企業で活用できる教育手法の一つに、OFF-JT(Off the Job Training:オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)があります。
OFF-JTとは、日常の業務から離れて行う座学の集合研修などを指し、OJT(On-the-Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とともに多くの企業に採用されています。
本記事では、OFF-JTの概要やOJTとの違い、それぞれのメリット・デメリット、効果的な活用方法を解説します。
オンライン型の動画研修で自発的な学習を推進しませんか?
新人教育の鍵を握る「OJT」と「OFF-JT」ですが、「育成にかける時間がない」「社員が自発的に学ばない」など、多くの企業が課題を抱えています。
KIYOラーニングでは、新人教育にお悩みの企業担当者に向けて、オンライン型の人材育成モデル『デジタル時代の人材育成モデル』をお届けしています。
社員の学習が習慣化する育成モデルや、施策成功に欠かせない4つのポイントをまとめましたので、自社の人材育成計画にぜひご活用ください。
目次
OFF-JTとは
OFF-JT(Off the Job Training:オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、日常の業務から離れて行う座学の集合研修などを指します。
企業内で行う業務に関する直接的なトレーニングではなく、育成担当者が企画する教育プログラムや、社外の研修機関が提供している研修などを育成対象者に受講させ、必要な知識やスキルを習得してもらう方法です。
OFF-JTの主な方法には、eラーニングや集合型研修(座学研修)があります。
eラーニングはインターネットやPC、タブレット端末などを活用した学習方法で、集合型研修は講師による座学形式の研修です。
厚生労働省における令和5年度調査によると、正社員または正社員以外に対してOFF-JTを実施した事業所の割合は72.6%、実施していない事業所の割合は27.2%でした。
実施した事業所の内訳は、以下のとおりです。
正社員と正社員以外、両方に実施した | 27.1% |
正社員のみ実施した | 44.3% |
正社員以外のみ実施した | 1.2% |
また、OFF-JTを実施した対象職層の割合は、以下のとおりです。
引用:厚生労働省「調査結果の概要 1 企業調査 p.14」
正社員では新入社員が56.9%と最も多く、次いで中堅社員が56.9%、管理職層が48.0%となっています。正社員以外では、28.3%との結果でした。
このことから、OFF-JTは新人教育のみならず、次世代のビジネスリーダー育成を目的に中堅社員にも多く行われていることがわかります。
OJTとの違い
OJT(On the Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、実際の業務に取り組みながら行う育成方法のことです。育成対象者に対して、育成担当者が実務を通じて指導することで、その業務に必要な知識や経験を養います。
OFF-JTとOJTは、どちらも育成対象者のスキルや知識の向上を目的としている点は同じですが、目的達成に向けたアプローチが違います。
OFF-JT | OJT |
・職場を離れて行う体系的な教育 ・多様な人との交流を通じて視野を広げる ・専門的な知識やスキルを習得 | ・職場で実際の業務を通して教育 ・育成担当者からの直接指導 ・実務に即したスキルを習得 |
習得した知識やスキルを実務で効果的に発揮するためには、両者がセットになった教育が求められます。 育成担当者は、OFF-JTとOJTをどのように使い分け、設計するのかを検討しましょう。
OFF-JTと自己啓発との違い
OFF-JTに関連する用語として、自己啓発がしばしば出てくることがあります。自己啓発とは、能力を開発するために、自分の意思で精神的な成長を目指して勉強や研修などを受けることです。
OFF-JTとの違いは、主体性と学習内容の範囲です。
OFF-JT | 自己啓発 |
・組織が計画的に実施 ・多くが業務に直結した内容 ・外部講師や社内講師による指導 | ・個人の主体的な学習 ・業務に直結しない内容も含まれる ・個人で費用を負担する場合が多い |
OFF-JTでは、業務の基礎となる内容をメインにしてプログラムが組まれています。
一方で、自己啓発は自主的に成長に向けて勉学を進めるため、何を学ぶかは社員一人ひとりに委ねられます。
OFF-JTが必要とされる理由
OFF-JTが必要とされる主な理由は、以下の3つです。
- 人材不足に対して人材の質を上げなければならない
- リモートワーク普及に合わせた指導が必要
- OJTのみでは人材育成にばらつきが生じる
生産年齢人口が減少している近年では、多くの人材を雇用するより、既存の社員を育成する取り組みが重要です。OFF-JTは一度に多くの社員に研修を行えるため、人的資源も抑えられます。
