1on1を制度として導入しても、上司が話したいことを話す場になってしまい、部下にとっては報告の負担が増えるだけで終わるケースが多く見られます。何を学ばせ、どの場面で実践させるかという設計が、研修の成否を分けます。
1on1の目的と原則、対話スキル、実施設計という3つの学習領域を、それぞれの習得に向いた形式に割り振ることで、研修後の行動変容につながる設計が組めます。
本記事では、1on1研修で扱う内容と実施形式の使い分けを解説します。よくある失敗パターンや実務上の疑問にも触れているので、研修設計の判断材料にしてください。
目次
1on1研修とは
1on1研修とは、上司と部下が定期的に対話し、部下の成長と課題解決を支える1on1ミーティングを、管理職が効果的に運営できるようにする研修です。1on1ミーティングそのものは対話の場であり、研修はその場を機能させるための知識とスキルを管理職に身につけてもらう取り組みです。
受講の主体は管理職・マネージャー層です。ただし、部下側が1on1の位置づけを知らないままでは対話がかみ合わないため、メンバー向けに目的を共有する研修を並行して設計することも増えています。
マネジメントを対象としたOFF-JTを実施した事業所は46.9%で、「今後実施したい」とする事業所は35.5%にのぼります。管理職育成は組織の関心が高い領域であり、1on1のような部下との対話を扱う研修は実務直結型の内容として位置づけられます。
出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」調査結果の概要(2026年7月31日公表・図29)
1on1が機能しないと言われる最大の理由は、上司が話す場になってしまうことです。上司の進捗確認や評価の伝達が中心になると、部下は受け身で聞くだけになり、対話の質は下がります。研修では、まず1on1が誰のための時間かという前提を揃えるところから始めます。
1on1研修で扱う内容
1on1研修が扱う内容は、目的の理解、対話スキル、実施設計という3つの領域に整理できます。どれか一つを押さえるだけでは機能しにくく、3つをまとめて設計するか、順を追って学ばせる構成が実務的です。
1on1の目的と原則を理解する
まず押さえたいのは、1on1が誰のための時間かという前提です。上司が話したいことを話す場ではなく、部下が自分で考えを整理し、次の行動を決める場として設計されています。
この前提を共有しないまま面談を始めると、上司はティーチング(指示・指導)をするつもりで話し続け、部下は質問される前に答えを返すだけになります。1on1とコーチングの関係を理解し、「教える」から「引き出す」へと関わり方を切り替えることが、研修の最初の論点になります。コーチングがなぜ機能するのかという仕組みと効果も、この段階で押さえます。
傾聴・質問・フィードバックの技法を身につける
技法として扱うのは、相手を認める、話を聴く、考えを引き出す質問をする、気づきを促すという4つの対話スキルです。1on1の質を最終的に決めるのは、この部分です。
傾聴は「聞いているふり」ではなく、相手の言葉を受けて問い返す積極的な関わりです。質問は答えを誘導するのではなく、部下が自分で考える余白を作る問いかけです。認める関わりとフィードバックは、部下の自己評価と上司の観察をすり合わせる場面で使います。それぞれ知識として理解するだけでは足りず、実際にやってみることで言葉の出し方が変わります。
面談の型と実施設計を学ぶ
具体的には、1on1ミーティングの進め方の型と、機能するための前提条件を扱います。
進め方の型がなければ、毎回の面談内容が場当たり的になります。アジェンダの持ち方、話す順序、まとめ方という構成の枠を先に決めておくことで、限られた時間でも対話の密度が上がります。あわせて、頻度・1回の時間・話す内容の範囲という条件を制度として決めておくことが、型を機能させる前提になります。この条件が決まっていなければ、型を学んでも使う場が整いません。
1on1研修をどう実施するか
1on1研修の内容は、知識として理解する「目的と原則」、実際にやってみて身につける「対話スキル」、制度として設計する「実施設計」という性質の異なる学習が混在しています。この3種類を同じ形式で扱おうとすると、どこかに無理が生じます。
実施形式ごとの性質を整理すると次のようになります。
| 実施形式 | 適する学習内容 | 同時に届けられる人数 | 必要なもの | 記録の残り方 |
|---|---|---|---|---|
| 集合(対面) | 演習・対話の練習・フィードバック | 会場の収容人数 | 講師・会場・日程調整 | 出席簿 |
| オンライン(ライブ) | 拠点をまたいだ演習・説明と質疑 | 拠点をまたいで可 | 講師・配信環境・日程調整 | 接続ログ |
| 動画(eラーニング) | 知識・型の標準化 | 人数の制限なし | 教材・配信のしくみ | 受講履歴・テスト結果 |
対話スキルは演習・ロールプレイで身につける
傾聴・質問・フィードバックという対話スキルは、他者とのやり取りを通して練習しないと身につかない領域です。知識として「部下の話を聴く」と分かっていても、実際の面談では言葉が出てこない、誘導する質問をしてしまう、という経験をする管理職は少なくありません。
この部分は集合またはオンライン(ライブ)形式が向いています。部下役と上司役に分かれてロールプレイを行い、その場でフィードバックを受ける形が一般的です。演習の前に目的・型・技法の前提知識を事前の動画で共有しておくと、集合の時間を実技に集中させられます。
1on1の目的と基礎知識はeラーニングを有効活用する
1on1の目的と原則、進め方の型、機能するための条件という知識の部分は、動画で届けられる領域です。管理職研修でeラーニングが有効な理由は2点あります。
