採用や育成、評価が属人的になり、思うような効果が得られていない……と悩む企業は多く見られます。「コンピテンシー」は、そうした課題を解決する概念として、人材シーンにしばしば採用されています。
コンピテンシーとは、高い成果を出す人材に共通する行動特性のことです。感覚や経験に頼るのではなく、客観的な基準で自社に必要な人材を見極め、育成・評価できる仕組みを構築するための鍵となります。
この記事では、コンピテンシーの基本的な意味や定義から、採用活動や人事評価、人材育成といった具体的な活用方法、そして導入のメリットや注意点までを詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、コンピテンシーを活用した組織力強化のヒントを見つけてください。
人材育成を成功に導く「最新育成モデル」を活用しませんか?
人材育成を成功に導くためには、育成過程の注力ポイントを知り、必要な成果に向けて適切なステップと育成スキームを選択することが重要です。
KIYOラーニングでは、「人材育成で大切な8つのこと」を仕組みでカバーできる『デジタル時代の人材育成モデル』をお届けしています。
社員が成長し、最終的に成果をあげるまでに必要な施策とその流れをモデル化したものになりますので、自社の状況と照らし合わせて育成方法を検討したい方はぜひご活用ください。
目次
コンピテンシーとは
コンピテンシー(Competency)とは、高いパフォーマンスを発揮し、優れた業績や成果を生み出す人物に共通して見られる「行動特性」を指します。
1970年代にアメリカの心理学者であるデイビッド・マクレランドの研究によってビジネス分野で注目されるようになりました。従来の採用試験の成績と実際の業績に相関が見られなかったことから、高業績者に共通する行動パターンを分析した結果として生まれたものです。
例えば「困難な状況でも諦めずに粘り強く取り組む」「目標達成のために積極的に周囲と連携する」といった行動がコンピテンシーとして挙げられます。これは「粘り強さ」や「協調性」といった内面的な特性が行動として現れたものです。
この目に見えない部分の特性は、しばしば「氷山モデル」に例えられ、水面下の価値観や思考が水面上の具体的な行動を支えていると考えられています。コンピテンシーは、成果を出す人材の行動を分析し、モデル化することで明確になります。

なお、企業や教育の現場では、このコンピテンシーを身につけているか評価するために、「8つのコンピテンシー」という形で定義している場合がしばしばあります。
企業でよく設定される主要なコンピテンシーの例は以下の通りです。
- 目標達成能力:高い目標を設定し、困難な状況でも粘り強く達成に向けて努力する
- 課題解決能力:問題の原因を分析し、論理的かつ創造的に解決策を導き出す
- リーダーシップ:チームや組織をまとめ、目標達成に向けてメンバーを導き、動機づける
- コミュニケーション能力:他者の意見を正確に理解し、自身の考えを明確に伝え、円滑な人間関係を築く
- 計画・実行能力:業務の優先順位をつけ、効率的な計画を立て、着実に実行する。
- 顧客志向:顧客のニーズを深く理解し、期待を超える価値を提供しようと努める。
- 主体性・イニシアチブ:指示を待つだけでなく、自ら課題を見つけて積極的に行動を起こす
- 変化対応能力:環境や状況の変化に柔軟に適応し、新しい知識やスキルを積極的に習得する
もちろん、企業や職種、役割によって、上記以外がコンピテンシーとして設定されることもあります。
また、それぞれのレベルで評価する「コンピテンシーの5段階」といった指標があります。レベルが上がるほど、自らの考えで積極的に行動できる人材であるという評価になります。
- 受動行動(レベル1):指示されたことを受け身でこなす段階
- 通常行動(レベル2):与えられた役割や業務を問題なく遂行する段階
- 能動・主体的行動(レベル3):自ら考えて積極的に行動し、業務改善などを行う段階
- 創造・課題解決行動(レベル4):既存の枠にとらわれず、新たなアイデアや解決策を創造し、課題を解決する段階
- パラダイム転換行動(レベル5):組織や業界に大きな変革をもたらすほどの、革新的な行動を生み出す段階
コンピテンシーとスキル・アビリティの違い
コンピテンシーは、従来の評価基準である知識やスキル、アビリティといった「目に見える能力」とは異なり、高い成果を出す人の行動や、その根底にある思考、価値観といった「目に見えにくい部分」に焦点を当てます。これは、見えない部分が実際の成果に大きく影響するという考えに基づいています。
コンピテンシーとコア・コンピタンス、ケイパビリティとの違い
企業全体の強みを示す言葉にも、コンピテンシーと類似したものがありますが、以下の通り対象が異なります。
用語 | 対象 | 意味合い |
