「コンプライアンス研修を実施しているが、今の内容でよいのか不安…」
コンプライアンス研修は多くの企業が必須テーマとして毎年実施していることが多い一方、内容がマンネリ化してしまいコンテンツの刷新を考えるケースもあるかと思います
そこで本記事では、元知能犯刑事である筆者が、コンプライアンス研修を実施するうえでの落とし穴と企業さまから寄せられるご質問への回答をご紹介いたします。
参考文献も最後に掲載していますので、お役立てください。
また別記事にてコンプライアンス違反事例の解説記事がございますので、こちらも合わせてお読みください。
コンプライアンスの違反事例4選|教育・研修の効果を高めるための資料への組み込み方も解説
目次
コンプライアンスの定義と研修目的「4つの大きな間違い」
管理職Aさん(55歳男性)は、会社の接待交際費を不正に請求し、詐欺罪で刑事告訴されました。Aさんはどこで道を間違えてしまったのでしょうか……。実はこのAさん、非常に有能な管理職だったのです。
この事例は、私が警視庁にいた時の上司の事件を元にしています。警察官の職務はコンプライアンスそのものです。
一般の職業よりも高い職務倫理と厳しい服務規程が求められます。私の上司も警察官拝命から管理職に至るまで、30年にわたって様々なコンプライアンス研修を受け、自らコンプライアンスを指導する立場の人物でした。
「なぜ今までのコンプライアンス研修では限界があるのか?」
一般のコンプライアンス研修に限界があるのは、コンプライアンスの定義と研修目的に「4つの大きな間違い」があるからです。
1 「パワハラ、セクハラは犯罪ではない」は、大きな間違い
2 コンプライアンスを「法令遵守」と定義するのは、大きな間違い
3 「コンプライアンス研修の目的は不良社員の不祥事を防ぐこと」は、大きな間違い
4 「自信と笑顔、エネルギーに満ち溢れたリーダーは不祥事を起こさない」は、大きな間違い
初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、著書でコンプライアンスについて下記のとおり説明しています。
「組織防衛がコンプライアンス」
「”Cの危機”として新たに登場したのが、コンプライアンス compliance である。”法令遵守”と訳されているが、必ずしも正しい訳語ではない。辞書によると”名詞:申出・要求・希望に従うこと、承諾・服従”(三省堂クラウン英和辞典)となっていて、 in compliance with となると”……に従って、応じて”となっている”法令遵守”はその意訳から第三義として挙げている辞書があるが、第一義ではない。それはあらゆる”不平・不満・苦情・撤回要求・不良品買戻し(リコール)・製造者責任・謝罪・損害賠償”などにどう対応するかという組織防衛のためのノウハウと解すべきだ」
「いくら誠実に法令遵守していても、グローバリゼーションが進み、日本もアメリカのような訴訟社会、弁護士社会となって、製造者責任追及のリコール、経営責任を問う株主代表訴訟、セクハラ、知的所有権侵害訴訟など、結果論的な無過失責任、道義責任の追及とその金銭化の要求が当然の資本主義社会になりつつある昨今、問題が起きたときの初動措置、記者会見のタイミングと会見者の応答技術の巧拙の如何が、その組織の存立に関わり、指導部の進退にまで及ぶ重大な危機管理のノウハウとなった。また、公益通報者保護法による内部告発者対策もコンプライアンスに含まれる」
『定本 危機管理』佐々淳行=著(ぎょうせい)より
一般の企業は「法律を守る=善」としか考えていないので、「法律を破る=悪」(企業不正)を想定していません。
法律が「破られた」場合、常に対応が後手に回ります。本来のコンプライアンスとは企業リスクを予め想定した「有事即応」であるべきです。
コンプライアンス研修とは、あなたが法律に縛られるための教育ではなく、あなたに3つのベネフィットを与えてくれるものです。
1 「仕事上の危険人物」が見抜けるようになります
2 法律を知るからこそ、法律に縛られず、自由に働けるようになります
3 ハラスメントや企業不正を見たり、聞いたりした時、「人生で後悔しない」適切な判断ができるようになります
コンプライアンス研修の目的は、不良社員の不祥事を防ぐことではなく、経営者、経営幹部、管理職、優秀な社員の不祥事を防ぐことです。そして企業リスクを予め想定した「有事即応」集団を作ることです。
皆さまにとってコンプライアンスは「不要なノイズ」のように思われるでしょう。
しかし、2022年に東京証券取引所の市場区分が再編されようとしている今、「市場第一部」2,191社のうち最上位「プライム市場」へ移行できない企業が664社あると報道されています。