また、リモートワークの普及に伴い、現地での人材育成が困難な状況も出てきました。OFF-JTのeラーニングという方法であれば、場所にとらわれず、育成対象者の育成が可能となります。
加えて、現場で実務的なスキルを身に付けるOJTは、育成担当者に属人化してしまうため、教育の質にばらつきが生じやすいことが課題でした。プログラム内容が決められるOFF-JTを活用すると、統一した指導が可能になります。
OFF-JTとOJTのメリット・デメリット
日常の業務から離れて行うOFF-JTには、以下のメリット・デメリットがあります。
OFF-JTのメリット・デメリット
OFF-JTのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
・専門的指導で高度なスキルや知識を習得できる ・学習と業務のメリハリがつく ・異なる業界の専門家による研修で、新しい視点を取り入れられる ・現場業務の負担を軽減できる ・教育内容が統一され、自社内でのスキル均一化が期待できる ・階層別や職能別に分けて実施できる | ・外部に依頼するためのコストがかかる ・業務外の時間負担が発生する ・学習した時間や獲得したスキルが無駄になってしまう可能性がある ・学習内容に興味関心がないとモチベーションの低下につながってしまう ・育成対象者が受け身になりやすい |
OFF-JTは、業務に必要な知識やスキルを体系的に提供できるため、育成対象者への教育内容を均一化できます。
基礎的な教育は外部委託する、部署への配属前にビジネスマナーや基礎知識を習得させておく、などの対応もできるため、社内の育成担当者の業務負担も軽減できるでしょう。
一方、OFF-JTは、企業が育成対象者に受講を指示する育成方法であるため、育成対象者は受け身になりやすく、明確な目的がわかっていなければ研修が無駄になってしまう可能性があります。
育成対象者のモチベーション低下にもつながり、業務へ影響が出る恐れもあります。
研修の内容を工夫する、グループワークを組み込むなど、育成対象者が主体的に受講できるような配慮が必要です。
OJTのメリット・デメリット
OJTのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット | デメリット |
・業務に直結するスキルアップが早い ・OFF-JTの内容を実践に活用できる ・外部講師への依頼費や研修参加費などがかからない ・育成担当者と育成対象者の人間関係が構築できる ・育成対象者の習熟ペースに合わせて教育できる ・日々の業務を通じて継続的に教育できる | ・育成担当者の負担が大きくなる ・育成担当者によって教育の質や量にばらつきが出る ・業務の繁閑によって学習の進捗に影響が出る ・業務内で学ぶため教育が局所的かつ短期的になり、体系的に学習しづらい ・育成計画の作成や報告書の作成などに手間がかかる ・新入社員の育成が現場任せになりがち・育成担当者は人材育成スキルを養いつつ、教えることで対象業務への理解がさらに深まる |
業務のなかでリアルタイムにフィードバックできるOJTは、育成対象者一人ひとりに合わせて指導できる育成方法です。
育成担当者が直接、不足している知識やスキルを指導するため、育成対象者はより実践に即した内容を習得しやすく、人間関係も構築できるでしょう。
ただし、OJTは属人的な育成方法です。育成担当者への負担が大きく、教育の質や量も人によって左右される可能性があります。
企業は育成担当者に任せきりにせず、全員でフォローに入れるような体制の構築が必要です。
OFF-JTとOJTは、それぞれ目的へのアプローチの仕方や特性が異なります。習得したいテーマや内容に応じて、使い分けていくことが重要です。
OFF-JTの効果を高めるポイント
OFF-JTの効果を高めるには、OFF-JTでインプット・OJTでアウトプットするという認識で活用するのがおすすめです。
育成対象者が主体的に学習できるよう、自己啓発を促す仕組みを作るのもよいでしょう。
活用のポイントをわかりやすく解説します。
OFF-JTでインプットし、OJTでアウトプットする流れを作る
OFF-JTを実施するときは、OJTと掛け合わせると、その効果が発揮しやすくなります。
OFF-JTは、ビジネスシーンで求められる知識の「土台作り」として有効な手段です。
例えば、OFF-JTは業務上の基礎知識の他、ビジネスメールの送り方、名刺の交換方法などのビジネスマナーといった、社会人として働くうえでの基礎力を磨くことができます。
ただ、知識やスキルは実践して初めて身になるものです。その際、OJTが、実践の場を提供する機会を与えるものとして役立ちます。
とはいえ、OFF-JTでインプットした知識やスキルは、OJTで即座にアウトプットができないものが多くあります。
育成対象者には、そうした知識やスキルについても忘れないように、反復学習を促すのがおすすめです。
