OJTを制度化せず、日常業務や引継ぎなどで自然発生する教育をOJTとしている企業も多いのではないでしょうか。
ただ自然発生的なOJTでは、せっかくの実務経験や現場での指導が知識として定着しにくい、教える社員によって教育内容が異なるなど、さまざまな問題が発生しがちです。
こうした問題を発生させないためには、「OJT制度」を構築して意図的・計画的・継続的にOJTを行う必要があります。
OJT制度が整うことで、本来の目的であるOJT対象者の「早期戦力化・業務へのモチベーションアップ・定着率の向上」も実現しやすくなるでしょう。
そこで本記事では、OJT制度の構築方法と注意点、より効果を高めるための方法を徹底解説します。
OJT制度とは
OJT制度とは、OJTが現場任せや自然発生的に行われるのではなく、「意図的・計画的・継続的」に行うための取り決めのことです。
- 意図的:何を目的として行うかが明確であること
- 計画的:誰をいつまでにどのレベルまで育成するかなどが定めてあること
- 継続的:一定期間のなかで繰り返し育成が行われること
では次にOJT制度の目的と必要性を確認しましょう。
OJT制度の目的と必要性
OJT制度の目的は、「意図的・計画的・継続的」なOJTを通じて、OJT対象者の「早期戦力化・業務へのモチベーションアップ・定着率の向上」を実現させることです。
そもそもOJT(On-the-Job Training)とは、職場での実務経験を通じて知識やスキルを習得する育成方法です。主に新人を対象として、同じ部署の上司や先輩がトレーナーとなり育成を行います。
ただ、各部署とも日常業務に追われるなかで、明確な目的や計画もなく効果的なOJTを行うのは困難なのが実状です。先輩社員が新人に対して必要に応じて行う業務説明や指導までにとどまるケースも少なくありません。
そこで、OJTを意図的・計画的・継続的に行うための取り決めであるOJT制度が必要となるのです。
OJT制度により目的を明確に示し、計画を定めて継続したOJTが実施されれば、OJT対象者の「早期戦力化・業務へのモチベーションアップ・定着率の向上」を実現できるでしょう。
OJT制度の構築方法
OJT制度の構築はどのように行えばよいのでしょうか。以下で具体的な構築方法を解説します。
自社におけるOJTの目的を明確にする
まず自社のOJTは誰をどう育成するために実施するのかを明確にします。
一般的なOJTの目的は以下の通りです。
- OJT対象者の早期戦力化(実務に必要な知識・スキルの習得)
- OJT対象者の業務に対するモチベーションアップ
- OJT対象者の帰属意識の向上(退職防止)
OJTは、新しく入社した社員を対象に実施される育成手法として認識されがちです。ただし、本来OJT対象者は年齢や社歴は関係なく新入社員に限りません。
自社においては、新入社員を早期戦力化するために実施するのか、伸び悩む中堅社員のモチベーションや帰属意識を高めるために行うのかなどを明確にしましょう。
OJT対象者の選出基準を設定する
OJTの対象となる社員の選出基準を具体的に設定します。
対象となる基準を具体的にしておくことで、その都度迷わずにOJT実施が可能です。
例えば、OJTの目的として「新入社員の早期戦力化を目的としたOJT実施」を設定した場合には、「新入社員」とは新卒だけでなく中途も含むのか、具体的に入社何か月目の新入社員が対象なのかなどを具体的に設定しましょう。
その他には、新入社員であれば「正社員登用時」、既存社員であれば「部署異動後3か月目」なども基準にできます。
選出に柔軟性をもたせるために「各部署の所属長が必要と判断した場合」といった選出条件を設けておくのもよいでしょう。
トレーナーの選出基準を設定する
OJTで育成を担当するトレーナーの選出基準を設定します。トレーナーの選出基準は「入社何年以降から担当可能」のように、時期やタイミングに関する基準は大まかでも構いません。
代わりに質的な選出基準が必要となります。具体的には、業務負担が過度にならないか、担当業務を問題なく行えるかなどです。
そのため、業務状況をふまえた判断が可能な直属の上司が選出するのがよいでしょう。
OJTはトレーナー自身が成長できる機会でもあります。一通りの業務はこなせるものの伸び悩む社員をトレーナーの任に就かせることで、気づきと成長を促す機会としても活用できます。
またトレーナーを経験することで、管理職に求められるスキルを磨くことも可能です。管理職としての活躍を期待する社員を選出するのもよいでしょう。
ポイントは「なぜ選出されたかをトレーナー本人に説明できること」です。
OJTの基本スケジュールを設定する
OJTを「いつ・どのくらいの期間」で行うのかを設定します。
まず「いつ」について、原則として部署ごとの繁忙期は避けましょう。繁忙期に無理をしてOJTを行うとトレーナーの負担が増してしまい、OJT対象者の育成を十分に行えません。繫忙期にのみ発生する業務についてOJTを行いたい場合は、例外的に当該業務のみを短期集中で実施しましょう。
次に「どのくらいの期間」については、各目的に応じて基本となる期間を設定しましょう。
例えば「新入社員の早期戦力化を目的としたOJT」の場合であれば目安は3か月以上、少なくとも1か月以上は実施期間を設けることをお勧めします。期間が短いとトレーナー・OJT対象者ともに気が焦り短期間で知識を詰め込むことになりがちです。焦って詰め込んだ知識は定着しづらく、早期戦力化の目的を果たせません。