東京証券取引所はプライム市場のコンセプトとして「より高いガバナンス水準」を求めています。
企業が成長過程にある時、社会に対する「誠実さ」や「公正さ」が犠牲になってしまうことも考えられます。
内部不正やサイバー犯罪を放置し、捜査機関に被害申告や情報提供をしなかった場合、犯人は野放しになり、新たな被害が発生し、企業自体が犯罪の温床となります。
そのような企業はもはや社会的責任を果たしているとは言えないので、顧客が離れることを待つまでもなく、今後の政府がその企業を厳しく取り締まり、事業自体が継続不可能となって、撤退を余儀なくされる可能性もあるでしょう。
会社とは本来、社会の公器であり、公共性や社会正義をもたらす存在です。私たち企業人は、混沌としたこの世の中に企業こそが秩序を作り、世界を照らしていけるよう尽力していかなくてはなりません。
コンプライアンスに関するよくある質問4選
コンプライアンスについて、企業様からよく寄せられる質問への回答を4つご紹介します。
ハラスメント、企業犯罪、情報流出、反社チェックです。
質問1 「ハラスメントの調査方法は?」
コンプライアンスを語るとき、最初に問題となるのがハラスメント防止対策です。
2020年、労働施策総合推進法が改正され、事業主には以下のパワーハラスメント防止措置が義務付けられました。
- 相談・対応体制の整備
- 相談や協力した労働者の解雇・不利益な取扱の禁止
- 研修の実施や必要な配慮
- 事業主自らも、優越的言動問題(パワーハラスメント)に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払う
労働施策総合推進法第30条の2から「職場におけるパワーハラスメントの3要素」として、以下が挙げられます。
- 「職場において行われる優越的な関係」を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 雇用する労働者の就業環境が害される言動
※3つの要素をすべて満たしたものをパワーハラスメントと言います。
厚生労働省によると、パワーハラスメントに該当する代表的な言動は、以下の6類型です。
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
※限定列挙ではなく例示列挙なので、個別の事案によって判断することになります。
パワーハラスメント防止措置には罰則がありませんが、以下の8つの犯罪には懲役刑や罰金刑など罰則があります。「パワーハラスメントは犯罪ではないので、警察に捕まらない」という考えは「大きな間違い」です。
- 傷害(刑法第204条) 15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 暴行(刑法第208条) 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
- 脅迫(刑法第222条) 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
- 強要(刑法第223条) 3年以下の懲役
- 名誉毀損(刑法第230条) 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
- 侮辱(刑法第231条) 拘留又は科料
- 信用毀損・偽計業務妨害(刑法第233条) 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 威力業務妨害(刑法第234条) 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
2020年、男女雇用機会均等法が改正され、事業主に以下のセクシュアルハラスメント防止措置が義務付けられました。
- 相談・対応体制の整備
- 相談や協力した労働者の解雇・不利益な取扱の禁止
- 他の事業主から必要な協力を求められた場合に応ずること
- 研修の実施や必要な配慮
- 事業主自らも、性的言動問題(セクシュアルハラスメント)に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払う
男女雇用機会均等法第11条から「職場のセクシュアルハラスメント」とは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることと定義できます。厚生労働省は「性的な言動」として以下のような具体例を挙げています。
・性的な発言の例
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(うわさ)を流すこと、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど
