DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法│第3回「UXデザイナーとエンジニア」

多くの企業でDXを推進するための人材育成の必要性は認識されているものの、実際にどのような役割とスキルを持った人材が必要かを定義し、具体的な育成プランを立てている企業は、まだ少ないのが現状です。

この記事では、IPAが定義したDX推進人材を構成する6つの職種を基準に、それぞれの職種で必要となるスキルとその育成方法について全3回にわたって解説します。

「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)

第1回「プロデューサーとビジネスデザイナー」

第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」

第3回「UXデザイナーとエンジニア」

連載第3回の今回は、UXデザイナーとエンジニアについて解説します。

UXデザイナーの役割と必要とされるスキル

IPA調査では、UXデザイナーは「DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材」と定義されていますが、これは、一般的にUIデザイナーもしくはWebデザイナーと呼ばれる職種とほぼ同等といえます。

システムのUI(ユーザーインターフェース)が、WindowsなどのOS(オペレーティングシステム)固有のものから、Webブラウザーに移行した時代に、システムの機能の中でも、UIの使い勝手が非常に重要視され始めた結果、UI開発を専門とするエンジニアが登場しました。

したがって、UIデザイナー/Webデザイナーは「システムのユーザー向けデザインを担当する人材」と定義することができ、これは、DX推進人材におけるUXデザイナーの活動対象が「DXやデジタルビジネスに関する」システムに限定されている以外は、ほぼ同じ内容といえます。

したがって、UXデザイナーに必要されるスキルを考える場合、UIデザイナー/Webデザイナーに求められるスキルをそのまま当てはめることができます。

UIデザイナー/Webデザイナーに求められるスキルは、特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が実施しているウェブデザイン技能検定の試験科目が参考になります。

ウェブデザイン技能検定は1級から3級までに分かれていますが、試験科目は以下の10項目で共通していますので、これら10項目がUIデザイナー/Webデザイナーに求められるスキルといえるでしょう。

1.インターネット概論

2.ワールドワイドウェブ(WWW)法務

3.ウェブデザイン技術

4.ウェブ標準

5.ウェブビジュアルデザイン

6.ウェブインフォメーションデザイン

7.アクセシビリティ・ユニバーサルデザイン

8.ウェブサイト設計・構築技術

9.ウェブサイト運用・管理技術

10.安全衛生・作業環境構築

UXデザイナーの育成方法

それでは、UXデザイナーの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。

前述のIPA調査では、UXデザイナーについても育成・獲得手段に対する回答が集計されており、それによると、UXデザイナーの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「中途採用により獲得(18.5%)」、「既存の人材を育成(15.2%)」、「連携企業等から補完(10.9%)」、「新卒採用により獲得(1.1%)」となっており、同じ技術専門職であるアーキテクトと比較すると、「中途採用により獲得(15.2%→18.5%)」と「連携企業等から補完(9.8%→10.9%)」の比率が大きく、逆に「既存の人材を育成(20.7%→15.2%)」の比率は大幅に低くなっています。この傾向の原因としては2つ考えられます。

UXデザイナーに必要なスキルは、アーキテクトと同様に技術的なスキルに特化しているため、自社のビジネスや組織に対する理解の重要度は比較的低くなると同時に、企業内システムを担当する情報システム部門では、UIデザイナー/Webデザイナーを必要とする領域は重要ではあっても、その担当範囲がシステム全体に占める割合は大きくないため、もともと「既存の人材を育成」するための候補者が少ないといえます。

また、UXデザイナーの育成に関しては、IPA調査で、前述の4職種に比べると、優先度が低いと判断されているという結果がでています。

IPA調査では、DX推進人材を構成する6つの職種に関して、それぞれの重要度に対する回答が集計されており、それによると、UXデザイナーの重要性を「非常に重要(18.5%)」または「ある程度重要(39.1%)」とした割合は、過半数を超えているものの、「非常に重要(18.5%)」とした割合は、前述の4つの職種と比べると非常に低いという結果になっています。

