データサイエンス研修とは、データサイエンスについて学ぶ研修のことです。収集したデータを用いて組織や社会の課題解決を可能とするデータサイエンスが注目される一方で、以下のような疑問を抱く企業様も多いのではないでしょうか。
「そもそもデータサイエンスとは何か」
「自社にもデータサイエンス研修は必要なのか」
「データサイエンス研修を行うメリットやデメリットを知りたい」
そこで本記事では、データサイエンス研修について、基本情報から必要性、メリットやデメリット、研修を通じて習得すべきスキルまで解説します。
目次
データサイエンスとは
そもそもデータサイエンスとは、収集したデータを統計学や機械学習などの理論を用いて、組織や社会における課題に活用する手法(学問)です。なお統計学および機械学習が担う範囲は以下の通りです。
統計学の範囲:特徴を理解する・因果関係を推論する・定量的に検証する
機械学習の範囲:予測する・グルーピングする
データサイエンスの具体的な活用例
データサイエンスについてより具体的にイメージするために、例として「退職者を減らすためにデータサイエンスを用いた事例」を紹介します。
本事例の目的は「目的1.退職に影響する因子を定量的に測りたい」「目的2.退職する確率を予測したい」の2つです。
基となるデータには、以下のような各社員毎の「在籍状況(在籍or退職)・入社年度・平均残業時間・年収・役職(一般社員~部長)など」が一覧になったものを用います。
活用データ:各社員の在籍状況および基本データ
社員名 | 在籍状況 | 入社年度 | 平均残業時間 | 役職 | ・・・ |
AAAA | 在籍 | 19XX年 | 25.6 | 課長 | ・・・ |
BBBB | 退職 | 20XX年 | 44.2 | 一般社員 | ・・・ |
CCCC | 退職 | 19XX年 | 38.2 | 主任 | ・・・ |
DDDD | 在籍 | 20XX年 | 31.7 | 一般社員 | ・・・ |
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
ZZZZ | 在籍 | 19XX年 | 28.9 | 課長 | ・・・ |
まず上記データを用いて、目的1を明らかにするために分析を行うと次のような結果を得られます。
図:退職に影響する因子(統計学の範囲)
この図によって、例えば「残業時間は退職リスク拡大にプラスの影響を与える」など、各因子(平均残業時間などの要因)が退職リスクに対してどのように影響するのかを把握することが可能となります。退職リスクを高める要因が特定できれば、根拠をもって対処策を講じることができます。本分析は、統計学によるものです。
次に、目的2を分析することで、次のような結果を得ることが可能です。
表:社員が退職する確率(機械学習の範囲)
社員名 | 退職する確率 |
AAAA | 10% |
BBBB | 72% |
CCCC | 52% |
DDDD | 24% |
・・・ | ・・・ |
ZZZZ | 12% |
この表により、退職リスクが高い社員を特定することが可能となります。
リスクが高い社員に対して、個別での面談やヒアリングなど事前の対策につなげることができるでしょう。本分析は、どちらかといえば機械学習によるものです。
以上のように同じ基データであっても「何を明らかにしたいか」によって、分析手法を使い分けることが必要です。分析対象の「内部構造」や「因果関係」を知りたいときには統計学、「予測」や「グルーピング」を行いたいときは機械学習と理解しましょう。
データサイエンス研修とは
データサイエンス研修とは、収集したデータを統計学や機械学習などの理論を用いて、組織や社会における課題解決に活用するデータサイエンスについて学ぶ研修のことです。
データサイエンスにおいては、データを集めることではなく「データから何を読み解けるか」や「データをどう扱うか」が重視されます。ビジネスの現場においては刻々と状況が変化し、これまで有効だった考え方や効果的な手法が急に通用しなくなるケースが少なくありません。
そこで、必要なデータを取捨選択し、統計学などで明らかにした分析結果から、売上アップや組織の発展に対して有用な知見を得るための能力を、データサイエンス研修を通じて身につけるのです。
端的に表現すれば「データを読み解く力、データを分析する力、分析結果をもとに課題を解決する力」の3つを習得するための研修といえるでしょう。