・性的な行動の例
性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦など
※セクシュアルハラスメントは性別を問わず、行為者・被害者になり得ます。異性に対するものだけでなく、同性に対する性的な言動も含みます。
セクシュアルハラスメント防止措置にも罰則はありませんが、以下の10の犯罪には罰則があります。
「セクシュアルハラスメントは犯罪ではないので、警察に捕まらない」という考えは「大きな間違い」です。
- 公然わいせつ(刑法第174条) 6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
- わいせつ物頒布等(刑法第175条) 2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科
- 強制わいせつ(刑法第176条) 6月以上10年以下の懲役
- 強制性交等(刑法第177条) 5年以上の有期懲役
- 脅迫(刑法第222条) 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
- 強要(刑法第223条) 3年以下の懲役
- 名誉毀損(刑法第230条) 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
- 侮辱(刑法第231条) 拘留又は科料
- 痴漢・盗撮・卑わいな言動(東京都迷惑行為防止条例第5条第1項) 痴漢・卑わいな言動 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、盗撮 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
- 私事性的画像記録提供等(リベンジポルノ防止法第3条) 公表罪 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、公表目的提供罪 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
ハラスメントの内部調査と強行犯捜査スキルの共通点をお話しします。
私の経験上、ハラスメントの加害者は、他の企業不正に関わっている可能性が高いので内部調査には注意が必要です。
最も重要な点は「被害者の安全確保」です。
最初にハラスメントの被害者を職場から離脱させて安全を確保します。そのために一時的な内部異動や便宜上、休暇を取ってもらうことも検討します。すべてはハラスメントの加害者からの攻撃や逆恨みを防ぐためです。その上で、適切な被害者対策と綿密な事情聴取を始めます。
次に、加害者の内偵を続け、加害者に気づかれないように関係者から事情聴取します。ハラスメントの証拠をしっかり早急に裏付けてから、初めてハラスメントの加害者を呼び出し、事情聴取します。
もちろんハラスメントの事実がない可能性もありますから、加害者と言われていても先入観を持たずに調査しましょう。
このような内部調査の方法は、傷害犯人や強盗犯人、殺人犯人を捜査する強行犯捜査と非常によく似ています。
安易に加害者から先に事情聴取することは絶対に避けてください。
「報復・逃走・証拠隠滅のおそれ」があるからです。
そのような不適切な内部調査のおかげで、職場のパワーハラスメントが益々酷くなった事例を私はこの眼で見たことがあります。被害者・通報者の安全を絶対に守りましょう。
質問2 「企業犯罪の着眼点は?」
企業犯罪とは権力犯罪、組織犯罪です。
企業犯罪に手を染めるのは、経営者、経営幹部、管理職、優秀な社員です。
なぜなら、彼らは権力を持ち、影響力が強く、決裁権があり、彼らなしでは組織が運営できないからです。有能な詐欺師は、外面が良く、自信と笑顔、エネルギーに満ち溢れているのです。
「構造的知能暴力事件」をご存知でしょうか?
警察庁によると「政治、行政、経済等社会の諸分野において、金力、権力、知力、暴力等の種々の力を絡み合わせて用いることにより、構造的な利権を創出し、違法・不当に利益を享受している者に係る」事件を指します。大阪府警捜査二課が検挙した牛肉産地偽装にかかる約50億円の詐欺(補助金不正受給)事件が有名です。
知能犯と暴力犯は表裏一体です。
特に組織詐欺などの知能暴力事件には、暴力団が背後で関与しているケースが多いのが特徴です。
恐喝や強盗、殺人などは面が割れる、すぐに足が付いて捕まるため、警察の捜査が後手に回りやすい知能犯事件、経済事件で資金獲得するケースが増えています。
ここで典型的な企業犯罪である「刑法第246条 詐欺罪、第253条 業務上横領罪」をチェックしておきましょう。
