全社的なIT化が進む現在、人事部も例外ではありません。多くの企業では、経営層から人事部をIT化するように言われていますが、具体的に何をどうしたらよいのかがわからず、取り組みの第一歩が踏み出せずにいます。
この記事では、IT化の本質的な目的である業務効率化とデータ活用の2つに焦点をあて、LMS(※1)、タレントマネジメントシステム(※2)といった最新のITを活用して、目に見える成果をあげるIT化の方法を全3回にわたって解説します。
(※1) Learning Management Systemの略。研修に関する各種のデータをデータベース化し、研修の進捗管理、受講履歴の管理などを行うソフトウェア。
(※2) 人材管理システムとも呼ばれる。人材育成を目的として、社員のスキル、職務経歴、所有資格、研修受講歴といったさまざまな情報をデータベース化する機能を持つソフトウェア。
連載第1回の今回は、人事部をIT化する際の基本的な進め方について解説します。
もしも人事部をIT化するように言われたら(全3回)
第1回「人事部IT化の基本的な進め方」
第2回「脱Excelの具体例」
第3回「人事データの具体的な活用方法」
目次
目的と優先順位を明確にする
DX(デジタル変革)がトレンドとなるにつれて、全社的なIT化への取り組みが強化されつつあります。
このような中で、人事部に対しても、経営層からIT化の企画を出すように指示される企業が増えています。
しかし、IT化の具体的な内容が指示に含まれているわけではなく、かといって、現在の人事・給与システムを更新し、クラウド化するといった単純な企画では、とうてい承認は得られないでしょう。
人事部IT化の企画を立てるためには、最初に目的と優先順位を決める必要がありますが、これには、定石ともいうべき基本的なパターンがあります。
まず、人事部IT化の目的には、「業務効率化」と「データ活用」の2つがあります。
「業務効率化」とは、IT化により、人事部門に所属する社員の生産性を向上させ、人事業務の処理にかかる時間を短縮することで、一般社員の満足度を向上されることが目的となります。
もう一つの「データ活用」とは、IT化により、全ての人事データをデータベースに格納し、格納されたデータを分析することで、問題点の発見から改善策の考案につなげることが目的となります。
次に優先順位ですが、まず「業務効率化」を最初に行い、その後「データ活用」に取り組むのが基本的な進め方です。これは、「データ活用」よりも「業務効率化」の方が、結果が出るのが早く、その効果も示しやすいためです。
また、「データ活用」のためには、データがデータベースに格納されている必要がありますが、「業務効率化」の過程で、多くのデータがデータベース化されますので、トータルで見ると、この順序で進めた方が、効率的にIT化を進められることになります。
クラウドサービスを利用した脱Excelが「業務効率化」のポイント
それでは、「業務効率化」を目的としたIT化のポイントとはなんでしょうか。
多くの企業では、既にIT化されている業務は、人事・給与システムでカバーされる一部の業務に限られ、残りの業務の大半はExcelを使って行われているのが現状です。
このような状況においては、いかにして、現在Excelで行われている業務をシステム化するか、すなわち脱Excelの実現がポイントといえます。
Excelで行われている業務をシステム化する際のポイントは、クラウドサービスを利用することです。クラウドサービスの利用には、初期投資が少なくてすむことと、IT部門の支援を得る必要がないことの2つのメリットがあります。
クラウドサービスを利用せず、パッケージソフトを購入する選択肢もありますが、この場合、高額なソフトウエアライセンス料を最初に支払う必要がありますし、パッケージソフトを動かすためのサーバーの設置や、ソフトウェアのインストールとセットアップといったITスキルを必要とする作業だけではなく、導入後のシステム運用についてもIT部門の支援が必要となります。
脱Excelが必要な人事業務
それでは、脱Excelの対象となる人事業務には、どのようなものがあるでしょうか。
その代表的なものと、その業務における脱Excelに利用可能なクラウドサービスについて、順に説明していきます。
勤怠管理
2019年4月の労働基準法改正により、勤怠管理は、より複雑になると同時に、より厳格に行う必要が出てきました。このため、脱Excelの対象としては、勤怠管理は現時点でもっとも優先順位の高い業務といえます。
一方で、すでに多くのベンダーが勤怠管理のクラウドサービスを提供しており、導入事例の情報も豊富に得られますので、IT化へのハードルは比較的低い業務といえます。
勤怠管理のクラウドサービスには、いろいろな機能があり、出退勤時間の打刻や休暇の申請・承認といった基本的な機能のほかに、残業時間を予測し、基準時間を超えそうな場合はアラートを出すといった、最近の働き方改革に対応するための機能を備えているものもあります。
人事評価
人事評価は、勤怠管理についで、脱Excelの必要性が高い業務です。
Excelを使って人事評価業務を管理するには、Excelファイルの配布と収集、メールによる催促や確認、評価結果の手作業による集約といった膨大な作業が必要となり、人事部担当者に多大な負荷がかかります。
人事評価の脱Excelを目的としたIT化には、タレントマネジメントのクラウドサービスを利用します。
タレントマネジメントは人材管理とも呼ばれ、もともとは人材育成を目的として、社員のスキル、職務経歴、所有資格、研修受講歴といったさまざまな情報をデータベース化することが基本的な機能ですが、最近では、人事評価の機能を併せ持つものが多くなっています。
研修管理
研修管理は、人事評価と同様に、人事部担当者に多大な負荷がかかっている業務といえます。
Excelを使った研修管理には、多数のExcelファイルが存在し必要な情報の所在がわからない、受講申請から受講確認に至る進捗管理をメールに頼っている、講座単位に情報を管理しているため社員単位の受講履歴が把握できないといったような問題が数多く存在します。