データサイエンス研修の必要性
データサイエンス研修が必要とされる背景には、いわゆるDXおよびIoTの活性化があります。
DX(Digital Transformation)とは、様々なデジタル技術を用いて、業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出、古いシステムからの脱却、企業風土の変革などを推進していくことです。
IoT(Internet of Things)とは、モノのインターネットと言われ、もともとはインターネットに接続されていない様々なモノ(建物・車・家電製品など)を、ネットワークに乗せてデータ収集や、遠隔操作などを可能にすることです。
例えば、エアコンを遠隔操作し、帰宅時間に合わせて空調を整えるといった技術もIoTです。なお厳密には、IoTはDXのひとつとして位置づけられています。
そして、DXおよびIoTにおいて欠かせないのがデータを扱う力です。
とりわけIoTによってあらゆるモノがインターネットと接続されることで、大量のデータが得られるようになりました。大量かつ複雑化したデータ(いわゆるビッグデータ)を正しく分析し、活用できる能力をもった人材が必要とされているのです。データサイエンスを専門とするデータサイエンティストの需要も正解中で高まりつつあります。
まだまだDXやIoTを本格的に推進していない企業も少なくありませんが、今後はどの企業においても扱うべきデータや分析を要する場面が増加していくことは間違いないでしょう。
データサイエンス研修のメリット
データサイエンス研修を実施するメリットを紹介します。
収集・蓄積しているデータを有効に活用できる
自社で収集・蓄積しているにも関わらず、上手く活用しきれていないデータはないでしょうか。データサイエンス研修によって「データを読み解く力、データを分析する力、分析結果をもとに課題を解決する力」を身につけることができれば、先に挙げた例のような「退職者を減らす」といった重要課題の解決に役立てることが可能です。
組織内のITリテラシー向上
データサイエンスの習得には一定以上のITリテラシーが欠かせません。そのためデータサイエンス研修では、受講者のレベルに応じてITリテラシーを底上げするための学習も含みます。
今後ますますDXやIoTの流れが加速していくなか、自社においてもデータサイエンスの基礎を理解できるレベルのITリテラシーを備えた社員の育成は欠かせないでしょう。
DXやIoTを推進しやすくなる
現在進行形でDXやIoTを推進している企業も多いのではないでしょうか。データサイエンス研修を通じてデータを活用するスキルを身につければ、必要なデータを収集するためにはどのようなIoTを導入すべきかや、自社に適したDX施策はどのようなものかなどを提案できる人材が増えることを期待できます。
たとえ提案できるレベルにまでは達しなかったとしても、DXやIoTへの理解が深まることで推進および導入はスムーズになるでしょう。
データサイエンス研修のデメリット
データサイエンス研修のデメリットを紹介します。
ITリテラシー格差を助長しかねない
メリットと表裏一体ではありますが、データサイエンス研修を実施することで社員間のITリテラシー格差が開いてしまう可能性があります。
データサイエンス研修の対象者には、既にある程度のITリテラシーをもった社員が選ばれ、IT技術を用いたデータ活用について学びます。その結果、参加していない社員との格差がさらに開いてしまうのです。
とはいえ今後さらにDXやIoTが浸透するにつれて、得手不得手に関わらず一定以上のITリテラシーは不可欠なものとなります。
そこで、データサイエンス研修に参加した社員をITリテラシーが低い社員に対して教育を行えるレベルにまで成長してもらうことや、基本的なITリテラシーに関する研修を別途開催することで補うようにしましょう。
社員の負担増加
重要なテーマではあるものの、新たにデータサイエンス研修を行うとなると、研修時間確保や開催側の負担など、社員の負担増加は避けられません。
そこで有効なのが、パソコンやスマートフォン等とインターネットを利用して教育、学習、研修を行えるeラーニングです。ネット環境さえあればいつでもどこでも受講可能です。
専門的なデータサイエンティストの育成となると、外部研修への派遣や外部講師への依頼がおすすめですが、データサイエンスの基礎や基本的な考え方やノウハウはeラーニングで習得できます。
