多くの企業でDXを推進するための人材育成の必要性は認識されているものの、実際にどのような役割とスキルを持った人材が必要かを定義し、具体的な育成プランを立てている企業は、まだ少ないのが現状です。
この記事では、IPAが定義したDX推進人材を構成する6つの職種を基準に、それぞれの職種で必要となるスキルとその育成方法について全3回にわたって解説します。
「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)
第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」
連載第2回の今回は、アーキテクトとデータサイエンティストについて解説します。
アーキテクトの役割と必要とされるスキル
IPA調査では、アーキテクトは「DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材」と定義されていますが、これは、IPAが別途作成しているITSS(ITスキル標準)において、ITアーキテクトとして定義されている職種とほぼ同等といえます。
ITSSにおいて、ITアーキテクトの役割はより具体的に「ビジネス及びIT上の課題を分析し、ソリューションを構成する情報システム化要件として再構成する。
ハードウェア、ソフトウェア関連技術を活用し、顧客のビジネス戦略を実現するために情報システム全体の品質を保ったITアーキテクチャを設計する」となっていますが、DX推進人材におけるアーキテクトの活動対象が「DXやデジタルビジネスに関する」システムに限定されている以外は、ほぼ同じ内容といえます。
したがって、アーキテクトに必要されるスキルを考える場合、ITSSで定義されているITアーキテクトのスキルをそのまま当てはめることができます。
ITSSでは、ITアーキテクトに必要とされるスキルとして「アーキテクチャ設計」、「設計技法」、「標準化と再利用」、「コンサルティング技法の活用」、「知的資産管理(Knowledge Management)活用」、「テクノロジ」、「インダストリ(ビジネス)」、「プロジェクトマネジメント」、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」の11項目が定義されています。
出典:ITスキル標準V3 2011
アーキテクトの育成方法
それでは、アーキテクトの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。
前述のIPA調査では、アーキテクトについても育成・獲得手段に対する回答が集計されており、それによると、アーキテクトの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「既存の人材を育成(20.7%)」、「中途採用により獲得(15.2%)」、「連携企業等から補完(9.8%)」、「新卒採用により獲得(0%)」となっており、プロデューサー、ビジネスデザイナーと比較すると順位は変わりませんが、比率については、「既存の人材を育成」が減り、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」が増えています。
アーキテクトに必要なスキルは、「アーキテクチャ設計」、「設計技法」、「標準化と再利用」、「コンサルティング技法の活用」、「知的資産管理(Knowledge Management)活用」、「テクノロジ」といった純粋に技術的なスキルと、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」といった一般的なスキルが中心となっているため、自社のビジネスや組織に対する理解の重要度は比較的低くなります。
したがって、「中途採用により獲得」や「連携企業等から補完」という方法が選択肢として十分考えられます。
一方、「既存の人材を育成」の候補者は、ほとんど情報システム部門に限られますが、アーキテクトはIT技術者の中でも、もっとも高いスキルレベルが要求される職種の一つであるため、候補者は極めて限られます。
そのため、情報システム部門から選抜される人材といっても、即戦力性が保証されるわけではなく、研修やOJTによる育成期間を必要とする可能性も高く、これが「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の比率が増加する要因の一つになっていると考えられます。
既存の人材からアーキテクトを育成したり、外部から採用、補完したりする際に、スキルレベルの確認基準となるのが、情報処理技術者試験の一つであるSA(システムアーキテクト)試験です。
SA試験の対象者は「情報システムの開発に必要となる要件を定義し、それを実現するためのアーキテクチャを設計し、開発を主導する者」とされており、ITSSでのITアーキテクトの役割とほぼ同じ内容になっています。
そのため、「既存の人材を育成」の場合は、SA試験の合格がゴールの目安となりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、SA試験合格者かどうかがスキルレベルを確認するための一つの基準となりえます。
データサイエンティストの役割と必要とされるスキル
データサイエンティストは、DX推進人材とは関係なく、一般的な通念がある程度形成されている職種です。
データサイエンティスト協会は、「データサイエンティストの育成のため、その技能(スキル)要件の定義・標準化を推進」する目的で設立された一般社団法人ですが、その設立の背景説明の中で、データサイエンティストは「センサー・通信機器の発達、ネットサービスの普及などにより、収集・蓄積が可能となった膨大なデータ(ビッグデータ)から、ビジネスに活用する知見を引き出す中核人材」と定義されています。
