナーに要求される「ファシリテーション力」は、かなり高度なレベルが要求されますので、外部の研修機関などで、改めて上級レベル向けのファシリテーション研修を受講させるといった施策が望まれます。

まとめ

DX推進人材を構成する6つの職種のうち、プロデューサー「顧客・パートナー・事業部門との良好な関係を構築・維持し、イノベーションの創出から事業化までの全プロセスを一貫して統括する」ことを役割とする職種であり、「ビジネス・マネジメント力」、「外部環境把握力」、「組織牽引力」の3つのスキルが必要となります。

これらのスキルは、自社のビジネスや組織に対する理解を必要するものばかりであるため、すでに求められるスキルを持っていると思われる既存の人材から候補者を選抜し、DXに必要な知識を習得させ、経験を積ませるといった、ある程度長期的な計画のもとに育成をはかる必要があるといえます。

ビジネスデザイナー「マーケットや顧客の課題やニーズをくみ取って、ビジネスやサービスを発想し、能動的に提案を行ったり、事業部門やパートナーと共に企画を構築する」ことを役割とする職種であり、「着想力」、「企画構築力」、「ファシリテーション力」の3つのスキルが必要となります。

「着想力」と「企画構築力」は、通常、経営企画部門や営業・マーケティング部門の社員に求められるスキルであるため、これらの部門から選抜された候補者に対して、残る「ファシリテーション力」を付けさせるための研修を行うなどの育成方法が望ましいと思われます。

今回は、DX推進人材を構成する6つの職種のうち、プロデューサーとビジネスデザイナーについて、必要となるスキルとその育成方法について解説しました。次回は、アーキテクトとデータサイエンティストについて解説します。

「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)

第1回「プロデューサーとビジネスデザイナー」

第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」

第3回「UXデザイナーとエンジニア」

ABOUTこの記事をかいた人

平井 明夫

ソフトウエアベンダーやコンサルティング会社で20年以上にわたりコンサルティング、企業経営に携わる。現在は、IT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、データ分析、人材管理、LMSなどに関する講演・執筆活動を行っている。