受講者は空き時間などを利用して好きなタイミングで受講でき、開催側も受講案内のみで、研修のために参加者全員のスケジュール調整を行う必要もありません。
またeラーニングの活用自体が研修のオンライン化であり、DXの実現となります。
eラーニング活用について詳細を知りたい方は以下の資料をご確認ください。
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データサイエンス研修で習得すべきスキル
データサイエンス研修で習得すべきスキルを紹介します。
基礎的なITスキル
データサイエンスを習得する上で、基礎的なITスキルは欠かせません。具体的には、インターネットやセキュリティに関する知識はもちろんのこと、データの可視化や機械学習を行う場合にはプログラミングスキルも求められます。
統計解析スキル
データサイエンスには、統計解析スキルが求められます。例えば、売上に関係するユーザー属性を特定するためには重回帰分析、ユーザーをセグメントに分割する(分類する)ためにはクラスタリング分析などを用います。
いずれも高校卒業レベルの数学の知識があれば理解可能ですが、より本格的なデータサイエンスを行う場合は、大学レベルの解析学や線形代数学などが必要となります。
まずは自社が必要とする結論を出すためには、どの程度のデータサイエンスを行う必要があるのかを見極めることが必要です。
課題解決に役立つ思考法
データサイエンスを行う主な目的はビジネス上の課題解決です。そのためには「データから何を読み解けるか」や「データをどう扱うか」を考えることが重要です。具体的には、以下のスキルを身につけると良いでしょう。
ロジカルシンキング(論理的思考)
ロジカルシンキングとは、物事の結果と原因を明確にとらえ、両者のつながりを考える思考法です。
様々な事象を結果と原因に分解・整理し、本質を見極めるのに役立てます。
データ分析前には仮説の設定、データ分析後には結果の解釈とデータサイエンスにおいても、あらゆる場面で必要なスキルです。
クリエイティブシンキング(水平思考)
クリエイティブシンキングとは、前提を設けず水平方向に発想を広げる思考法です。
ラテラルシンキングと表される場合もあります。固定観念や既存の手法にとらわれず自由に考えることで、新しい発想につなげます。
分析結果が予想外の結果になった際などに、要因について固定観念を排除して考えるのに役立ちます。
クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキングとは、物事の本質を見極めるためにあえて疑いをもって考える思考法です。
「批判的思考」と和訳されますが、批判のために誤りや欠点を探すわけではありません。本来の目的は、本質を見極めて改善やリスク回避につなげることです。
分析結果やデータを扱う際に「本当にこの解釈で良いのか」や「もっと正確な見方があるのではないか」など、あえて疑いをもつことでより良い結果に導きます。
まとめ
データサイエンス研修とは、収集したデータを統計学や機械学習などの理論を用いて、組織や社会における課題解決に活用するデータサイエンスについて学ぶ研修のことです。
そもそもデータサイエンスとは、収集したデータを統計学や機械学習などの理論を用いて、組織や社会における課題に活用する手法(学問)です。例えば、社員のデータから「何が退職を助長させる原因か」を明らかにするのは統計学、「社員が退職する確率」を予測するのは機械学習にあたります。
またデータサイエンス研修のメリットは「収集・蓄積しているデータを有効に活用できる」「組織内のITリテラシー向上」「DXやIoTを推進しやすくなる」の3つです。反対にデメリットは「ITリテラシー格差を助長しかねない」「社員の負担増加」の2つであり、社員の負担を軽減するためにはeラーニングの活用が有効です。
データサイエンス研修で習得すべきスキルは「基礎的なITスキル」と「統計解析スキル」、そして課題解決に役立つ思考法として「ロジカルシンキング」「クリエイティブシンキング」「クリティカルシンキング」を紹介しました。いずれもデータサイエンスを実践するために不可欠なスキルです。
今後ますますDXやIoTが広がりをみせるなか、どの分野の企業においてもデータサイエンスの知識とノウハウを要する場面が増加していくことは間違いありません。まずは自社にとってどのレベルのデータサイエンスが必要なのかを見定めた上で、最適なデータサイエンス研修を実施しましょう。