---|---|---|
コンピテンシー | 個人 | 高い成果を出す個人の行動特性 |
コア・コンピタンス | 企業(技術) | 他社に模倣されない中核となる技術的な強み |
ケイパビリティ | 企業(組織) | 成長の原動力となる組織全体の能力や事業プロセス |
コンピテンシーはあくまで個人に焦点を当てた概念であり、企業全体の強みを示す言葉とは区別されます。
コンピテンシーモデルの種類
コンピテンシーモデルとは、高い成果を上げる従業員(ハイパフォーマー)の行動特性を言語化・モデル化したものです。このモデルにはいくつかの種類があり、企業の状況や目的に応じて使い分けられます。
コンピテンシーのモデルが必要な理由
コンピテンシーを人事施策に効果的に活用するためには、コンピテンシーモデルの作成が不可欠です。
コンピテンシーモデルが必要な理由は、以下の点が挙げられます。
- 再現性の確保:ハイパフォーマーの行動特性をモデル化することで、他の社員もそれを参考にし、成果につながる行動を再現しやすくなる
- 評価基準の明確化:採用や人事評価において、主観ではなく具体的な行動に基づいた客観的な評価が可能になる
- 人材育成の方向性:モデルで示された行動特性を目標とすることで、社員は自身に不足している能力やスキルを認識し、効果的な能力開発につながる
コンピテンシーモデルは、単なる概念に留まらず、具体的な行動指針として機能し、組織全体のパフォーマンス向上に貢献するために重要な役割を果たします。ただし、効果的なモデルを作成するには、自社の環境や戦略に合わせた独自のものを作成する必要があります。
主なコンピテンシーモデルの種類
主なコンピテンシーモデルは、理想型、実在型、ハイブリッド型の3種類です。それぞれの特徴について以下の表にまとめました。
モデルの種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
理想型 | 企業が目指す経営方針や事業戦略に基づき、理想的な社員像を設定 | 社内にハイパフォーマーがいない場合や、変革を目指す場合に有効 | 理想が高すぎて、現実離れしたモデルになる可能性がある |
実在型 | 実際に高い成果を上げている社員(ハイパフォーマー)の行動特性を分析してモデルを作成 | 現実的で、他の社員もイメージしやすい | ハイパフォーマーと他の社員の間に大きな差がある場合、再現性が難しいことがある |
ハイブリッド型 | 実在型モデルをベースに、理想型の要素を加えて作成 | 現実性と理想のバランスが取れており、幅広い層に適用しやすい | 策定により時間と手間がかかる |
これらのモデルの特徴を理解し、自社に最適なものを選ぶことがコンピテンシー活用の第一歩となります。
コンピテンシーの具体的な活用方法
コンピテンシーは、企業のさまざまな人事業務で活用できます。ここでは、主な活用方法をご紹介します。
採用活動への活用
コンピテンシーは、採用活動において非常に有効なツールです。自社で成果を出す人材(ハイパフォーマー)が持つ行動特性を明確にすることで、採用基準を客観的に設定できます。
例えば、面接においては、候補者がその行動特性を持っているかを確認するための具体的な質問を用意します。
- 目標達成思考:「これまでで最も困難だった目標は何ですか?それに対し、どのような行動を取りましたか?」
- チームワーク:「チームで協力して成果を出した経験について教えてください。あなたはどのような役割を果たしましたか?」
具体的な行動や状況を問うことで、単なるスキルや知識だけでなく、実際に成果につながる行動パターンを見極めることが可能です。
このように、コンピテンシーの活用は入社後に活躍が期待できる人材かどうか、すなわち自社とのミスマッチを防ぐための有効な判断基準となります。また、面接官間での評価のばらつきも抑えられ、より公平で効率的な選考ができるようになります。
人事評価への活用
従来の評価制度では、成果や職務遂行能力に偏りがちだった人事評価において、高い業績を上げている従業員の行動特性を基準とすることで、評価の公正性を確保できます。
評価基準には、「目標達成能力」「問題解決力」「チームワーク」「リーダーシップ」といった行動特性が設定されます。これらの行動特性を具体的な評価項目に落とし込み、従業員の実際の行動を評価することで、より客観的で納得感のある評価が可能になります。
例えば、「目標達成能力」を評価する際には、単に目標を達成したかだけでなく、「目標達成のためにどのような計画を立て、どのような行動を取ったか」といったプロセスも評価対象となります。
以下に、コンピテンシー評価の項目例と例文を示します。
評価項目 | コンピテンシーレベル3(能動行動)の例文 |
---|---|
目標達成能力 | 困難な目標に対しても、自ら課題を分析し、複数の解決策を検討・実行することで目標を達成した |