つまり、多くの企業では、UXデザイナーの育成が必要とは考えているものの、他の職種の育成を優先せざるを得ない状況にあり、UXデザイナーについては優先度が下がる傾向にあるといえ、このことが、「既存の人材を育成」の割合を大きく減らす原因となっていると考えられます。

出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」

とはいえ、UXデザイナーもDX推進人材を構成する重要な職種であることには変わりがなく、育成のための何らかの施策が必要となります。

そこで、既存の人材からUXデザイナーを育成したり、外部から採用、補完したりする際に、スキルレベルの確認基準となるのが、前述のウェブデザイン技能検定です。

ウェブデザイン技能検定は、職業能力開発促進法に基づく技能検定の一つであるため、国家資格といえます。

また、試験の等級が1級から3級までの3段階に分かれており、合格者のスキルレベルをさらに細かく判定できます。

したがって、「既存の人材を育成」の場合は、ウェブデザイン技能検定3級の合格から上位試験への挑戦がスキルアップのパスとなりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、ウェブデザイン技能検定合格者かどうかと合格した等級がスキルレベルを確認するための基準となりえます。

エンジニアの役割と必要とされるスキル

IPA調査では、エンジニアは「デジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材」と定義されていますが、これは、一般的にシステムの実装やインフラ構築を担うITエンジニアと呼ばれる職種とほぼ同等といえます。

しかし、ひとくちにITエンジニアといっても、その役割は幅広く、必要とされるスキルも多岐にわたります。

ITエンジニアの役割と必要されるスキルを考える場合、前述のITSSが参考になります。

ITSSでは、前述のITアーキテクトも含めて全部で8つの職種が定義されていますが、その中で、システムの実装やインフラ構築において中心的な役割を果たすのは、ITスペシャリストとアプリケーションスペシャリストの2つの職種です。

出典:ITスキル標準V3 2011

したがって、エンジニアに必要されるスキルを考える場合、ITSSで定義されているITスペシャリスト及びアプリケーションスペシャリストのスキルをそのまま当てはめることができます。

ITSSでは、ITスペシャリストに必要とされるスキルとして「テクノロジ」、「ソフトウエアエンジニアリング」、「業務分析」、「コンサルティング技法の活用」、「知的資産管理(Knowledge Management)活用」、「プロジェクトマネジメント」、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」の9項目が定義されています。

出典:ITスキル標準V3 2011

一方、アプリケーションスペシャリストについては、ITスペシャリストと同じ9項目に加えて、要件定義などを行う「デザイン」スキルが必要とされます。

エンジニアの育成方法

それでは、エンジニアの育成にはどのような方法がとられているのでしょうか。

前述のIPA調査では、エンジニアについても育成・獲得手段に対する回答が集計されており、それによると、エンジニアの育成・獲得手段として回答が多かったのは、順に「既存の人材を育成(16.3%)」、「連携企業等から補完(13.0%)」、「中途採用により獲得(12.0%)」、「新卒採用により獲得(3.3%)」となっており、同じ技術専門職であるUXデザイナーと比較すると、「既存の人材を育成(15.2%→16.3%)」と「連携企業等から補完(10.9%→13.0%)」の比率が大きく、逆に「中途採用により獲得(18.5%→12.0%)」の比率は大幅に低くなっています。

エンジニアに必要なスキルは、一般的なITエンジニアとほぼ同等であると同時に、アーキテクトほど高度なスキルレベルは要求されないため、既存の情報システム部門から候補者を選抜することである程度の要員を確保することができると思われます。

さらに、「既存の人材を育成」するだけでは、要員数が不足する場合であっても、外部からITエンジニアを請負や派遣の形態で充足させることが、他の職種に比べると容易であることが、「中途採用により獲得」よりも「連携企業等から補完」の比率が大きくなっている原因と考えられます。

既存の人材からエンジニアを育成したり、外部から採用、補完したりする際に、スキルレベルの確認基準となるのが、情報処理技術者試験の中のFE(基本情報技術者)試験とAP(応用情報技術者)試験の2つです。

