人事・教育担当者にお薦めの一冊

「本って読者と濃い対話をすること。」

普段は寡黙な知り合いがぼそっと書店で言ったこの一言。

いまだに強く心に残っています。

かれこれ5年くらい前なのに、その書店に入るたびに思い出します。彼女の習慣として教えてもらったお風呂を半身浴にして読書。私も取り入れています。

今日は私の本棚の中でも仕事を考える上で、お薦めの一冊を紹介したいと思います。

特に人事・教育担当者には是非読んで頂きたい本となっております。

お薦め一冊「秋本治の仕事術『こち亀』連載を続けられた理由」

私の周りにはいわゆる漫画通がとても多く、世代を超えて漫画が共通話題になることも増えてきました。

私はと言えば「漫画は本ではない」という幼い頃の教育の影響があってか、漫画より元来小説や実用書派でした。

ある時、経営者間での『キングダム』の話題に全く入り込めず、「これは流石にまずい。」と全巻買いし、一気に読了した程です。

そんな私でも『こち亀』はもちろん知っていますし、知らない日本人の方が少ないのではないでしょうか。

今回紹介する本のサブタイトルの通り、『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』は週刊少年ジャンプで40年間休むことなく連載されました。

40年間一人の人が、同じタイトルで書き続けた、人生のほとんどを捧げた偉業は世界に例がなく、「最も発刊巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録として認定されています。

そんな生涯漫画家である秋本治氏が自身初の実用書として出版されたこの本は『こち亀』同様に、発売後すぐベストセラーとなりました。

漫画家向けのハウツー本としてだけでなく、あらゆる仕事におけるヒントが詰まったお薦めの一冊です。

私なりの解釈と、皆さんの仕事への応用性について考えていきましょう。

達成感を循環させ続けた40年

大きなプロジェクトなどをやり遂げた後は、達成感に浸りながら小休止モードになってしまうことがあります。

普段は抱いてしまう“罪悪感”が強い達成感によって例外的に掻き消され、ついつい長く療養したりまったり、見方を変えればサボりに走ったりしてしまいます。

その状態から再度自分に鞭打って、仕事に打ち込む時、スタート時点での低い生産性を上げていく必要が生まれます。

秋本氏はこのリスタートの為の無駄なエネルギーを嫌うそうです。

締め切りを乗り切った直後、入賞・表彰式の翌日、発刊すぐに読者からの賞賛を知った時など、秋本氏が達成感に至った時、その感情をガソリンとしてさらにアクセルを踏みます。

心身を限界ギリギリまで、休みなく追い込むことは避けるべきですが、「給水コーナーで水を飲み過ぎる」と遥か先のゴールに向けて足取りが重くなってしまいます。

ブランク回避を徹底する彼の言葉の中に、「座ったら仕事をするだけ。」とあります。

秋本氏の何気無いこの表現に強く感化された読者は私だけではないと思います。

いわんや、『こち亀』ファンの読者にはより一層強く響いているに違いありません。

この信条は秋本氏が師と仰ぐ、さいとう・たかを(代表作に『ゴルゴ13』)「座ったら描く。」から来ていると言います。

繰り返しになりますが、そんな彼も達成感を全く感じないと言う訳ではありません。

担当編集者からの感謝や反響、自発的な安堵感。

それらが“熱い”内にすぐに、更なるモチベーションとして、翌日には、その前後で変わることなく、いつもの机に座って描くことを続けてきたと言います。

ルーティーンなど呼べる習慣などは特にないそうです。

無休40年の裏にあったのは貫徹したシンプリシティー、集中力を常に切らさず、一定に保つ仕組みがありました。

生涯実践された「自己暗示」

『こち亀』を「キリの良い」200巻で終了させた後に、すぐさま別の新作連載を続ける秋本氏。

恐るべき持続力、「座ったら仕事するだけ。」を一生涯貫かれるのでしょうか。

67歳の彼は(2020年4月時点)自己暗示の力を信じていると言います。

これは、ある種の思考転換の能力だと私は理解しました。

例えば、苦手なもの、彼の場合は、特にスポーツや人付き合いとの向き合い方が、例として挙げられています。

未体験な故に苦手だと決めつけていること、この“食わず嫌い”に際して自己暗示をかけるそうです。

きっと、この経験の後に、新しい発見なり気づきがある、このピンチの後にチャンスが待っているといった具合に。

さらに、その気づきをそのまま連載作品『こち亀』のストーリー展開として活かそうとし、調べるたり考たりする中でその苦手と初めて向き合って、後になって好きにがらりと変わっていく。