チームワーク | チームメンバーの状況を把握し、積極的にサポートを行うことで、チーム全体の目標達成に貢献した |
リーダーシップ | チームの方向性を示し、メンバーの意見を聞きながら合意形成を図り、チームを成功に導いた |
このように、コンピテンシー評価は、成果だけでなく、成果に至るまでの行動やプロセスを適切に評価することで、従業員の成長を促し、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
人材育成・能力開発への活用
コンピテンシーは、社員の育成や能力開発においても非常に有効なツールです。コンピテンシーを評価することで、成果を上げるためにどのような行動を取ればよいかが明確になり、具体的なアクションプランが立てやすくなります。
具体的には、以下のような活用が考えられます。
活用方法 | 具体的な内容 |
---|---|
育成対象者のコンピテンシーを測定し、個別の研修プランを設計 | 高業績者のコンピテンシーをモデルとして、育成対象者の現在の行動特性を測定し、そのギャップを埋めるための一人ひとりに合わせた研修プログラムを作成する |
具体的な行動目標を設定し、進捗を管理する | 「顧客の関心事を把握するために、ヒアリング項目を3つ追加する」「商談後24時間以内にフォローアップメールを送る」など、コンピテンシーに基づいた具体的な行動目標を設定し、その達成度を確認しながら育成を進める |
eラーニングシステムなどを活用した効率的な学習 | 設定されたコンピテンシーに基づいた研修内容を、eラーニングシステムなどを利用して提供することで、時間や場所を選ばずに効率的な学習を促進できる |
このように、コンピテンシーを活用することで、社員は自分がどのような行動を意識すれば成果につながるのかを理解しやすくなり、より効果的な能力開発が可能になります。
その他の活用場面
コンピテンシーは、採用や人事評価、人材育成以外にもさまざまな人事業務で活用できます。
- 配置転換・異動:社員のコンピテンシーを把握することで、その特性を最大限に活かせる部署や職務への配置転換を検討できる
- 昇進・昇格:次の役職に求められるコンピテンシーを明確にし、それを備えている社員を適切に評価することで、客観的かつ納得感のある昇進・昇格判断が可能になる
- 組織マネジメント:チームや部署全体のコンピテンシー構成を分析し、不足している特性を補うための人材配置や育成計画に役立つ
- 組織開発:組織全体の目指す姿に必要なコンピテンシーを定義し、それを組織文化として築くための施策を検討できる
このように、コンピテンシーは多岐にわたる人事業務において、より効果的で戦略的な意思決定をサポートする重要なツールとなります。
コンピテンシーを活用するメリット
コンピテンシーを人事業務に導入することで、企業はさまざまなメリットを得ることができます。
採用ミスマッチの防止
従来の採用活動では、学歴や職務経歴、あるいは面接時の印象といった表面的な情報に偏りがちでした。しかし、これらの情報だけでは、実際にその人が入社後にどれだけ活躍できるか、あるいは自社の文化に馴染めるかといった部分を見極めるのは困難です。これが採用ミスマッチの一因となります。
コンピテンシーを基準に採用選考を行うことで、候補者が持つ潜在的な能力や、自社の求める行動特性に合致するかどうかをより深く、客観的に評価できます。
これにより、入社後のギャップを最小限に抑え、早期離職のリスクを低減できます。結果として、単にスキルや経験があるだけでなく、自社で真に活躍し、組織に貢献できる人材、つまり適材適所の人材採用につながります。
社員のパフォーマンス向上
コンピテンシー評価は、社員一人ひとりのパフォーマンス向上に大きく貢献します。単に「何ができたか」だけでなく「どのような行動によって成果を出したか」という行動特性に注目します。
具体的には、以下のような分析をもとに評価できるようになります。
- 強み・弱みの明確化:個人のコンピテンシーレベルを把握することで、本人が気づいていない強みや改善が必要な弱点を特定できる
- 具体的な行動計画:評価結果に基づき、「どのコンピテンシーをどのように伸ばすか」といった具体的な行動計画を立てやすくなる
- 適切な育成・配置:成果を出すための行動特性が明確になるため、そのコンピテンシーを高めるための研修プログラムや、強みを活かせる部署への配置など、より効果的な人材育成・配置が可能になる
コンピテンシー評価を通じて得られる具体的なフィードバックは、社員が自身の能力開発に主体的に取り組む動機付けとなり、結果として組織全体のパフォーマンス向上につながります。
公正な評価の実現
コンピテンシーを活用することで、人事評価における公正性を高めることができます。
