コンプライアンスの違反事例4選|教育・研修の効果を高めるための資料への組み込み方も解説

「コンプライアンス研修や教育を行う上で、どういった違反事例があるのかを探している」
「具体的な事例はもちろん、研修にどう組み込むかなどのポイントも知りたい」

コンプライアンス教育は企業活動をしていくうえで、切っても切り離せません。

しかし、このコンプライアンス教育は実施する側と教育を受ける側で差があるのもまた事実です。


どんなに一生懸命コンプライアンスの重要性を伝えても、「自分には関係がない…」「自分は大丈夫だろう…」とどこか他人事に感じてしまうことが多く、教育担当者の皆さまも苦労されているのではないでしょうか?

そんなときに役立つのが「コンプライアンス違反事例」の活用です。

身近な事例を伝えることで自分事化させやすくなり、コンプライアンス遵守への意識を高めることができるしょう。


そこで本記事では、元知能犯刑事である筆者がコンプライアンス研修で実際に話している違反事例4選をご紹介いたしますので、ぜひ自社の教育にお役立てください。

コンプライアンス違反事例を教育に活用する3つのベネフィット

『ストーリー思考』神田昌典=著(ダイヤモンド社)によると、ストーリー(事例やエピソード)には、以下のようなベネフィットがあるそうです。

  1. ストーリーは、頭にこびりつく
  2. ストーリーは、真の問題をあぶりだす
  3. ストーリーは、危機をチャンスに変える

コンプライアンス教育においても、上記のベネフィットを活かすことができます。

ストーリーは、頭にこびりつく」では、実際に自分がその違反事例を犯してしまったときにどのような影響があるのかが脳裏に焼き付くことで、コンプライアンス順守への意識が高まるはずです。

ストーリーは、真の問題をあぶりだす」であれば、コンプライアンス違反が起きるまでの過程を知ることで、気を付けなければならない重要なポイントを見つけることができるでしょう。

ストーリーは、危機をチャンスに変える」は、事前に違反という危機をインプットすることによって、二の轍を踏まないように活かすことが可能です。

このように事例を教育に活用することで、3つのベネフィットが得られ、コンプライアンス教育の効果をさらに高めることができます。

組織を行動変化へ駆り立てるコンプライアンス違反事例4選

これから紹介する事例は、企業がコンプライアンス違反を犯さないために、専ら公益を図る目的で、出版済みの書籍や判例集を参考にして、公知の事実について記述しています。

事例1 ハラスメント「大手電機メーカー社員による自殺教唆事件」

ある大手電機メーカーでは、2012年から2019年にかけて5人の自殺者を出しています。

パワハラと長時間労働が表裏一体となっていることが指摘されました。

同じ時期に自殺者以外に3人の労災認定が出ており、長時間労働が原因で、脳梗塞、精神疾患、くも膜下出血を患いました。

2019年8月に自殺した男性新入社員は、日常的に上司から「殺すからな」「自殺しろ」などと脅迫されていました。

自殺した男性が住んでいた同社の寮では、以前にも新入社員が自殺しています。兵庫県警は担当上司を自殺教唆罪で書類送検しました。社員によると「コンプライアンス違反の行為を先輩から引き継ぐ」企業風土だったそうです。

2020年、同社はサイバー攻撃を受け、防衛に関する重要な情報が流出した可能性を発表しています。

事例2 企業犯罪「大手食肉販売業会長による詐欺(補助金不正受給)事件」

2004年、大阪府警捜査二課は牛肉産地偽装にかかる約50億円の詐欺(補助金不正受給)事件で大手食肉販売業会長とその親族、側近を一斉に逮捕しました。

農水省のBSE(牛海綿状脳症)対策として実施された国産牛肉の買取事業をめぐり、対象外の輸入牛肉を不正に大量混入して買取申請し、補助金約50億円を詐取(不正受給)した事件です。

同会長は保釈金20億円を払って保釈されましたが、その後、実刑判決を受け収監されました。


警察庁が定義する「構造的知能暴力事件」の1つとして知られています。

警察庁によると「政治、行政、経済等社会の諸分野において、金力、権力、知力、暴力等の種々の力を絡み合わせて用いることにより、構造的な利権を創出し、違法・不当に利益を享受している者に係る」事件を指します。

事例3 情報流出「委託先社員による大手通信教育会社に対する不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)事件」