刑法 第246条(詐欺)
- 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
- 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法 第253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
先ほど、ハラスメントの加害者は、他の企業不正に関わっている可能性が高いとお話ししました。
ハラスメントと同じく、企業犯罪の兆しは社内の人間が間違いなく知っています。ただそれを然るべき部署に報告していないか、内部通報・内部調査のチャネルが正常に機能していないだけなのです。
企業犯罪の着眼点と知能犯捜査スキルに共通することは、社内と社外の協力者を獲得して情報収集することです。
ハラスメントや素行の悪さについて情報収集できれば、企業犯罪の内部通報・内部調査のチャネルが正常に機能し始めます。詐欺や業務上横領の場合はハラスメントと異なり、身体的な危害を加える犯罪ではないため、ある程度の情報が取れたら、そのまま被疑者に直当たりすることが普通です。
一般に知能犯罪は、民事上のトラブルどまりのこともあり、言い掛かりの可能性もあるので、慎重を期して、相手の言い分をよく聞く必要があるためです。
質問3 「情報流出の初動対応は?」
コロナ禍で世界中の企業や国家を悩ませているのが情報流出とサイバー犯罪です。
サイバー犯罪とはコンピュータやインターネットなどを悪用した犯罪の総称で、コンピュータ犯罪・ネットワーク犯罪・ハイテク犯罪などと同じ意味で使われています。
サイバー犯罪には
1 不正アクセス禁止法違反
2 電磁的記録・不正指令電磁的記録・電子計算機の罪
3 ネットワーク利用犯罪
の3つの類型があります。
不正アクセス禁止法では、以下の行為などに懲役刑や罰金刑が定められています。
- 他人のIDやパスワードなどを無断で使用してアクセスする行為
- セキュリティシステムを攻撃してアクセスする行為
- 他人のIDやパスワードを不正に取得・第三者へ提供・不正に保管する行為
- フィッシングサイトや偽サイトを開設して他人のIDやパスワードを入力要求する行為
刑法では、以下の電磁的記録・不正指令電磁的記録・電子計算機の罪に懲役刑や罰金刑が定められています。
- 他人のログインIDやパスワードなどのデータを勝手に改変する行為
- コンピュータウイルスを作成・提供・取得・保管する行為
- ホームページのデータを無断で書き換える行為
- サーバに集中的に負荷を掛けて使用不能に陥れるDos攻撃・DDos攻撃
- インターネットバンキングで不正送金したり、詐取した他人名義のクレジットカード情報で物品を購入する行為
ネットワーク利用犯罪とは、犯罪の手段としてネットワークを利用した犯罪のことで、SNSやインターネット上の誹謗中傷、脅迫、オークション詐欺などが主な事件です。
情報流出の初動対応とサイバー犯罪捜査スキルの共通点をお話しします。サイバー犯罪には以下の特徴があります。
・匿名性が高い
・捜査する情報量が膨大
・物理的・時間的な制約がない
・デジタルデータ(証拠)は見えにくい、変わりやすい、消えやすい
私がかつて新米刑事だった時にサイバー犯罪捜査官から「最も重要な2つの戒め」を学びました。
1 初動捜査を速く
・被害者の証拠保全をすること
・通信企業などに被疑者のログ(あらゆる行動の記録)を保全要請すること
サイバー犯罪の証拠(デジタルデータ)はすぐに消えてしまうため、初動捜査に失敗すると、後から立証することは不可能です。
2 逃げない
情報流出やサイバー犯罪が発覚した際に刑事(企業であればセキュリティ担当者)が逃げてしまうと、事件の解明・解決は難しく、顧客や取引先、社会的信用を失い、事業継続は困難になります。
情報流出の初動対応とサイバー犯罪捜査に欠かせないのが、証拠品を押収して、精査するデジタル・フォレンジック(デジタル鑑識)です。デジタル・フォレンジックには重要な目的が2つあります。
1 デジタルデータの改変を回避して原本性を維持すること
2 削除されたデジタルデータを復元するなど他の捜査では手に入らない証拠を確保すること
特にデジタルデータの原本性維持は刑事訴訟にとって非常に重要です。
デジタルデータ(証拠)は見えにくい、変わりやすい、消えやすい性質があり、データをただコピーしただけではその日時情報が更新されてしまいます。
デジタルデータの原本性、同一性が失われると、証拠品の押収手続きや解析過程が違法捜査とみなされて、データの真正性・信頼性を疑われるおそれがあります。
質問4 「反社チェックの方法は?」