従来の評価制度では、評価者の主観や対象者との個人的な関係性が評価に影響を与えることも少なくありませんでした。しかし、コンピテンシー評価では、高い成果を上げている人材の具体的な行動特性を基準とするため、評価基準が明確になります。
評価基準が明確になることで、評価される側の社員は「なぜその評価になったのか」を理解しやすくなり、評価内容に対する納得感が向上します。これにより、社員の評価に対する不満を減らし、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるというメリットがあります。
コンピテンシー評価は、客観的で明確な基準に基づいた評価を実現し、社員の納得感を高める有効な手段と言えます。
組織全体の生産性の向上
コンピテンシーを活用することで、組織全体の生産性を向上させることができます。
コンピテンシーの活用では採用ミスマッチの防止や、人事評価や人材育成に組み込みによる社員一人ひとりのパフォーマンス向上、個々の能力や適性に基づいた最適な人材配置といったメリットが得られます。
これらの効果は社員のエンゲージメント向上や離職率低下にもつながり、結果として組織全体の業績を底上げし、持続的な生産性向上を実現できるのです。
コンピテンシーを人事業務に取り入れるための手順
コンピテンシーを人事業務に活用するには、いくつかのステップを踏む必要があります。主な手順は以下の通りです。
ステップ1:成果を出す人材の特性を特定
コンピテンシーを人事業務に取り入れる最初のステップは、自社で高い成果を上げている人材(ハイパフォーマー)に共通する行動特性を特定することです。
具体的には、以下のような方法でハイパフォーマーの行動を分析します。
- ハイパフォーマーへのヒアリング:実際に成果を出している社員に、仕事への取り組み方、課題解決の方法、他人との関わり方などについて詳しく聞き取りを行う
- 行動観察:ハイパフォーマーが日常業務でどのような行動をとっているかを観察し、具体的な行動例を収集する
- データ分析:過去の人事評価や業績データなどを分析し、成果につながる行動パターンを見つけ出す
これらの分析を通じて、成果に結びつく特定の行動パターンを明らかにすることが、コンピテンシーモデル作成の土台となります。
ステップ2:コンピテンシーモデルの作成
ステップ1で特定した「成果を出す人材(ハイパフォーマー)」の行動特性を具体的にモデル化する段階です。このステップでは、主に以下の調査方法を用いて情報を収集します。
- 本人へのヒアリング:ハイパフォーマー自身に、成果を出す上での考え方や具体的な行動について詳しく聞く
- 周囲へのアンケート:ハイパフォーマーをよく知る同僚や上司に、その人物の行動や印象について尋ねる
これらの調査を通じて得られた情報を整理し、ハイパフォーマーに共通する行動パターンや思考特性を洗い出します。この際に、自社の実態や目指す方向性に合致する項目を明確にしていきます。
そして、自社の状況に合わせて先述した理想型、実在型、ハイブリッド型のいずれかのモデルを選択し、具体的なコンピテンシーモデルを作成します。時間をかけて丁寧な調査・分析を行うことで、精度の高いコンピテンシーモデルを策定できます。
ステップ3:評価・測定方法の設計
コンピテンシーモデルを策定したら、次はそれをどのように評価・測定するかを具体的に設計します。
評価基準は、企業のミッションや理念に基づく「全社共通」のものと、職種や役職ごとの「個別」のものに分けて設定しましょう。
評価の具体的な方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 面接質問例の作成:コンピテンシーに基づいた質問を設計し、面接で候補者の行動特性を見極める
- 評価シートの設計:コンピテンシー項目ごとに具体的な行動例や評価尺度(例:5段階レベルなど)を定めた評価シートを作成する
- 多面評価(360度評価)の導入:上司だけでなく、同僚や部下からの評価も取り入れ、多角的にコンピテンシーを測定する
- MBO(目標管理制度)との連携:設定した目標達成プロセスにおいて、どのようなコンピテンシーが発揮されたかを評価に含めることも有効
これらの方法を組み合わせることで、より客観的で公正なコンピテンシー評価が可能となります。
ステップ4:運用とモニタリング
コンピテンシーモデルを作成したら、実際に運用を開始します。採用面接や人事評価、人材育成など、目的に合わせて評価シートを活用し、対象者のコンピテンシーレベルを記録・測定していきます。
運用を開始した後は、その効果を定期的にモニタリングすることが重要です。モデルが企業の目標達成に貢献しているか、社員の行動変容を促せているかなどを確認しましょう。