また「中堅社員の特定業務におけるスキルアップを目的としたOJT」の場合であれば、難易度に応じて1週間〜1ヶ月程度で設定するとよいでしょう。
特定の業務であれば、現担当のベテラン社員にスキル習得に必要となる期間の目安を確認してから設定も可能です。
OJTの基本的な進め方を定めておく
どのようにOJTを進めるべきかを定めることで、各トレーナーがOJTをスムーズに行えるようにしつつ、教え方に統一性をもたせます。
OJTの基本手法である「4つのステップと3つのポイント」を基に定めるのがよいでしょう。
OJT4つのステップ
OJTは以下の4ステップを意識するとスムーズに行えます。
- Show(やってみせる):実際に手本を見せて具体的なイメージを持ってもらう
- Tell(説明・解説する):手本について理由(なぜそうしたか)などを説明する
- Do(やらせてみる):OJT対象者に実施させる
- Check(評価・指導をする):フィードバックを行うことで知識として定着化させる
OJT3つのポイント
「意図的・計画的・継続的」であることはOJT制度の構築時だけでなく、以下の通りOJT実施時においても重要なポイントです。
以下はOJT実施時を想定した3つのポイントです。
- 意図的:どのような目的や目標でそのトレーニングを行うのかを明確にすること
- 計画的:十分に設計された計画に基づいてトレーニングが行われること
- 継続的:単発ではなく、反復的、段階的にトレーニングが行われること
4つのステップと3つのポイントの詳細は以下の記事をご覧ください。
OJTのフォロー体制を整える
OJT実施期間中のフォロー体制をあらかじめ整えておきましょう。
具体的には、トレーナー・OJT対象者それぞれの相談窓口・振り返りは「誰」が担当するのかを決めます。「誰」については特定の人名でなく役職・立場(例:直属の上司など)で設定しておくことで、人が入れ替わっても制度を変更する必要がありません。
OJT制度を構築する際の注意点
OJT制度を構築する際、注意すべき点が3つあります。
以下で具体的に紹介します。
他の研修との矛盾が起きないようにする
OJTと他の研修との間で矛盾が起きないように、各研修の教育内容には一貫性をもたせましょう。
具体的には、新入社員研修の教育内容とトレーナーの言動には一貫性が必要です。
もちろん、トレーナーのビジネスマナーやビジネスマインドなど全てが完璧である必要はありません。仮に不足している部分があれば「できるよう努力している姿勢」を示しましょう。
ただし、新入社員研修とOJTで示される「1年後に目指してほしい姿」などが異なるとOJT対象者は混乱してしまいます。少なくとも「目指す方向性」に矛盾が生じないように、階層別研修や職種別研修などで行う教育内容の共有が必要です。
トラブルやイレギュラー発生時の対応を明示する
OJT中にトラブルやイレギュラーが発生した場合の対処方法をトレーナーおよびOJT対象者に明確に示しましょう。
OJTでは、トレーナーとともに経験の浅いOJT対象者が業務にあたるため、トラブルやイレギュラーが生じやすい状況といえます。
こうした状況下において、トレーナーはOJT対象者から頼られる存在となるため、自らで解決しようとする想いが強くなりがちです。
トレーナーが判断してよいレベルと、上司へ相談すべきレベルをあらかじめ制度内で明示しておくことで、トレーナーが1人で抱えこむことがない体制を整えます。
またOJT対象者においては、業務上におけるトラブルの相談先はトレーナーとするものの、その他とくにトレーナーとの相性や人間関係などについては別の相談先を明示しておきましょう。
トレーナーのフォローを制度化しておく
OJTはとくにトレーナーへの負担が大きく、周囲のフォローが欠かせません。
しかし、いざOJTが始まるとトレーナー任せになりがちです。
そこで、トレーナーのフォロー体制を制度として整えておくことが必要なのです。
具体的には、以下のうち1つ以上は実施しましょう。
フォロー面談
トレーナーがOJTについて、振り返りや悩み・課題の相談を定期的に行えるように「フォロー面談」の機会を設けましょう。
実務内容を理解しているOJT対象者およびトレーナーの上司が相談役となり、個別面談を週1回など定期的に行うのが理想的です。
トレーナーミーティング
同じ部署内のトレーナー人数が多く、個別での面談が難しい場合は、部署内で「トレーナーミーティング」を定期開催する方法もあります。
トレーナー同士が集まりお互いの進捗や課題を共有し、必要に応じて協議を行います。
ただし個別面談に比べて、悩みや困りごとを打ち明けにくいため配慮が必要です。
日報や週報による状況把握
日報や週報を取り入れている企業であれば「相談事項があれば遠慮なく記載する」などをルール化しておき、記載があったトレーナーに対して個別面談を実施します。
OJT制度の効果を高める方法
OJT制度を構築するにあたり、OJTによる育成効果をさらに高めるための重要ポイントを3点紹介します。
評価制度と連動させる
評価制度にOJTに関する評価項目を設けるとよいでしょう。理由は、具体的な評価項目とすることでトレーナー・OJT対象者ともに、より「自分ごと化」して取り組めるためです。