このような問題を解決し、人事部担当者の負荷を軽減するのがLMS(Learning Management System)です。
LMSには、研修データのデータベース化、研修の進捗管理、受講履歴の管理といった機能があり、最近では、クラウドサービスとして提供するベンダーも増えています。
採用管理
採用管理は、最近になってIT化による脱Excelの優先度が高くなってきた業務といえます。
その理由としては、慢性的な人手不足により新規採用の重要度が増したことはもちろんですが、Webエントリーの普及により、応募者データのデータベース化が容易になったことも大きいと考えられます。
採用管理のIT化には、ATS(Applicant Tracking System)が利用できます。
ATSには、求人情報管理、応募者情報管理、面接管理といった機能があり、もともとWebエントリーを前提としているため、ATSの多くはクラウドサービスとして提供されています。
今回は、代表的な4つの業務の脱Excelについて、概要のみの説明にとどめますが、第2回「脱Excelの具体例」では、LMSによる研修管理業務の効率化について、より詳細に説明します。
人事統合データベースの構築が「データ活用」の最終ゴール
勤怠管理、人事評価、研修管理、採用管理といった業務が、クラウドサービスを利用してIT化されると、それぞれの業務のデータがExcelファイルではなく、クラウドサービス内のデータベースに蓄積されていきます。
この段階で、それぞれの業務範囲内に限定されるものの、蓄積されたデータを分析することで、問題点の発見から改善策の考案につなげることが可能になります。
例えば、勤怠管理のデータを使うと、特定の社員に作業負荷が偏っていないかどうかを分析することができますし、人事評価データを使って、ローパフォーマーの有無とその原因を分析することも可能になります。
しかし、人事部IT化の2つ目の目的である「データ活用」の最終ゴールは、さらにその先の人事統合データベースの構築にあります。
人事統合データベースとは、IT化された各業務で蓄積されたデータを、一つのデータベースに統合したもので、より高度な分析を可能にします。
人事統合データベースは、IT部門の支援を得て、汎用的なデータベース・ソフトウエアを使って構築するのが一般的でしたが、今回ご紹介したクラウドサービスのうち、タレントマネジメントは、もともと社員のさまざまな情報をデータベース化し、一元管理することを目的としているため、最近では、人事統合データベースの構築に使われるケースも増えてきています。
人事統合データベースには、クラウドサービスを使って、新たにIT化された業務だけではなく、従来からある人事・給与システムのデータも統合されます。
このように業務やシステムにまたがったデータを一つのデータベースに統合することで、例えば、退職者データからは退職率を、在籍社員データからは平均勤続年数を計算し、それを部門別に関連付けることで、各部門の離職傾向を分析するといったことが可能になります。
今回、例としてあげた人事データ分析の具体的な内容については、第3回「人事データの具体的な活用方法」で詳細に説明します。
まとめ
人事部IT化の企画を立てるためには、最初に目的と優先順位を決める必要がありますが、これには、定石ともいうべき基本的なパターンがあります。
それは、「業務効率化」と「データ活用」の2つを目的とした上で、まず「業務効率化」を優先して行い、その後「データ活用」に取り組むのという進め方です。
「業務効率化」を目的としたIT化においては、いかにして、現在Excelで行われている業務をシステム化するか、すなわち脱Excelの実現がポイントです。
さらに、脱Excelを実現する際に、クラウドサービスを利用することで、初期投資を少なくし、IT部門の支援を得ることなく、IT化達成することができます。
脱Excelの対象となる代表的な人事業務には、勤怠管理、人事評価、研修管理、採用管理の4つがあります。
勤怠管理は現時点でもっとも優先順位の高い業務といえます。
一方で、すでに多くのベンダーが勤怠管理のクラウドサービスを提供しており、導入事例の情報も豊富に得られますので、IT化へのハードルは比較的低い業務といえます。
人事評価は、勤怠管理についで、脱Excelの必要性が高い業務です。
人事評価の脱Excelを目的としたIT化には、タレントマネジメントのクラウドサービスを利用します。
研修管理は、人事評価と同様に、人事部担当者に多大な負荷がかかっている業務といえます。
Excelを使った研修管理で発生する数多くの問題を解決し、人事部担当者の負荷を軽減するのがLMSであり、最近では、LMSをクラウドサービスとして提供するベンダーも増えています。
採用管理は、最近になってIT化による脱Excelの優先度が高くなってきた業務といえます。
採用管理のIT化には、ATSが利用できます。
ATSは、もともとWebエントリーを前提としているため、その多くはクラウドサービスとして提供されています。
勤怠管理、人事評価、研修管理、採用管理といった業務が、クラウドサービスを利用してIT化されると、それぞれの業務のデータがExcelファイルではなく、クラウドサービス内のデータベースに蓄積されていきます。
この段階で、それぞれの業務範囲内に限定されるものの、蓄積されたデータを分析することで、問題点の発見から改善策の考案につなげることが可能になります。
しかし、人事部IT化の2つ目の目的である「データ活用」の最終ゴールは、さらにその先の人事統合データベースの構築にあります。
人事統合データベースとは、IT化された各業務で蓄積されたデータを、一つのデータベースに統合したもので、より高度な分析を可能にします。
人事統合データベースは、IT部門の支援を得て、汎用的なデータベース・ソフトウエアを使って構築するのが一般的でしたが、最近では、タレントマネジメントのクラウドサービスが人事統合データベースの構築に使われるケースも増えてきています。
もしも人事部をIT化するように言われたら(全3回)
第1回「人事部IT化の基本的な進め方」