自己啓発を促す仕組みを構築する
企業は、OFF-JTとOJTを組み合わせて知識やスキルを定着させつつ、育成対象者が自ら学ぼうとする意欲をもてるような仕組みを作りましょう。
OFF-JTもOJTも、育成対象者にとっては教わる立場で行われるため、受け身になってしまいがちです。希望する書籍を企業で購入する、業務に役立つ資格取得を支援するなどの仕組みを構築すると、自己啓発につなげられます。
OFF-JTのやり方
効果的なOFF-JTを実施するためには、課題を整理し、必要な人材・スキルの明確化をしたうえで適切な方法で選定する必要があります。
具体的なやり方を解説しますので、導入に役立ててください。
課題の整理
まずは、OFF-JTを実施する目的を明確にするために、自社の課題を整理します。
例えば、ビジネスマナーを身に付けさせ、統一した顧客対応を行うことが課題である場合はビジネスマナー研修が必要です。管理職の質が不十分で離職率が高い場合には、マネージャー研修が求められるでしょう。
研修内容を決めるために、課題をリストアップしてみるのがおすすめです。
必要な人材やスキルの明確化
次に、自社が求める人材要件やスキルを明確化します。どのような人材になってほしいかで、必要な研修は異なるでしょう。
また、必要なスキルを育成対象者に共有することで、OFF-JTのゴールも見えやすくなります。ゴールは評価しやすいよう、具体的なスキルを挙げて設定することが重要です。
適切な方法の選定
OFF-JTには、eラーニングや集合型研修などの方法があります。適切な方法を選定することで、効果が出やすくなるでしょう。
インターネットやPC、タブレット端末などを活用したeラーニングは、研修の動画や資料の閲覧、小テストの実施などができます。
講師による座学形式の研修である集合型研修は、複数の育成対象者が一同に集まり、講師から知識やスキルを教わります。
それぞれのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
項目 | eラーニング | 集合型研修 |
---|---|---|
メリット | ・場所や時間を選ばない ・コストを削減できる ・学習履歴を管理できる | ・講師が直接指導できる ・育成対象者が質問しやすい雰囲気を作れる ・グループワークで協調性を養える |
デメリット | ・リアルな質疑応答ができない ・学習意欲の継続が難しい ・実践的な訓練が行えない | ・開催費用がかかる ・育成対象者の事前知識に差がある ・集合場所への移動が必要 |
eラーニングは、知識の定着を目的とした導入教育や基礎知識の習得に適しています。実務に直結するスキルアップには、eラーニングと実践の組み合わせが必要です。
集合型研修は、育成対象者同士で交流できるうえ、講師との対話を通じて理解を深められます。一方で、費用面や育成対象者の習熟度の差が課題となることもあります。
実施と効果検証
OFF-JTを実施した後は、効果検証が重要です。
育成対象者にアンケートやヒアリングを定期的に行い、ゴールに対しての到達度を評価しましょう。
行動変容に至っているかを測る方法として、行動チェックの評価も有効です。これは、チェックリストを用意し、基準とする行動ができているかを自己評価および他者評価する方法です。
OFF-JTの前後で行うことで、効果が可視化できます。
まとめ
OFF-JTとは、日常の業務から離れて行う座学の集合研修などのことです。eラーニングや集合型研修などの方法があります。社員の教育には必要不可欠な手法であるものの、活用方法を間違ったまま取り入れてしまうと効果を最大限に発揮できません。
知識の定着を目的とした導入教育や基礎知識の習得にはeラーニングを、育成対象者同士で交流しながら講師との対話を通じて理解を深めてほしい場合には集合型研修を選びましょう。
OFF-JTを実施するときは、OJTと掛け合わせると効果が発揮しやすくなります。知識のインプットには「OFF-JT」、アウトプットには「OJT」を活用して、効率的な教育体制の実現を目指しましょう。
従業員の成長を促す”人材育成のノウハウ”を無料でお届け
企業の発展に従業員の成長は欠かせません。しかし、
- 「人材育成を行う時間と余裕がない」
- 「どのように人材育成を進めるべきかがわからない」
- 「社員自身が人材育成の重要性を認識できていない」
といった悩みを多くの企業が抱えています。
社員が成長し、成果をあげるためには、時代の変化や企業課題にあわせた適切な育成手法が欠かせません。
そこで、人材育成にお悩みの企業担当者に向けて、最新の人材育成モデルやその実現ノウハウをまとめた『デジタル時代の人材育成モデル』を公開しています。
人材育成施策の現状や、社員の学習が習慣化する仕組みなど、カギとなる4つのポイントが詰まっています。
人事担当をはじめとした人材育成・教育に携わる方必見の内容ですので、ぜひご覧ください。どなたでも無料でダウンロードいただけます。