DXが広まりつつある現在、人事業務についても例外なくDXの波は押し寄せてきています。
採用・教育・評価考課・人事制度・人事管理・労務管理・給与計算など様々な具体的業務領域の中で、どのような変化が起こりえるのでしょうか。
本記事では、DX推進による各業務領域における変化について実際の企業事例を含めてご紹介いたします。
そもそも「DXとは何か?」を確認したい方はこちらの記事を先にお読みください。
今さら聞けないDXとは?|事例からみるデジタイゼーション・デジタライゼーション
また人事業務に関わらず業務全般のDX推進への取り組み方を知りたい方はこちら。
DX時代の新しい常識とは|具体的な取り組み方を徹底解説
目次
人事業務はDX推進の本命領域
人事業務はDXを推進する上で、営業部門と同じく効果が高い領域です。
業務の範囲はとても広く、優秀な人材を確保するための採用活動はもちろん、しっかりと定着・戦力化させるための教育や日々の給与計算などの管理業務まで、企業を引っ張っていく存在です。
そんな人事業務においてDXが推進されると、様々な業務を少ない労力で完結できるようになります。
特にルーティン系の業務を効率化することで、人事制度構築・見直しや人材育成体系の設計などのより上流工程の業務に着手しやすくなり、戦略人事を実現しやすくなるでしょう。
それでは業務領域を切り分けて、DX推進による変化について説明いたします。
①採用
毎期設定している採用計画をもとに、求人サイトや媒体、説明会を活用し、目標達成に向けて取り組まれているはずです。
説明会や面接などのリアルでのコミュニケーションが発生する場面以外ではDX(特にデジタイゼーション)によって劇的な工数削減が可能です。
採用計画自体は会社を取り巻く様々な要因によって経営層を含めた「人」の判断により決まることが多いでしょう。
しかし、採用目標数を算出するだけなら、前期までの業績と採用が与えた因果関係を計算すればいいので、計算式さえ決めればあとはツールやAIなどで決めることができます。
求人サイト・媒体への募集概要の投稿や簡単な問い合わせ対応、説明会・面接のエントリー・日程調整などはRPAやBotで、各業務のつなぎ目のワークフローなどは採用管理用のSaaSで一括管理できるものもあります。
こうしたテクノロジーを活用することで、今まで採用担当者が複数人で運用していた業務を最小限まで押さえられるでしょう。
②教育
すでに多くのソリューションが存在していますが、eラーニングによる社員教育が普及しています。
特に2020年を境に、接触する対面教育から非接触のオンライン教育への転換は加速していることは実際に感じているのではないでしょうか。
そのため教育用の資料についても膨大な紙媒体で資料を渡されるのではなく、PCやタブレットで受講するという実施形式自体の転換が可能であるため、根底からDX推進が進んでいます。
逆に、教育を受ける社員にとってはインプットの比重が多くなり、社内のコミュニケーション促進も兼ねているグループワークなどには不向きであるため、インプットとアウトプットのバランスを考慮したカリキュラム策定に試行錯誤が必要です。
③評価・考課
人事評価については、個人やチーム単位での業績評価についてはAIなどで瞬時に算出が可能です。
定量的な成績評価が難しい管理部門については目標管理ツールやSaaSなどを導入することで、個別に人の目で精査する必要がなくなるため、大幅な工数削減が可能です。
評価基準の策定や見直しを除けば、DX推進の恩恵を受けやすい領域だと考えます。
④人事制度
人事制度をゼロから作る設計の過程を除き、運用や改善にかかる工程は、総合人事管理ツールやSaaSも多く存在しています。
自社にあったものを選び、適切に運用・管理していくことで制度設計そのものにリソースを使うことになります。
⑤人事管理・労務管理・給与計算
入社退職管理や勤怠、個人情報、マイナンバーなど主にデータを取り扱う業務であるため、ほぼ全てと言っていいほどDXが可能な領域です。
入社から社会保険などの申請、勤怠データの入力から計算、年末調整まで一気通貫で行える便利なSaaSやツールも普及しつつあります。
イレギュラーなデータの精査や処理、人の目によるチェックなどを除けば、1人以下の工数で運用が可能になると思います。
人事業務のDX導入事例
ではここからは、実際に人事業務にDXを導入している企業事例を見ていきます。自社に当てはめたときにどうなりそうか、想像しながらご覧ください。
豊田通商株式会社
社員研修において研修終了後、参加した社員同士による活発なコミュニケーションが生まれにくかったこと、研修の効果を加速させることが課題としてありました。
そこでSNSを土台とした目標管理ツールを導入した結果、研修に参加した社員や管理職が研修のアウトプットをツール内で共有したことで、研修の狙いであった新しいビジネスアイデアやコラボレーションが発生するようになりました。
株式会社アシスト
勤怠データを抽出し成型を行う労務管理業務に膨大な人的コストをかけていましたが、RPAロボットを20台導入し、1年間で370時間の業務時間の削減に成功。
さらに人的コストがかかる業務部分にRPAを導入していき1年間で500時間の業務時間削減を目指しています。
株式会社シンフィールド
従来は給与明細や雇用契約書など、従業員に対して必要な書類の多くを紙で運用していました。
国内に複数拠点がありますが、管理部門は本社内だけにあるため上記の書類を郵送したり、不備があった場合返送するなどの手間と経費がかかっていました。
そこで人事管理のSaaSを導入して、紙で管理していた書類を全て電子化し運用。管理部門2名が手一杯で回していたところ、大幅な業務時間の短縮ができたため、新卒採用の業務を他部署から巻き取り担当するなど戦略的な時間の使い方ができるようになりました。
相模原どうぶつ医療センター
人事評価時、従業員が少なかった初期段階ではエクセルに入力したものを回収し評価を行っていましたが、従業員数が増えるにつれ個々の回収と精査、集計にかかる時間が多大になっていきました。
そこで、クラウド人材サービスを導入しブラウザ上で全ての従業員データを管理したところ、作業に取られていた時間を重要と考える面談に回すことができるようになりました。
結果、従業員の働きがいやモチベーションアップに繋がり、従業員数が増えても運用できる体制を構築しました。
まとめ
人事の業務領域は広いですが、どの業務でも共通して存在している「定型業務」「ルーティン業務」については、DXの前段階であるデジタイゼーションでRPAやAIを活用し、人の手をできるだけ介入させないという流れは今後も加速していきますし、一番成果が上がりやすい業務領域ともいえます。
その反面、意識しなければならないのはセキュリティレベルで、クラウドサービスを使うのであれば、セキュリティがしっかりしているのか、万が一の漏洩時にはどうするのかという業務フローやエスカレーションルートを想定しておき、トラブル対応を万全にする必要はあります。
DX推進によって得られたリソースは
・採用においては選定基準や説明会、面接
・教育においてはコンテンツ内容や研修のアフターフォロー
・評価考課については社員とのコミュニケーション
・制度においてはよりよい制度構築のための試行錯誤
といったテクノロジーではなく人がやらなければならない業務へ注力できるようになるでしょう。