ユーザー企業のIT部門は、新しいビジネス環境に対応するために、その役割の変更・拡大と、それに伴う人材の育成を迫られていますが、多くの企業では、具体的な役割と必要とされる要員スキルを明確にできないため、取り組みの第一歩が踏み出せずにいます。
この記事では、UISS(※)を活用して、IT部門の役割を定義し、現在の要員スキルを評価した上で、今後の人材育成計画を立案する方法を全4回にわたって解説します。
※IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、ユーザー企業のIT部門が必要とするスキルおよび知識を、網羅的かつ体系的に整理・一覧化したものである。「情報システムユーザースキル標準(略称UISS)」として、2006年に初版が公開され、最新版として2012年に公開されたVer2.2が最新版となっている。
連載第3回の今回は、UISSを活用して、現在の要員のスキル評価を実施する手順を解説します。
IT部門に求められる役割と人材育成方法(全4回)
第3回「UISSを活用した要員スキル評価」
求められる要員スキルの整理
最初に、「機能・役割定義」を使って、求められる要員スキルの項目を整理します。
「機能・役割定義」では、「タスクフレームワーク」で定義された小項目ごとに各タスクの遂行に必要なスキルと知識が設定されていますので、これをもとに自社のIT組織が果たすべきタスクと、その遂行に必要な要員スキルの一覧を作成します。
前回「UISSを活用したIT部門の役割定義」では、大項目「セキュリティ」として、ある企業のIT組織とタスクのマッピングを行いました。
今回は、この続きとして要員スキルを整理してみましょう。
「機能・役割定義」では、各タスクの遂行に必要なスキルと知識が設定されていますが、大項目「セキュリティ」についてはどうなっているでしょうか。
代表例として、中項目「セキュリティ方針の策定」の小項目「情報資産の評価」と、中項目「セキュリティの分析」の小項目「事故の検知」の部分を抜粋したものが次の表になります。
この表をもとに、実際にスキル評価ができるように、スキルと知識を評価項目としてまとめ、リストにします。
この時に注意することは、客観的で公平な評価ができるような具体的な表現にあらためることです。
例えば、小項目「事故の検知」のスキルと知識にあるような「自動ツール」、「侵入検知システム」、「侵入監視サービス」といった表現は、実際に使用しているものがあれば、その製品名に置き換えた方が具体的になりますし、使用していないのであればその項目自体を除外することができます。
レベル評価基準の設定と評価の実施
客観的で公正なスキル評価のためには、スキル・知識評価項目に加えて、「キャリアフレームワーク」を使って、それぞれのスキルのレベルを判定するため基準を設定する必要があります。
「キャリアフレームワーク」では、スキルと経験・実績などを考慮し、各社の事情に合わせて設定するとなっていますが、この設定における目安として「キャリアレベル概念図」が提示されています。
出典:UISS Ver2.2
「キャリアフレームワーク」では、レベル1からレベル7までの7段階が設定されていますが、レベル6とレベル7は、社外からも認知され、目標とされる極めて高いレベルですので、一般的なIT部門では、残るレベル1からレベル5の5段階での設定で十分といえます。
レベル1とレベル2の大きな違いは「知識の活用」のレベルが「最低限必要な基礎知識を有する」か「基本的知識・技能を有する」かの違いとなっており、レベル1は、そのスキル分野においてトレーニングは受けたが。実践経験はないレベルと考えられます。
レベル2とレベル3の大きな違いは、「要求作業の達成度」のレベルが「指導の下でできる」か「独力でできる」かの違いとなっており、レベル2は、そのスキル分野において実践経験はあるものの、レベル3以上の要員による指導が必要なレベル、レベル3はその必要がなく単独でタスクを遂行できるレベルと考えられます
レベル4は、「要求作業の達成度」のレベルについて、「課題の発見と解決をリードできる」が追加されており、グループのリーダーとなれるレベルと考えられます。
レベル5は、「要求作業の達成度」のレベルについて、さらに「事業の改革やメソドロジ、テクノロジの創造をリードする」が追加されており、単なるリーダーではなく、IT部門長や経営層に対して、提言、提案を行えるレベルと考えられます。
以上のような目安に従って、先ほどリスト化した評価項目のそれぞれに対して、評価を実施し、レベルの判定結果を記入します。
スキル・知識についての各評価項目の判定結果が出そろったら、事前に決めたルールに従って、タスクの小項目ごとに評価レベルを決定します。
一般的なルールは、全ての評価項目の中でもっとも低い評価レベルに合わせるというものです。
この例では、小項目「事故の検知」にこのルールが適用されており、4つのスキル・知識評価項目のうち、3つはレベル3と判定されましたものの、残る1つがレベル2と判定されたため、小項目の評価レベルは2と判定されています。
一般的に、タスクの難易度が高くなるにつれて、全ての評価項目で高いレベルをそろえることが難しくなります。
そのため、タスクの内容に応じて、特殊ルールを設定することも必要です。
例えば、評価項目を必須なものと、そうでないものに分けて、全ての必須項目で、あるレベルを達成していれば、小項目の判定でも、そのレベルを達成したものと見なすというルールが考えられます。
この例では、小項目「情報資産の評価」にこのルールが適用されており、最初の2つの項目が必須項目となっています。
そのため、4つの評価項目の中で、レベル4を達成しているのは2つしかありませんが、その2つで必須項目の全てをカバーしているため、小項目の評価レベルも4と判定されています。
以上のような手順で、要員のスキル評価を実施できたら、次のステップとして、その結果を集計、分析し、課題を明確にした上で、人材育成計画の立案を行います。
まとめ
現在の要員のスキル評価を実施するには、最初に、「機能・役割定義」を使って、求められる要員スキルの項目を整理します。
「機能・役割定義」では、「タスクフレームワーク」で定義された小項目ごとに各タスクの遂行に必要なスキルと知識が設定されていますので、これをもとに自社のIT組織が果たすべきタスクと、その遂行に必要な要員スキルの一覧を作成します。
この時に注意することは、客観的で公平な評価ができるような具体的な表現にあらためることです。
客観的で公正なスキル評価のためには、スキル・知識評価項目に加えて、それぞれのスキルのレベルを判定するため基準を設定する必要があります。
「キャリアフレームワーク」で提示されている「キャリアレベル概念図」の内容を目安に、各社の事情に合わせて設定します。
スキル・知識評価項目と、評価基準となるレベルが設定されたら、評価を実施し、レベルの判定結果を記入します。各評価項目の判定結果が出そろったら、事前に決めたルールに従って、小項目ごとに評価レベルを決定します。一般的なルールは、全ての評価項目の中でもっとも低い評価レベルに合わせるというものですが、タスクの難易度が高くなるにつれて、全ての評価項目で高いレベルをそろえることが難しくなるため、タスクの内容に応じて、特殊ルールを設定することも必要となります。
以上のような手順で、要員のスキル評価を実施できたら、その結果を集計、分析し、課題を明確にした上で、人材育成計画を立案するのが次のステップとなります。
次回は、UISSを活用した人材育成計画の立案について解説します。
IT部門に求められる役割と人材育成方法(全4回)
第3回「UISSを活用した要員スキル評価」