「人前で話すことが好きである。」
時々行われる適性検査で、必ずと言っていいほどこの質問に出会いますよね。
本当は大の苦手、人前では話すのはなるべく避けたいという人でも、人事評価を考慮して0〜5の選択肢の内4あたりを決まって付けていませんか?
このコラムでは、ビジネスシーンにおいて「人前で話す」、特にプレゼンテーションについて改めて分析してきます。
目次
効果的な情報伝達としてのプレゼンテーション
効果的なプレゼンテーションを行うために、まずその目的をここで確認しましょう。
例えば、新規事業に関するプレゼンテーションの場合、それを聴いた人々からの反応としては「これはやる価値がある。」や「初耳だ、私も試してみたい。」、はたまた「この事業は利益性が高そうだから投資をしよう。」など様々です。
プレゼンのテーマは必ずしもビジネスだけに限らず、私が先日聴いたものは「日本の女性管理職」に関してでした。
「改革の余地がこんなにあるのか。」や「世界的に見て日本は特異なのか。」と感想を聴衆者と共有することができました。
このように、どんなプレゼンテーションに関しても、その目的は、聴いている人へ行動や認識の変化を促すことだと考えます。
重要なので繰り返しになりますが、「理想的なプレゼンテーションは自分本位の発表だけでは成立しません。
総じて目的は、相手へ情報を伝えることで、聴いた後の行動変容を最大化すること」にあります。
相手の視座に立って、相手のニーズやシーズから逆算してプレゼンテーションを組み立てることが求められます。
オーディエンス側はどういう人か?
プレゼンテーションを控えて、第一にパソコンに向かって発表資料作りやセリフ原稿書きに取り掛かる人が時々いますが、私はこれをオススメしません。
まず始めに行うべき準備は、オーディエンスの分析、想定を詳細に行うことです。
社内に向けてか社外か、対社内の場合、共有している既知の情報はどれ程あるか。社外にあっては、同業者か異業種か、潜在層を含め顧客企業や消費者も同席しているか。
聴衆側の分析をしっかりと行った上で、その彼らが欲している価値や情報は何かと分析を深めて行きます。
具体的に例えば、
- 社外に向けて→特に既存顧客→既知情報を共有済み→新製品やリリース予定の内容に限り丁寧に細かく伝えよう。
- 社内→新規事業選考会→審査員7名→どういった選考基準か、それぞれ審査員の専門や関心対象は何か→他の主要事業への影響や関連を目立たせよう。
- 「自分ごと化する」などと表現として流行していますが、発表内容が自分に近い、あるいは自社に関わっているとオーディエンス側には漏れなく感じてもらうことが大切です。自分の生活に影響が薄い、自社事業に応用性が想像できない話は聴いてくれません。
皆さんもそうではないでしょうか?
話は別の言い方をすれば、オーディエンスが持つ自分ごとの把握です。
この第一段階をしっかり行った後であれば、パワーポイントのデザインや文言、セリフの言い回しなどの具現化のプロセスも、軸を持って且つ柔軟に進めることが可能です。
関連して、大企業や官庁においては代々受け継がれる発表フォーマットなるものが存在している場合があります。
表示資料の色使いは3色までや、左上にトピックを横書きで入れるなど、デザインやレイアウトに細かな規定が各企業で設けられています。
「そこまでしなくても・・・」と声が聞こえてきそうですが、意中の企業や担当者がいれば、事前にその発表フォーマットを把握し、オーディエンス企業の趣向に合った形式でプレゼンすることで、円滑な理解をしてもらうことも可能です。
“退屈”という壁
現実問題として、前のめりになって熱心にプレゼンの一言一句を聴いてくれる、審査してくれることはまれです。
大勢に向かってのプレゼンに慣れている方は皆頷いていただけるかと思います。
場合によっては、一日20番続けて聴いて審査を行うイベントもあります。退屈を全くしないというのも難しいです。
かく言う私も、初めてのプレゼンをした際、一列目の女性が終始スマートフォンを操作しているのを気にしてしまい、大幅に終了時間を超えてしまう失敗をしました。余談ですが、発表の直後、彼女が一番に質問をしにいらっしゃり、実は発表を聴きながら、スマホにメモを残していたのでした。