また、データサイエンティスト協会は、データサイエンティストに必要とされるスキルとして「ビジネス力」、「データサイエンス力」、「データエンジニアリング力」の3つを定義しています。
出典:データサイエンティスト協会によるプレスリリース(2014年12月10日)
データサイエンティストの育成方法
それでは、データサイエンティストの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。
前述のIPA調査では、データサイエンティストについても育成・獲得手段に対する回答が集計されており、それによると、データサイエンティストの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「中途採用により獲得(16.3%)」、「既存の人材を育成(15.2%)」、「連携企業等から補完(10.9%)」、「新卒採用により獲得(2.2%)」となっており、前述の3職種と比較すると、「中途採用により獲得」の比率が「既存の人材を育成」を上回っていることと、少数ではあるものの「新卒採用により獲得」と回答した企業があることの2つが特徴となっています。
データサイエンティストは、きわめて新しい職種であるため、既存の人材の中には即戦力性のある候補者が見当たらず、かといって、必要とされるスキルに「ビジネス力」が含まれるため、自社のビジネス・組織に対する理解を求めるのが難しい「連携企業等から補完」という方法をとることも躊躇せざるをえません。
その結果として、「中途採用により獲得」と「新卒採用により獲得」という長期的なスパンでの内部人材の育成という方法が選択されているものと考えられます。
データサイエンティストを育成する際に、スキルレベルの確認基準となるのが、データサイエンティスト協会が公開している「DSスキルチェック」です。
「DSスキルチェック」では、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つについて、あわせて422項目のスキルをチェックすることができ、3つのスキルそれぞれについて、棟梁レベル・独り立ちレベル・見習いレベルの3レベルでスキルレベルを判定することができるようになっています。
まとめ
DX推進人材を構成する6つの職種のうち、アーキテクトは、「DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計する」ことを役割とする職種であり、IPAのITSSで定義されているITアーキテクトとほぼ同等な職種といえます。
アーキテクトとして必要とされるスキルは、IPAのITアーキテクトに準ずると「アーキテクチャ設計」、「設計技法」、「標準化と再利用」、「コンサルティング技法の活用」、「知的資産管理(Knowledge Management)活用」、「テクノロジ」、「インダストリ(ビジネス)」、「プロジェクトマネジメント」、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」の11項目となります。
アーキテクトに必要なスキルは、純粋に技術的なスキルと一般的なスキルが中心となっているため、自社のビジネスや組織に対する理解の重要度は比較的低くなります。
さらに、情報システム部門においても、上級レベルの技術力を必要とするITアーキテクトの数は少なく、即戦力性のある人材を選抜することは簡単ではありません。
その結果、アーキテクトの育成方法としては、「中途採用により獲得」や「連携企業等から補完」も有力な選択肢となります。
アーキテクトの育成においては、SA試験をスキルレベルの確認基準とすることができます。
「既存の人材を育成」の場合は、SA試験の合格がゴールの目安となりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、SA試験合格者かどうかがスキルレベルを確認するための一つの基準となりえます。
データサイエンティストは、DX推進人材とは関係なく、一般的な通念がある程度形成されている職種であり、データサイエンティスト協会により「センサー・通信機器の発達、ネットサービスの普及などにより、収集・蓄積が可能となった膨大なデータ(ビッグデータ)から、ビジネスに活用する知見を引き出す中核人材」と定義されています。
また、データサイエンティスト協会は、データサイエンティストに必要とされるスキルとして「ビジネス力」、「データサイエンス力」、「データエンジニアリング力」の3つを定義しています。
データサイエンティストは、既存の人材の中から即戦力性のある候補者が選抜することが難しい一方で、自社のビジネス・組織に対する理解を必要とする「ビジネス力」が要求されため、「連携企業等から補完」も同様に難しいといえます。
結果として、「中途採用により獲得」と「新卒採用により獲得」という長期的なスパンでの内部人材の育成という方法を選択する企業が多いのが実状です。
データサイエンティストの育成においては、「DSスキルチェック」をスキルレベルの確認基準とすることができます。
「DSスキルチェック」では、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つについて、棟梁レベル・独り立ちレベル・見習いレベルの3レベルでスキルレベルを判定することができます。
今回は、DX推進人材を構成する6つの職種のうち、アーキテクトとデータサイエンティストについて、必要となるスキルとその育成方法について解説しました。次回は、UXデザイナーとエンジニアについて解説します。
「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)
第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」