第一に、管理職は日程を揃えにくい層です。OFF-JTを実施した事業所のうち管理職層を対象としたものは49.0%で、新入社員(58.7%)や中堅社員(57.4%)を下回ります。受講のタイミングを本人に委ねられる形式は、この制約と相性がよい選択肢です。
第二に、誰が受講したかが記録として残る点です。制度として1on1を導入する際、管理職全員が同じ前提を持っているかを確認できることが運用上の前提になります。動画であれば受講履歴が記録として残り、未受講者への配り直しも対応しやすくなります。
1on1研修を成功させるポイント
1on1研修は、実施すること自体は難しくありません。難しいのは、研修後に管理職の面談のあり方が実際に変わるかどうかです。ここでは実務でつまずきやすい2つの論点を取り上げます。
上司が話す場にならないよう目的を先に共有する
形骸化の最大の原因は、上司が話し続けて部下が受け身になるパターンです。1on1の趣旨を管理職が研修で学んでいても、部下側が「何のための時間か」を知らなければ、対話はかみ合いません。
研修設計の段階で、管理職向けの研修とあわせてメンバー向けの周知を組み込む形が有効です。管理職には面談の型や対話スキルまで、メンバーには1on1の位置づけと事前準備の進め方を共有するという役割分担で、対象ごとに違う内容を届けられます。
「1on1でダメな例」として現場でよく挙がるのは、報告を一方的に聞いて終わる、上司の経験談で時間が埋まる、評価コメントを伝えるだけで終わるというパターンです。研修でこれらを「やってはいけないこと」として明示し、代わりの対応を演習で練習することが、実際の面談を変える近道になります。
研修で学んだ型を実際の面談で継続的に使う場を設ける
研修で型を学んでも、実際の面談で使う機会がなければ定着しません。頻度・1回の時間・話す内容の範囲を制度として先に決めておくことが、型を機能させる前提です。研修と並行して、制度の枠を整えることが実施担当者の役割になります。
厚生労働省の調査では、人材育成の問題点として「指導する人材が不足している」を挙げた事業所が59.5%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%でした。管理職の時間が取りにくいという制約のなかで、1on1の前提知識を動画で個別に届け、集合の場を演習だけに絞る設計は、この制約への現実的な対応になります。
出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」調査結果の概要(2026年7月31日公表・図35)
まとめ
1on1研修は、目的と原則の理解、対話スキルの習得、実施設計という3つの学習領域からなります。この3つは性質が異なり、知識の部分は動画で、対話スキルは演習で身につける形に分けて設計することが、研修後の行動変容につながります。
形骸化を防ぐ鍵は、管理職だけに研修を届けるのではなく、メンバー向けの周知と制度の枠組みを同時に整えることです。上司側が型を学んでも、部下側が何のための場か知らなければ対話はかみ合いません。
管理職は日程を揃えにくく、育成に使える時間が限られている層です。前提知識を動画で個別に届け、演習とフィードバックに集合の時間を集中させる組み合わせは、この制約と相性がよい設計になります。まず動画で目的と型を届け、次の集合の場を対話演習に絞る設計から始めると、管理職の時間制約のなかでも実施が回りやすくなります。
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よくある質問
Q. 1on1研修では、具体的に何を学びますか?
1on1研修では、目的と原則の理解、対話スキルの習得、実施設計という3つの領域を扱います。まず1on1が誰のための時間かという前提を揃えたうえで、傾聴・質問・フィードバックといった対話の技法と、面談の進め方の型を身につけます。機能するための条件として、頻度・時間・話す内容の範囲を先に決めておくことも、研修のなかで扱う論点です。知識の習得と演習による実践を組み合わせた構成が一般的です。
Q. 1on1でよくある失敗パターンは何ですか?
最も多いのは、上司が話し続けて部下が受け身になるパターンです。報告を一方的に聞く、上司の経験談で時間が埋まる、評価コメントを伝えるだけで終わるといった例が現場で挙がります。1on1の趣旨が管理職側にしか共有されていないと、部下は何のための時間か分からないまま出席し続けることになります。研修では、こうした「やってはいけないこと」を明示し、代わりにどう関わるかを演習で練習することが定着への近道です。
Q. 1on1研修は管理職だけが受ければよいですか?
管理職だけが学んでも、部下側が1on1の位置づけを知らなければ対話はかみ合いません。管理職には面談の型や対話スキルを、メンバーには1on1の目的と事前準備の進め方を、というように対象ごとに異なる内容を届ける設計が有効です。組織階層やグループ単位で受講対象を分けて配布できる仕組みがあると、管理職向けとメンバー向けで内容を切り替えやすくなります。
Q. 1on1の理想的な頻度と時間はどのくらいですか?
頻度と時間に絶対の正解はなく、組織の状況や対象者の関係性によって変わります。実務では週1回15〜30分、または隔週30分という設計をとる企業が多く見られます。重要なのは、頻度・時間・話す内容の範囲を制度として先に決め、管理職と部下の両方が事前に把握している状態を作ることです。条件が決まっていなければ、面談の型を学んでも使う場が整いません。
Q. 管理職研修と1on1研修は、どう使い分ければよいですか?
管理職研修は、評価・チーム運営・目標管理など管理職の役割全般を扱います。1on1研修はその中から「部下との対話」に絞って深く扱う研修です。管理職研修の中で1on1に触れる内容が含まれていることもありますが、対話スキルの演習や実施設計まで踏み込む場合は1on1研修として別に設計するほうが、扱う内容の密度を保てます。既存の管理職研修にない論点を補う形で導入するケースも多い研修です。