「できるだけ多くの聴衆の退屈を吹き飛ばす!」
登壇のその一瞬、マイクを持って発する一言目、最初に映し出されるスライド。
退屈という大きな敵を倒す“闘い”はプレゼン開始直前から始まっています。
いくつか私も活用している実例を紹介いたします。オーディエンスの退屈を払拭すべく、日々新しい手法が実践されています。
1:スライド一枚大の97%
「なんの数字だろうか?」
「3%足りない?」など見た人達は感じてくれます。
営業目標やKPI達成率、前期比など、特に我々ビジネスパーソンは数字を日々意識して生きています。
このプレゼンでは終了間際まで、97%がなんの数値かを明言せずにヒントを小出しにして注意を引き続け、話を展開されていました。
2:検索「上司 お返し」
Googleの検索フォームに文字を入れる動画がデカデカと表示されました。
テーマはECサービスに関してでした。
聴衆側の視点に立って、上司へのお返しという悩み、課題を冒頭に共有し、所謂上司と部下間のあるあるネタを交えて、最後に課題を解決するというプロットでした。
首尾一貫して、最後のスライドは「部下 好き」動画で締め括られました。
文字で紹介すると中々伝えきれませんが、この斬新で、エンターメント性高いプレゼンに会場は笑いが絶えず高い結果としても評価を受けていました。
3:ツッコミどころを残す
細かい表現やデータに関して、特に裁量者は注視しています。
全て定量的に伝えることは情報伝達としては優れていますが、単調に聞こえ、退屈なプレゼンになりがちです。
敢えて拡大解釈できる表現を使う、定性的なメタファー、ツッコミをしたくなる言い回しを強調し、後で定量的に説明し、ボケとツッコミを自己完結、解消する手法も効果的です。
応用編・特別な対策
1:フィルタリングを意図したプレゼンテーション
冒頭のオーディエンス分析を別の角度で活用することも可能です。
例えば、会場200人いる中で、特定の知見や知識がある人に限定してコンタクトを取りたい場合などです。
採用や事業提携などが想定されます。
聴衆の90%が理解できなくても、少数の10%に向けて深く説得する。
聴衆というマスに向けてフィルターリングをかけることに主軸を置き、専門的な表現を選ぶ方に舵を取ります。
オーディエンスの分析を逆手にとり、万人受けを“断捨離”して、聴いて欲しい対象にだけ話を説くスタイルです。
2:配布資料としての役割を忘れない
前述の退屈に対する課題とも関連して、私の個人的な経験則を共有させていただきます。
プレゼンにこれでもかと、工夫を尽くしに尽くして臨んでも、オーディエンス側やピッチバトルの審査員側が話半分にしか聴いてくれないことは往々にしてあります。
そんな場合も、匙を投げずに、印象を少しでも残そうとするのが得策です。
中には、プレゼン開始前に事前資料を読み込んだ時点で、審査をほぼ終えているという人もいらっしゃいました。
悲しいかな、これではプレゼンテーションではなく、資料審査になってしまっていますが・・・。
こういった状況にも対応するため、私が推奨するのは、表示スライドや印刷資料を眺めただけで内容がほぼ伝わるように作成するということです。
事前に配布資料提出となっている場合は特に、右下にセリフ原稿の要約やコピーライティングなどを敢えて添えることでその場では、関心を持っていなくても、ふと気を引く表現などが後で効いて来ることは私もありました。
まとめ
プレゼンテーションの目的、さらに事前準備の中で、オーディエンスの分析、具体的な事例や対策を見てきました。
もちろん他にもテクニックや手法など挙げきれない程あります。限られた時間の中で、全てを不足なく理解してもらうことは当然、限界があります。
オーディエンスを密に分析して、
「もう少し話を聴いてみたいな。」
「5分あっという間。」
と退屈を払拭し、興味を“後味”として残せれば、あなたは「人前で話す」目的を十分達成したといえるでしょう!
ぜひ、退屈させないプレゼンテーション、行動を促すプレゼンテーションを実践してみてください。