例えば、トレーナー・OJT対象者を経験したか、OJTにおける目標を達成できたかなどを、等級の評価基準にします。
とくにトレーナーの場合は、OJTを管理職に必要なスキルの習得機会ととらえて、昇格試験の受験条件に設定するのもよいでしょう。いずれにしても社内に対して、OJTの結果や過程を評価に反映する意思を明示しておくことが大切です。
あわせて「OJT研修」を行う
効果的なOJTを実現するには、トレーナーを育成するための研修である「OJT研修」が欠かせません。
OJT研修は「トレーナーが効果的なOJTを行えるようにすること」はもちろんですが、「トレーナー自身の育成スキルを向上させること」も目的としています。
さらにOJT研修の実施はトレーナーを担当する社員の不安を解消できたり、幹部候補の育成につながったりといったメリットもあります。
OJT制度を構築する上ではOJT対象者の育成に意識が向きがちですが、OJTから得られるトレーナーの育成効果を高めるために「OJT研修」もあわせて行うようにしましょう。
OJT研修についての詳細は以下の記事をご覧ください。
OJT研修とは?目的や手順、優秀なトレーナーを育成するポイント
eラーニングを活用する
より効果的なOJTを実施するためには、eラーニングの活用が有効です。OJTでは実務経験をいかに知識として定着させるかが重要な課題です。OJT対象者は、緊張のなか慣れない業務をこなすことで精一杯となり、せっかくの経験が知識として定着しないケースも少なくありません。
そこで、eラーニング上の動画マニュアルを用いた予習・復習によって、OJT対象者が実務経験を知識として定着しやすくするのです。
具体的には、eラーニング上でOJTに必要な基礎知識をまとめた動画マニュアルを作成・配信します。これによりOJT対象者は、OJT前に重要ポイントを予習でき、OJT後には実際に経験したことと照らし合わせながら復習が可能となります。
ただし、すべてのeラーニングシステムで自社のオリジナル動画を作成できるわけではない点は注意しましょう。
負担を少なく効果的な社内教育を実現したい方は下記の資料をご覧ください。
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OJTのニューノーマル
OJT制度も、昨今のコロナ禍や企業の人材不足といった背景への適応が求められます。
こうした厳しい背景に対応すべくOJTの新たなスタンダードとして注目される「eラーニングを用いた動画マニュアル配信」について解説します。
OJTのオンライン化と問題点
OJTを多くの企業が取り入れている一方で、「コロナ禍によるテレワーク化」「トレーナーとなる人材の不足」などの問題により、従来のOJTを行いづらいのが現状です。
こうした状況を受け「OJTのオンライン化」の動きがありますが、以下のような問題により思うような運用を行えません。
- トレーナー向けの研修を対面で実施できない
- 対面でやって見せる指導が行えない
- 誰がどのような指導を行っているか分からない
eラーニングを用いたOJTのオンライン化
「OJTのオンライン化」の実現策として「eラーニングを用いた動画マニュアル配信」が注目されています。
具体的な活用方法は以下の通りです。
例えば、手本となる営業社員のロールプレイングや商談の様子を動画におさめておき、重要ポイントの解説を加えれば「動画マニュアル」が完成します。
同様に接客・製造・メンテナンス・事務処理など、あらゆる業務も動画マニュアル化が可能です。
作成した動画マニュアルをeラーニングにて配信をすれば、オンライン上で実務を学べる体制が整います。
OJTでeラーニングを用いるメリット
「eラーニングを用いた動画マニュアル配信」は、OJTに多くのメリットをもたらします。
OJT対象者は動画での予習と復習が可能となり、知識が定着化しやすくなります。トレーナーにとっては指導の一部をeラーニングで代替できるため、業務負担を軽減可能です。
さらにトレーナー自身もOJTにおける指導・育成方法について、動画マニュアルでいつでも学ぶことができます。
OJTでのeラーニング活用には、トレーナーごとでバラつきがちな教育内容に統一性をもたせるメリットもあるのです。
また、そもそもOJTを行えていなかった企業も、負担や手間を軽減できる「eラーニングを用いたOJT」であれば実施できる可能性があるでしょう。
OJTをはじめ人材育成に関する課題が、eラーニングの活用によって一気に解消するケースもあります。ぜひ以下の資料をご覧ください。
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まとめ
OJT制度の構築方法と注意点、より効果を高めるための方法、OJTのニューノーマルについて解説しました。
OJTは制度を構築して「意図的・計画的・継続的」に実施してこそ、OJT対象者の早期戦力化・業務へのモチベーションアップ・定着率の向上などを実現できるのです。
また、OJTをきちんと評価に反映することや、トレーナーを対象としたOJT研修の実施、eラーニングの活用によってさらなる効果アップを期待できます。
ぜひ本記事を「理想とする人材を育成できるOJT制度」の構築にお役立てください。