ITSSでは全職種共通に、1から7までのスキルレベルが定義されていますが、このうち、FE試験はレベル2を、AP試験はレベル3を対象としています。

出典:ITスキル標準V3 2011

したがって、「既存の人材を育成」の場合は、FE試験の合格から上位試験であるAP試験への挑戦がスキルアップのパスとなりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、FE試験及びAP試験の合格者かどうかと合格した試験の種類がスキルレベルを確認するための基準となりえます。

まとめ

UXデザイナーは「DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する」ことを役割とする職種であり、一般的にUIデザイナーもしくはWebデザイナーと呼ばれる職種とほぼ同等といえます。

UIデザイナー/Webデザイナーに求められるスキルは、特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が実施しているウェブデザイン技能検定の試験科目に準ずると、「インターネット概論」「ワールドワイドウェブ(WWW)法務」、「ウェブデザイン技術」、「ウェブ標準」、「ウェブビジュアルデザイン」、「ウェブインフォメーションデザイン」、「アクセシビリティ・ユニバーサルデザイン」、「ウェブサイト設計・構築技術」、「ウェブサイト運用・管理技術」、「安全衛生・作業環境構築」の10項目となります。

UXデザイナーの育成方法は、同じ技術専門職であるアーキテクトと比較すると、「中途採用により獲得」と「連携企業等から補完」の比率が大きく、逆に「既存の人材を育成」の比率は大幅に低くなっています。

これは、企業内システムを担当する情報システム部門では、UIデザイナー/Webデザイナーを必要とする領域は重要ではあっても、その担当範囲がシステム全体に占める割合は大きくないため、もともと「既存の人材を育成」するための候補者が少ないことと、UXデザイナーの育成に関して他の職種に比べると優先度が低いと判断されているという2つの原因が考えられます。

UXデザイナーの育成においては、ウェブデザイン技能検定をスキルレベルの確認基準とすることができます。

「既存の人材を育成」の場合は、ウェブデザイン技能検定3級の合格から上位試験への挑戦がスキルアップのパスとなりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、ウェブデザイン技能検定合格者かどうかと合格した等級がスキルレベルを確認するための基準となりえます。

エンジニアは「デジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う」ことを役割とする職種であり、一般的にITエンジニアと呼ばれる職種とほぼ同等といえます。

ITエンジニアに求められるスキルは、前述のITSSのITスペシャリストとアプリケーションスペシャリストについて定義されている「テクノロジ」、「ソフトウエアエンジニアリング」、「業務分析」、「コンサルティング技法の活用」、「知的資産管理(Knowledge Management)活用」、「プロジェクトマネジメント」、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」、「デザイン」の10項目となります。

エンジニアの育成方法は、UXデザイナーと比較すると、「既存の人材を育成」と「連携企業等から補完」の比率が大きく、逆に「中途採用により獲得」の比率は大幅に低くなっています。

「既存の人材を育成」の比率が大きいのは、エンジニアには、さほど高度なスキルレベルは要求されないため、既存の情報システム部門から候補者を選抜することで、ある程度の要員を確保できることが原因と考えられ、「中途採用により獲得」よりも「連携企業等から補完」の比率が大きいのは、外部からITエンジニアを請負や派遣の形態で充足させることが、他の職種に比べると容易であるためと考えられます。

エンジニアの育成においては、FE(基本情報技術者)試験とAP(応用情報技術者)試験の2つをスキルレベルの確認基準とすることができます。

「既存の人材を育成」の場合は、FE試験の合格から上位試験であるAP試験への挑戦がスキルアップのパスとなりますし、「中途採用により獲得」、「連携企業等から補完」の場合は、FE試験及びAP試験の合格者かどうかと合格した試験の種類がスキルレベルを確認するための基準となりえます。

「DX推進人材を構成する6つの職種とその育成方法」(全3回)

第1回「プロデューサーとビジネスデザイナー」

第2回「アーキテクトとデータサイエンティスト」

第3回「UXデザイナーとエンジニア」

ABOUTこの記事をかいた人

ソフトウエアベンダーやコンサルティング会社で20年以上にわたりコンサルティング、企業経営に携わる。現在は、IT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、データ分析、人材管理、LMSなどに関する講演・執筆活動を行っている。