もしも人事部をIT化するように言われたら|第3回「人事データの具体的な活用方法」

全社的なIT化が進む現在、人事部も例外ではありません。

多くの企業では、経営層から人事部をIT化するように言われていますが、具体的に何をどうしたらよいのかがわからず、取り組みの第一歩が踏み出せずにいます。

この記事では、IT化の本質的な目的である業務効率化とデータ活用の2つに焦点をあて、LMS(※1)、タレントマネジメントシステム(※2)といった最新のITを活用して、目に見える成果をあげるIT化の方法を全3回にわたって解説します。

(※1) Learning Management Systemの略。研修に関する各種のデータをデータベース化し、研修の進捗管理、受講履歴の管理などを行うソフトウェア。

(※2) 人材管理システムとも呼ばれる。人材育成を目的として、社員のスキル、職務経歴、所有資格、研修受講歴といったさまざまな情報をデータベース化する機能を持つソフトウェア。

第1回「人事部IT化の基本的な進め方」では、IT化の目的の一つとして「データ活用」をあげ、いくつかの活用例について簡単に触れましたが、連載第3回の今回は、人事データの具体的な活用方法として、4つの分析例を説明します。

もしも人事部をIT化するように言われたら(全3回)

第1回「人事部IT化の基本的な進め方」

第2回「脱Excelの具体例」

第3回「人事データの具体的な活用方法」

勤怠管理データを使った負荷バランス分析

勤怠管理のクラウドサービスを導入すると、毎月、社員ごとの残業時間を集計し、36協定違反の発生に目を光らせるといったことが、簡単にできるようになるだけではなく、部門内で特定の社員に作業負荷が集中していないかどうかを判定する負荷バランス分析のような、より高度な分析も可能になります。

負荷バランス分析では、部門ごとに社員別合計残業時間の度数分布を計算し、ヒストグラムで表示します。

度数分布とは、データの値を等間隔の区間に分け、それぞれの区間に含まれるデータの数を計算したもので、ヒストグラムは、求められた度数分布の値を棒グラフであらわしたものです。

ヒストグラムで表示することで、部門ごとに残業時間のばらつきを可視化し、一部の社員に負荷が偏っている部門を見つけることができます。

次の例では、開発1部と開発2部の2つの部門を対象に、区間の幅を20時間にして度数分布を計算し、その結果をヒストグラムで表示しています。

開発1部は、60時間未満の区間にデータが集中しており、特に負荷が集中している要員はいないようです。

一方、開発2部は、広い区間にデータが散らばっており、一部の要員に負荷が集中していることが見て取れます。

この結果から開発2部の平均残業時間を下げるためには、要員間の負荷の偏りを改善することが先決であることわかります。

人事評価データを使ったローパフォーマー分析

ローパフォーマーに対するパフォーマンス改善策の重要性が最近注目されていますが、そもそも人事評価が公正に行われていることが前提で、まずは人事評価のデータから各部門におけるローパフォーマー発生状況を定量的に分析することが重要です。

タレントマネジメントのクラウドサービスを使って人事評価を行うと、このような分析も可能になります。

ローパフォーマー分析では、過去の人事評価の実績に遡って、部門ごとに各社員の低評価回数を集計し、100%積み上げ棒グラフで該当社員数比率を表示することで、評価が公正に行われているかを検証します。

次の例では、6つの本部について、過去4回の人事評価の実績に遡って、社員の低評価回数を集計し、100%積み上げ棒グラフで該当社員数比率を表示しています。

このグラフからわかる問題がある部門は「営業本部」です。この部門は4回の人事評価で、3回ないし4回全て低評価を受けた社員の比率が50%近くに達しており、ローパフォーマーが完全に固定化されていることがわかります。

実際に約半数の社員が固定的なローパフォーマーである可能もありますが、他の部門と比較した場合、評価が公正さを欠いており、最近の業務遂行状況にかかわらず評価が行われる前から判断が下されている可能性の方が強いといえます。

逆に「開発本部」は4回の人事評価で、3回ないし4回全て低評価を受けた社員が一人もおらず、全ての社員が切磋琢磨している理想的な状況に見えます。

しかし、こちらも他の部門と比較すると、あまりにも理想的に低評価が分散しており、持ち回り的に低評価者が選定されている懸念があり、直接的な調査が必要と思われます。

新卒採用データを使った採用ファネル分析

ATSを使って新卒採用を管理することで、採用に関するデータが蓄積され、さまざまな分析が可能になります。

例えば、書類選考応募から入社に至る過程の落選者、辞退者数を計算し、ウォーターフォールチャートで表示することで、採用の各段階における絞り込みや辞退者発生の傾向を明確にすることができます。