「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2021」は3,677社のデータを分析しています。
「反社会的勢力排除に向けた体制整備に関する事項」では、主に「総会屋や暴力団といった反社会的勢力と関係を持たず、毅然とした態度で対応する」という基本的な考え方が記載され、「警察との連携」を記述する会社は2,452社に達しています。
上場審査の最重点項目は「反社会勢力との交流がないか?」と言われています。
東京証券取引所「上場審査等に関するガイドライン」では「上場審査基準」として「公益又は投資者保護の観点」から「新規上場申請者の企業グループが反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること」が記載されています。
同じく「有価証券上場規程」では「上場廃止基準」として「上場会社が反社会的勢力の関与を受けているものとして施行規則で定める関係を有している事実が判明した場合において、その実態が当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を著しく毀損したと当取引所が認めるとき」が記載されています。
2007年、法務省の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」によると、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」であり、「暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等」といった属性要件や「暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求」といった行為要件にも着目することが重要であると述べられています。
この指針によると「反社会的勢力の排除は、コンプライアンスそのものである」と示されています。
1991年に施行された暴対法が暴力団を規制するのに対して、2011年までの間に全国で施行された暴力団排除条例(暴排条例)は、暴力団に対する規制のほか、市民の責務や努力義務、禁止行為を定めていることが大きな違いです。
東京都暴排条例第3条では「暴力団を恐れない」「暴力団に金を出さない」「暴力団を利用しない」に加えて「暴力団と交際しない」ことを基本理念に掲げています。具体的には事業者(企業)に以下の努力義務や禁止行為が定められています。
- 事業者の契約時における措置
契約の相手方暴力団関係者でないことを確認する努力義務 - 不動産の譲渡等における措置
暴力団事務所として使用しない旨、事務所として使用していることが判明した場合、催告なく契約解除等できる旨の特約を定める努力義務。 - 事業者の暴力団関係者に対する利益供与の禁止
暴力団の威力を利用する、暴力団の活動を助長すると、公安委員会は勧告や公表などの措置をとることができます。 - 他人の名義利用の禁止
暴力団である事実を隠蔽する目的で名義利用させると、公安委員会は勧告や公表などの措置をとることができます - 「暴力団排除特別強化地域」における「特定営業者」と暴力団員の禁止行為
条例で選定された都内29地区において、居酒屋や一般飲食店を含む特定営業者が、相手方が暴力団員であることを知りながら用心棒役務の提供を受けたり、その報酬を支払うなどの行為には、罰則として「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられます。
反社チェックの方法と暴力犯捜査スキルの共通点をお話しします。
反社チェックとは、「契約の相手方が暴力団関係者でないことを確認」したり、不動産を「暴力団事務所として使用しない旨、事務所として使用していることが判明した場合、催告なく契約解除等できる旨の特約を定める」など反社会的勢力排除を目的としたスクリーニングです。
調査会社に依頼したり、インターネットやデータベースで検索したり、都道府県の暴追センター(暴力追放運動推進センター)や警察に相談して情報提供を求める方法があります。
ここで覚えておいていただきたいことは、たとえ警察であっても「未把握・未登録の反社会的勢力」は存在するということです。
私が麻布署刑事課で告訴受理した1億円相当の詐欺事件は、被疑者が「把握済み・未登録の暴力団員」でした。私が取り調べたカード詐欺の被疑者はガサ(捜索差押え)の結果「未把握・未登録の暴力団員」と判明したので、事件終結後に暴力団員としてデータベースに登録しました。
ですから、調査会社やインターネット、データベースの検索、警察からの情報提供でも、正直に申し上げて、まだ不十分です。しかし、優秀な調査会社であれば、上記の反社チェックに加えて、暴力犯捜査のように下記のような調査をするでしょう。