苦手すらも、観察対象として漫画製作の肥しとする成功体験から私たちが学ぶことは多いです。

「見過ごしたい。」や「私の得意分野でない。」として、見切りをつけることも重要ですが、その苦手の先には、良いもの悪いものどちらかが、あるいは混在した「新しい。」がきっと待っている。

“苦手”という反射的な認知を“新しさ”へと思考転換、自己暗示する力は繰り返し行うことで、正に主人公、両津勘吉の様に何事にも屈せず、積極的なビジネスパーソンへと成長していけるのではないでしょうか。

締め切りに向けて細分化したスケジュール管理

漫画家や小説家は締め切りといつも闘っている。

彼らに密着したドキュメンタリー番組や雑誌のコラムなどを通して皆さんもご存知かと思います。

机に資料や筆記用具が積み重なり、畳にコーヒーの空き缶や、コンビニ弁当の箱が四方におかれたような構図。

正に締め切り直前まで身を粉にしてもがく、そのような姿を秋本氏に対しても私は想起していました。

ところが、秋本氏の実生活は全く真逆で規則正しい、ごく一般のものでした。

起床は毎朝7時30、勤務開始を9時としています。

アシスタントスタッフにもその慣習を十分に理解してもらい、漫画作業部屋には珍しく、タイムカード打刻機を設置する程です。

若い時には無理することもあったそうです。

しかし、睡眠時間を削ってしまうと、際限なく作業時間を延ばしてしまう。

そう気づき、仕事のスピードを上げることを念頭において、時間短縮の工夫が生まれて行ったとあります。

また、秋本氏における締め切りは編集者への提出締切日だけではありませんでした。

自らでも各スケジュールを逆算して、例えば描く作業に取り掛かる前の、アイデア練り出し、ネーム出し、なども一定日数後と自分の中で締め切りを設けて、最終的な編集者締め切りに間に合わせているそうです。

「無駄に見える時間も大切」というクリエーター界隈で見聞される考えを本の中では、きっぱりと否定されています。

読みながら私も、仕事を先送りにする為に、「今はじっくり考えている。」と口実にしてしまうことがありました。

しかし、彼の言葉を通して再考するきっかけを得ました。

社長としての秋本治も隙がない

スポーツや芸能、個人パフォーマンスの分野であっても、長く活躍している人の支えには、必ず素晴らしいチームがあります。

秋本氏も、「アトリエびーだま」とい法人をチームとして組織運営しています。

私が日々研究している会社経営の点においても、代表としての彼の姿勢は、感銘を受ける内容でした。

関連して、私の知る、特にクリエイティブな事業を行う会社では、トップの感性のままに動く組織が多く存在しています。

「言わなくても察して」や「センスだから頼むよ」など、これら一般の業務において見直されるべき言動ですが、若手社員からのヒアリングで今尚頻繁に耳にします。

阿吽の呼吸で上司部下が機能するのは容易ではありません。

対して、秋本氏は読者の評価に一転集中して「皆が励まし合えるように」とあります。

加えて、「仕事の会話はすべて敬語で」丁寧に、男女や年齢関係を分け隔てなくを心がけているそうです。

組織の代表が模範として、組織内で自然と、慕う慕われる風土を生むことで、抜け目ない創作集団が40年間続いたのでしょう。

まとめ(読み終わって考察

この一冊を通して、私はもっと深く秋本氏を知りたくなりました。

途切れなく40年間続いた週間連載の偉業。

とても一冊では語り尽くせない喜び、大変さもあったに違いありません。

なぜか、この一冊を読み終わった後に、すっと心が穏やかなになりました。

喜怒哀楽激しい両津勘吉を様々なシーンで描き続けた秋本氏。

世界にも評価される巨匠が大事にしていることは、どれも一見有り触れたことでしたが、言うは易し、私も多くを忘れかけていました。

先日折しも、「Vtuber両津勘吉デビュー」構想がトップニュースになっていました。

原動力としての好奇心をそのまま作品に昇華させてきた秋本氏、『こち亀』ロスの声に応え、両津勘吉が再び私達の前で躍動させる日は近いかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

林田 かよ

株式会社ソフィアコミュニケーションズ 代表取締役 2006年からコンサルティング会社に所属し、大手自動車メーカーの営業力向上研修、行政施設におけるコールセンター研修、大学でのキャリア教育などを担当。 2008年株式会社ソフィアコミュニケーションズを設立。現在は300名を超える講師コンサルタントを企業や行政に派遣し、企業の成長に貢献している。中小企業庁認定の経営革新等支援機関、TOKYO中小企業活性化プラットフォーム代表機関としても活動。