ウォーターフォールチャートとは、最初の値 (たとえば、書類選考応募者の数) が、最終の値(例えば入社者の数)になる過程で、一連の正の値または負の値によって、どのように増減するのかを把握することができるグラフで、グラフが滝(ウォーターフォール)のような形をしていることからウォーターフォールチャートと呼ばれています。

次の例では、書類審査から一次、二次、最終面接、内定を経て入社に至る過程での落選者と辞退者の数をもとにウォーターフォールチャートを作成しています。

このグラフから落選の割合は一次面接と二次面接がやや高く、辞退の割合は一次面接前と入社前が非常に高いという傾向が見て取れます。

このような分析から、次年度の新卒採用プロセスにむけて、面接の合格比率の調整や、辞退者を減らすための取り組みをどの段階において重点的に行わなければならないかが明確にすることができます。

退職者データを使った離職傾向分析

人事統合データベースを構築すると、業務やシステムにまたがったデータが一つのデータベースに統合されます。

その結果、例えば、退職者データからは退職率を、在籍社員データからは平均勤続年数を計算し、それを部門別に関連付けることで、各部門の離職傾向を分析するといったことが可能になります。

離職傾向分析では、全社及び部門ごとの退職率と平均勤続年数を計算し、散布図で表示します。

散布図とは、データの2つの項目の値(例えば、退職率と平均勤続年数)をそれぞれX軸、Y軸にとり、データの位置を点であらわしたグラフで、2つの項目の値の間にある相関関係を視覚的にとらえやすいという特徴があります。

散布図にすることで、各部門における離職状況を視覚的に分析し、問題のある部門を見つけることができます。

次の例では、全社および6つの本部について退職率と平均勤続年数を計算し、横軸に退職率、縦軸に平均勤続年数をとり、全社および6つの本部のデータをプロットしています。

このグラフからわかる問題がある部門は「営業本部」です。

「営業本部」は他の5本部に比べて全社平均から右下に大きく離れた位置にあります。

つまり、全社の中でも突出して退職率が高く、勤続年数が短いということです。

このような傾向にある部門は、担当の入れ替わりが激しく、スキルや経験の蓄積も浅くなりますので、早急に離職防止への対策を強化する必要があります。

まとめ

勤怠管理のクラウドサービスを導入すると、部門内で特定の社員に作業負荷が集中していないかどうかを判定する負荷バランス分析が可能になります。

負荷バランス分析では、部門ごとに社員別合計残業時間の度数分布を計算し、ヒストグラムで表示します。

ヒストグラムで表示することで、部門ごとに残業時間のばらつきを可視化し、一部の社員に負荷が偏っている部門を見つけることができます。

タレントマネジメントのクラウドサービスを使って人事評価を行うことで、蓄積されたデータから各部門におけるローパフォーマー発生状況を定量的に分析することが可能になります。

ローパフォーマー分析では、過去の人事評価の実績に遡って、部門ごとに各社員の低評価回数を集計し、100%積み上げ棒グラフで該当社員数比率を表示することで、評価が公正に行われているかを検証します。

ATSを使って新卒採用を管理することで、採用に関するデータが蓄積され、さまざまな分析が可能になります。

例えば、書類選考応募から入社に至る過程の落選者、辞退者数を計算し、ウォーターフォールチャートで表示することで、採用の各段階における絞り込みや辞退者発生の傾向を明確にすることができます。

例えば、このグラフから落選の割合は一次面接と二次面接がやや高く、辞退の割合は一次面接前と入社前が非常に高いという傾向を見つけることができます。

人事統合データベースを構築すると、業務やシステムにまたがったデータが一つのデータベースに統合されます。

その結果、例えば、退職者データからは退職率を、在籍社員データからは平均勤続年数を計算し、それを部門別に関連付けることで、各部門の離職傾向を分析するといったことが可能になります。

離職傾向分析では、全社及び部門ごとの退職率と平均勤続年数を計算し、散布図で表示することで、退職率が高く、勤続年数が短いといった問題のある部署を発見することができます。

もしも人事部をIT化するように言われたら(全3回)

第1回「人事部IT化の基本的な進め方」

第2回「脱Excelの具体例」

第3回「人事データの具体的な活用方法」

ABOUTこの記事をかいた人

ソフトウエアベンダーやコンサルティング会社で20年以上にわたりコンサルティング、企業経営に携わる。現在は、IT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、データ分析、人材管理、LMSなどに関する講演・執筆活動を行っている。