- 商業登記と不動産登記について閉鎖登記簿も含めて調査する
- 登記を調査した結果判明した会社、事務所、住居など関係各所へ出向き、現地の状況、出入りする関係者の人相・着衣や乗り物を分析して、「反社会的勢力」の風貌をした人物がいないか判断する
- 調査した情報を元に暴追センターへ相談し、警察へ照会依頼する
- 「反社会的勢力」の可能性が高い場合は、弁護士に事件依頼の上、弁護士法に基づいて市役所、通信会社、電話会社、陸運局、金融機関などに対し、弁護士会照会に基づく文書回答を依頼する
まとめ
本記事では、コンプライアンス研修における落とし穴として研修実施目的の間違いを4つご紹介いたしました。
1 「パワハラ、セクハラは犯罪ではない」は、大きな間違い
2 コンプライアンスを「法令遵守」と定義するのは、大きな間違い
3 「コンプライアンス研修の目的は不良社員の不祥事を防ぐこと」は、大きな間違い
4 「自信と笑顔、エネルギーに満ち溢れたリーダーは不祥事を起こさない」は、大きな間違い
コンプライアンス研修の真の目的は、不良社員の不祥事を防ぐことではなく、経営者、経営幹部、管理職、優秀な社員の不祥事を防ぐことです。
そして企業リスクを予め想定した「有事即応」集団を作ることですので、ぜひ自社のコンプライアンス研修が目的に合致したものになっているか確認してみてください。
また、コンプライアンスに関して企業様からよくお寄せいただくご質問とそれに対する回答をご紹介しました。
「有事即応」の集団を作っていくためにも、ご紹介した内容を参考に対応マニュアルなどの策定をしていただくことをおすすめしております。
最後にAirCourseでもコンプライアンスに関する動画研修を多数ご用意しておりますので、もしご興味がございましたら以下リンク先よりぜひ内容をご確認ください。
https://aircourse.com/elearning/course/compliance/
参考文献
『警察手眼』川路利良=著
『定本 危機管理』佐々淳行=著(ぎょうせい)
『元刑事が見た発達障害』榎本澄雄=著(花風社)
リスク対策.com「企業犯罪 VS 知能犯刑事 麻布署6年の研究と発見」榎本澄雄=著
『1分でわかるコンプライアンスの基本』コンプライアンス研究会=著(KADOKAWA)
『マイナンバー時代の身近なコンプライアンス』長谷川俊明=著(経済法令研究会)
『上司が萎縮しないパワハラ対策』加藤貴之=著(日本法令)
『ハラスメントの境界線』白河桃子=著(中央公論新社)
『「権力」を握る人の法則』ジェフリー・フェファー=著(日本経済新聞出版社)
『悪いヤツほど出世する』ジェフリー・フェファー=著(日本経済新聞出版社)
『ブラック職場があなたを殺す』ジェフリー・フェファー=著(日本経済新聞出版社)
『犯罪者はどこに目をつけているか』清永賢二+清永奈穂=著(新潮社)
『性犯罪者の頭の中』鈴木伸元=著(幻冬舎)
『よくわかるリベンジポルノ防止法』平沢勝栄+三原じゅん子+山下貴司=著(立花書房)
『GIVE & TAKE』アダム・グラント=著(三笠書房)
『サイコパス』中野信子=著(文藝春秋)
『やっかいな人のマネジメント』ハーバード・ビジネス・レビュー編集部=編(ダイヤモンド社)
『FBIプロファイラーが教える「危ない人」の見分け方』ジョー・ナヴァロ+トニ・シアラ・ポインター=著(河出書房新社)
『観察力を磨く 名画読解』エイミー・E・ハーマン=著(早川書房)
『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』森功=著(講談社)
『世界史を変えた詐欺師たち』東谷暁=著(文藝春秋)
『世界を変えた14の密約』ジャック・ペレッティ=著(文藝春秋)
『営業と詐欺のあいだ』坂口孝則=著(幻冬舎)
『企業犯罪の基礎知識』小林英明=編著(中央経済社)
『企業犯罪への対処法』小林英明=編著(中央経済社)
『経営者のための情報セキュリティ Q&A 45』北條孝佳=編著(日本経済新聞出版社)
『デジタル鑑識の基礎(上)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『デジタル鑑識の基礎(中)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『デジタル鑑識の基礎(下)』一般財団法人 保安通信協会=編著(東京法令出版)
『県警VS暴力団』藪正孝=著(文藝春秋)
『悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル』藤川元+市民と企業のリスク問題研究会=編(民事法研究会)