2014年、大手通信教育会社の委託先社員が約2,895万件の個人情報を不正に持ち出し、名簿業者に売却した事件です。

警視庁は不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)の容疑で犯人を逮捕しました。
犯人は生活困窮から顧客個人情報を売却したと言われています。

刑事事件の被害者である同社が、民事事件では加害者的立場として顧客から損害賠償請求されるなど、経営に大きな打撃を与えています。

顧客情報の漏洩を公表してから4日間で54,000件を超える苦情があり、そのうち3,000件が通信教育の退会申出。

2015年は、前年365万人の会員数が94万人減少し、2016年はさらに28万人減少したとされています。

事件の結果、過去200億円前後の純利益を出していた同社は、2014年度連結決算が107億円の赤字企業となり、2015年度も82億円の当期純損失を計上しました。

2014年、同社は260億円の特別損失として顧客への補償に200億円、おわび文書の発送や事件の調査、セキュリティー対策などに60億円を充てています。

事例4 反社チェック「暴力団関係者による大手ミシンメーカーに対する恐喝事件」

1990年に発覚した企業恐喝事件。大手ミシンメーカーの株式を大量に買い占めた暴力団関係者が、社長らに対し300億円の支払いを要求し、反社会的勢力の関係会社に300億円を貸付させました。

さらに、関連会社を通じて犯人の会社に合計約1,600億円の債務肩代わり及び担保提供をしており、犯人が逮捕され、犯人の会社が破綻した後、融資の回収不能や債務肩代わりによる損害を被りました。

株主は、同社が合計1,125億円の損害を被ったとして、取締役らに同額の損害賠償を請求する株主代表訴訟を提起しました。

刑事事件の被害者が、民事事件の加害者として損害賠償請求されたのです。
2003年、高裁判決では当時の経営陣の責任が否定されましたが、2006年、最高裁は取締役の過失を肯定しました。

企業、取締役は反社会的勢力の不当要求に対して、脅迫、恐喝の被害者であっても警察に届け出るなど適切に対応する法的義務がある」と改めて確認された重要判決です。

2008年、当時の経営陣5名に対し、約583億円の損害賠償を命ずる判決が確定しています。
2007年、政府は内閣総理大臣主宰の犯罪対策閣僚会議において「反社会的勢力の排除は企業、社会的責任、コンプライアンス、企業防衛の観点から不可欠」であると政府指針である「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定、公表しました。

この指針によると「反社会的勢力の排除は、コンプライアンスそのものである」と示され、その解説では前述の損害賠償事件最高裁判決について記載されています。

2011年までの間に47都道府県すべてで暴力団排除条例(暴排条例)が施行され、市民の責務や努力義務、禁止行為が定められました。

まとめ

人間の学習には、初頭効果と親近効果と呼ばれる現象があります。

初頭効果は最初に見たものが印象に残りやすく、親近効果は最後に見たものが印象に残りやすい現象です。研修の最後に振り返りをすることで、最初と最後以外の中盤で学んだことも記憶に残りやすくなります。

ご紹介したコンプライアンス違反事例4つのエピソードを振り返ってみましょう。

事例1 ハラスメント「大手電機メーカー社員による自殺教唆事件」
・同社で男性新入社員が自殺
・パワハラと長時間労働が表裏一体
・同社の寮では、以前にも新入社員が自殺
・2012年から2019年にかけて5人の自殺者
・兵庫県警は担当上司を自殺教唆罪で書類送検
・日常的に上司が「殺すからな」「自殺しろ」などと脅迫
・同じ時期に自殺者以外に3人の労災認定(長時間労働で脳梗塞、精神疾患、くも膜下出血)

事例2 企業犯罪「大手食肉販売業会長による詐欺(補助金不正受給)事件」
・約50億円の詐欺事件
・政治、行政、経済等社会の諸分野
・金力、権力、知力、暴力等の種々の力
・構造的な利権を創出し、違法・不当に利益を享受
・警察庁が定義する「構造的知能暴力事件」の1つ
・大阪府警捜査二課は同会長とその親族、側近を一斉に逮捕
・同会長は保釈金20億円を払って保釈されたが、実刑判決を受け収監
・BSE(牛海綿状脳症)対策の国産牛肉買取事業で産地を偽装し、補助金を不正受給した