また、事業環境や戦略は常に変化します。そのため、コンピテンシーモデルも時代に合わせて見直し、必要に応じてアップデートしていく必要があります。モデルが陳腐化しないよう、継続的な改善サイクルを回していくことが、コンピテンシー活用の成功には不可欠です。
コンピテンシーを人事業務に活用するときの課題と対策
コンピテンシーを人事業務に取り入れる際には、いくつかの課題が考えられます。コンピテンシーは強力なツールですが、これらの課題を理解し、適切な対策を講じることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
モデル策定やデータ収集に時間と労力がかかる
コンピテンシーを人事業務に取り入れる際、まず課題となるのがモデル策定やデータ収集にかかる時間と労力です。特に、自社で成果を上げている人材の行動特性を特定し、具体的なコンピテンシー項目として定義するためには、現場へのヒアリングやデータ分析に多くの工数が必要となります。
この課題に対しては、外部の専門家によるコンサルティングを活用したり、コンピテンシー評価を支援する専用ツールを導入したりすることで、効率的にモデル策定やデータ収集を進めることが可能です。外部の知見やシステムを活用することで、導入プロセスをスムーズに進められるでしょう。
事業環境の変化に応じてモデルをアップデートする必要がある
コンピテンシーを人事業務に活用する上で、一度策定したモデルが永続的に有効であるとは限りません。事業を取り巻く環境は常に変化しており、市場の動向、技術革新、競合状況などに応じて、求められる成果やそれを生み出す行動特性も変わってきます。
特に、従来の職能資格制度に比べて、コンピテンシーはより具体的な行動に焦点を当てているため、環境変化の影響を受けやすい側面があります。新しい事業が立ち上がったり、働き方が多様化したりすれば、これまで「ハイパフォーマーの行動特性」とされていたものが、必ずしも将来の成果に直結しなくなる可能性も考えられます。
そのため、コンピテンシーモデルは一度作って終わりではなく、定期的な見直しと改定が不可欠です。環境変化に合わせてモデルをアップデートすることで、常に「今、そして将来的に成果を出す人材」の定義を組織内で共有し、人事施策の実効性を維持することができます。
社員への浸透が難しい
コンピテンシーモデルを策定しても、それが現場の社員に正しく理解され、日々の業務に活用されるまでには多くの課題があります。新しい取り組みが社員に浸透しない原因として、「意味や背景が理解されていない」「定めて満足してしまい施策が不足している」「内容が抽象的でわかりづらい」といった点が挙げられます。
コンピテンシーの考え方や重要性、そしてそれが自身の評価や育成にどうつながるのかが不明確だと、社員は「なぜこれが必要なのか」と疑問を感じ、受け入れが進みにくくなります。
効果的に浸透させるためには、以下のような施策が考えられます。
- 丁寧な説明会の実施:コンピテンシーの目的や内容、期待される行動などを経営層や人事部門が直接説明する機会を設ける
- 社内ツールでの周知:社内ポータルサイトや社内報などを活用し、事例を交えながら分かりやすく解説する
- 研修・ワークショップ:コンピテンシーに基づいた行動を実践的に学ぶ機会を提供する
- 評価者研修:評価者がコンピテンシー評価を適切に行えるよう、評価基準やフィードバック方法をトレーニングする
- 経営層による率先垂範:経営層が日々の言動でコンピテンシーに基づいた行動を示し、模範となる
これらの施策を通じて、コンピテンシーを単なる評価ツールではなく、社員一人ひとりの成長や組織全体の目標達成に貢献するものとして理解してもらうことが重要です。
まとめ
コンピテンシーは、高い成果を出す人材に共通する「行動特性」であり、単なる知識やスキルに留まらず、その行動の根底にある思考や価値観までを捉える概念です。
コンピテンシーを人事業務に活用することで、採用ミスマッチの防止、社員のパフォーマンス向上、公正な評価の実現、そして組織全体の生産性向上といった多大なメリットが得られます。
モデル策定の労力や環境変化への対応、社員への浸透といった課題もありますが、コンピテンシーを効果的に活用することは、企業が持続的に成長し、変化の激しいビジネス環境で競争優位を確立するための重要な鍵となるでしょう。
人材育成を成功に導く「最新育成モデル」を活用しませんか?
人材育成を成功に導くためには、育成過程の注力ポイントを知り、必要な成果に向けて適切なステップと育成スキームを選択することが重要です。
KIYOラーニングでは、「人材育成で大切な8つのこと」を仕組みでカバーできる『デジタル時代の人材育成モデル』をお届けしています。
社員が成長し、最終的に成果をあげるまでに必要な施策とその流れをモデル化したものになりますので、自社の状況と照らし合わせて育成方法を検討したい方はぜひご活用ください。