事例3 情報流出「委託先社員による大手通信教育会社に対する不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)事件」
・約2,895万件の個人情報流出事件
・委託先社員が生活困窮から個人情報を持ち出し、売却
・顧客情報の漏洩を公表してから4日間で54,000件を超える苦情
・警視庁は不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)の容疑で犯人を逮捕
・2015年は、前年365万人の会員数が94万人減少し、2016年はさらに28万人減少
・刑事事件の被害者が、民事事件では加害者的立場として顧客から損害賠償請求される
・2014年度連結決算が107億円の赤字企業となり、2015年度も82億円の当期純損失を計上
・260億円の特別損失(顧客への補償、おわび文書の発送や事件の調査、セキュリティー対策)

事例4 反社チェック「暴力団関係者による大手ミシンメーカーに対する恐喝事件」
・300億円の企業恐喝事件
・約1,600億円の債務肩代わり及び担保提供
・反社会的勢力の排除は、コンプライアンスそのもの
・株主は1,125億円の損害賠償を請求する株主代表訴訟を提起
・刑事事件の被害者が、民事事件の加害者として損害賠償請求される
・2006年、最高裁は「企業、取締役の法的義務」を認め、取締役の過失を肯定
・2007年、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が策定、公表
・2008年、当時の経営陣5名に対し、約583億円の損害賠償を命ずる判決が確定する
・2011年、全国で暴排条例が施行され、市民の責務や努力義務、禁止行為が定められる


上記は、1つの事例ごとに1枚のスライドで箇条書きにまとめて、合計4枚のスライドを簡単に作成できます。
研修最後の振り返りとしても活用できますので、ぜひお試しください。


以上、この記事ではコンプライアンス教育に組み込むための違反事例4選をご紹介しました。

会社とは本来、社会の公器であり、公共性や社会正義をもたらす存在です。私たち企業人は、混沌としたこの世の中に企業こそが秩序を作り、世界を照らしていけるよう尽力していかなくてはなりません。

健全な企業活動を行えるよう、今回ご紹介した事例をうまく活用することで、コンプライアンス教育の効果をさらに高めていきましょう。

別記事にて、コンプライアンス研修を実施する目的のよくある間違いと、企業のご担当者様からお寄せいただくコンプライアンスに関する以下の質問への回答をご紹介しております。

質問1 「ハラスメントの調査方法は?」
質問2 「企業犯罪の着眼点は?」
質問3 「情報流出の初動対応は?」
質問4 「反社チェックの方法は?」

もし気になる質問がある方は、以下よりぜひご覧ください。

コンプライアンス研修の落とし穴|元刑事の研修講師が考える研修実施の真の目的とは

参考文献

『定本 危機管理』佐々淳行=著(ぎょうせい)
『ストーリー思考』神田昌典=著(ダイヤモンド社)
『1分でわかるコンプライアンスの基本』コンプライアンス研究会=著(KADOKAWA)
『マイナンバー時代の身近なコンプライアンス』長谷川俊明=著(経済法令研究会)
『週刊東洋経済 2020年3/21号』(東洋経済新報社)
『企業犯罪の基礎知識』小林英明=編著(中央経済社)
『企業犯罪への対処法』小林英明=編著(中央経済社)
『食肉の帝王』溝口敦=著(講談社)
『現代消費者法 No.50』(民事法研究会)
『経営者のための情報セキュリティ Q&A 45』北條孝佳=編著(日本経済新聞出版社)
『デジタル鑑識の基礎(上)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『デジタル鑑識の基礎(中)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『デジタル鑑識の基礎(下)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『実務に効く 企業犯罪とコンプライアンス判例精選』木目田裕+佐伯仁志=編(有斐閣)
『実務に効く コーポレート・ガバナンス判例精選』野村修也+松井秀樹=編(有斐閣)
『県警VS暴力団』藪正孝=著(文藝春秋)
『悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル』藤川元+市民と企業のリスク問題研究会=編(民事法研究会)
リスク対策.com「企業犯罪 VS 知能犯刑事 麻布署6年の研究と発見」榎本澄雄=著

ABOUTこの記事をかいた人

知能犯刑事として20億円を越える地面師詐欺など社会的反響の大きい告訴事件を数多く担当。6年あまりで警視総監賞4件、刑事部長賞7件、組織犯罪対策部長賞3件受賞。コロナ禍にコンプライアンス・クレーム対応研修講師のほか、受電1日最大4,000件、スタッフ最大60人のコールセンターで顧問を務める。著書『元刑事が見た発達障害』。リスク対策.com『企業犯罪 VS 知能犯刑事』連載中。