管理職研修は、実施している企業が多いにもかかわらず「やってはいるが成果につながらない」という声が絶えないテーマです。厚生労働省の調査では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%にのぼり、その最多の理由は「指導する人材が不足している」でした。
管理職に求められる力は、制度の理解から面談の実践まで幅が広く、ひとつの形式ですべてを賄うのは現実的ではありません。何をどの形式で学ばせるかを分けて設計すると、限られた時間と予算のなかでも組み立てやすくなります。
本記事では、管理職研修で扱う内容を3つの領域に整理したうえで、集合・オンライン・動画・OJTをどう使い分けるかを解説します。実施後に成果へつなげるための運用のポイントにも触れているので、自社の研修設計にお役立てください。
目次
管理職研修とは
管理職研修とは、部門やチームの成果に責任を持つ立場の社員に対して、その役割を果たすために必要な知識と実践力を身につけてもらう取り組みです。プレイヤーとして評価されてきた人が、部下を通じて成果を出す立場へ移る際に生じるギャップを埋める目的で実施されます。
実施している企業は少なくありません。厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」によれば、OFF-JT(通常の業務を離れて行う教育訓練)を実施した事業所は72.6%で、そのうち管理職層を対象としたものは49.0%でした。新入社員(58.7%)や中堅社員(57.4%)と比べると低い水準です。計画的なOJTでは差がさらに開き、管理職層を対象とした事業所は24.9%にとどまります。
出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」調査結果の概要(2026年7月31日公表・図24・図31)
新入社員研修に比べて管理職研修の実施率が低いのは、対象人数が少なく集合形式では効率が悪いこと、業務の繁忙度が高く日程を揃えにくいことが背景にあると考えられます。一方で、同じ調査では企業が最も重要と考える能力・スキルとして、50歳以上の正社員では「マネジメント能力・リーダーシップ」が57.0%で1位に挙がっています。重要と考えられている一方で、育成の機会が行き渡っていない状況がうかがえます。
管理職研修で扱う内容
管理職研修で扱う内容は幅広いものの、実務では大きく3つの領域に整理できます。部下の育成と面談、チームの運営、そして目標管理と評価です。いずれも管理職が日常的に担う業務に直結する領域で、どこから着手するかは自社の課題によって変わります。
部下の育成と面談
部下の育成は、管理職の役割のなかで最も時間を使う領域です。何を教えるかというより、どう関わるかが問われます。
具体的には、ティーチングとコーチングの使い分け、ほめ方としかり方、1on1ミーティングの目的と進め方などを扱います。「同感」と「共感」の違いのように、言葉にすると細かい論点も含まれますが、実際の面談ではこうした差が部下の受け取り方を左右します。
この領域は知識として理解するだけでは足りず、実際に口に出して試す機会が要ります。研修プログラムでも、しかり方のポイントを細分化する実践ワークや、ケースを使った面談の演習が組み込まれることが多い領域です。
チームの運営
チームの運営は、個々の部下ではなくチーム全体をどう機能させるかを扱う領域です。
リーダーシップの基本的な考え方と強化の方法、人を動かすコミュニケーション、チームマネジメントにおける具体的な行動などが含まれます。近年は心理的安全性を扱うプログラムも増えており、「心理的安全性が低いとはどういう状態か」「個性の受容と尊重とは何か」といった論点まで踏み込むものもあります。
組織の役割・責任・権限の整理といった、制度に近い内容もこの領域に入ります。制度の理解は全員が同じ内容を共有する必要があるため、次章で述べる形式の使い分けが効いてくる部分です。
目標管理と評価
目標管理と評価は、制度の理解と運用の実践が両方必要になる領域です。
人事評価の目的、評価における納得感の作り方、目標を具体化するプロセス、組織目標を個人目標へ落とし込む手順などを扱います。評価・報酬を育成を支える仕組みとして位置づける考え方や、部下のモチベーションをどう保つかもここに含まれます。
制度そのものは会社ごとに違うため、自社の制度説明が欠かせません。一方で「目標設定面談をどう進めるか」は会社を問わない共通のスキルで、演習を通じて身につける性質のものです。この領域は、自社固有の部分と共通の部分が混ざっている点に特徴があります。
管理職研修をどう実施するか
管理職研修の内容は、性質の異なる3種類が混ざっています。制度や考え方を理解する「知識」、状況に応じて判断する力を養う「判断」、実際にやってみて身につける「実技」です。この3つを同じ形式で扱おうとすると、どこかに無理が生じます。
実際、管理職向けの研修プログラムには、ケースを使った面談の演習や、しかり方のポイントを細分化する実践ワークが組み込まれています。座学だけでは完結しない内容が含まれているということです。
実施形式ごとの性質を整理すると次のようになります。
| 実施形式 | 適する学習内容 | 同時に届けられる人数 | 必要なもの | 記録の残り方 |
|---|---|---|---|---|
| 集合(対面) | 議論・実技・合意形成 | 会場の収容人数 | 講師・会場・日程調整 | 出席簿 |
| オンライン(ライブ) | 説明と質疑 | 拠点をまたいで可 | 講師・配信環境・日程調整 | 接続ログ |
| 動画 | 知識・手順の標準化 | 人数の制限なし | 教材・配信のしくみ | 受講履歴・テスト結果 |
| OJT | 実務での応用 | 指導者1人あたり数名 | 指導者の時間・指導基準 | 指導記録 |
ここからは、2つの学習領域をどの形式で身につけるかを整理します。
面談の型と実践スキルは集合・オンラインで身につける
1on1や評価面談の進め方は、知識として知っていても、実際にやってみると言葉が出てこない類のスキルです。ティーチングとコーチングの違いを説明できることと、目の前の部下に対して使い分けられることは別物です。
この部分は他者とのやり取りを含む練習が要るため、集合またはオンラインのライブ形式が向きます。ケースを使った面談の演習では、部下役と上司役に分かれて実際に会話し、その場でフィードバックを受ける形が一般的です。
面談の目的や基本的な進め方といった前提知識は事前に動画で共有しておき、集合の場は演習とフィードバックに充てる分け方が実務的です。限られた集合の時間を実技に集中させられます。
知識の部分はeラーニングを有効活用する
制度の理解を揃える部分と、面談の型を学ぶための前提知識です。この2つは、動画で届ける形が向いています。管理職研修という文脈でeラーニングが活きるのは、次の2点があるためです。
第一に、管理職は日程を揃えにくい層です。OFF-JTを実施した事業所のうち管理職層を対象としたものは49.0%で、新入社員(58.7%)や中堅社員(57.4%)を下回ります。人数が少なく集合形式では効率が悪いこと、業務の繁忙度が高いことが背景にあります。受講のタイミングを本人に委ねられる形式は、この制約と相性がよい選択肢です。
第二に、誰が受講したかが記録として残る点が挙げられます。制度の理解を全員に揃えたい場面では、届けたかどうかを確認できることが前提になります。集合研修の出席簿でも記録は残りますが、欠席者への配り直しまで含めると運用の手間が変わってきます。
関連記事:管理職に強いeラーニング5選|新任の立ち上げから昇格段階に応じた育成まで
管理職研修を成功させるポイント
管理職研修は、実施すること自体は難しくありません。難しいのは、実施した後に現場の行動が変わるかどうかです。ここでは実務でつまずきやすい3つの論点を取り上げます。
対象を「新任」と「既任」で分ける
管理職と一括りにしても、就任直後の人と5年経った人では課題が違います。新任の管理職はプレイヤーからの意識の切り替えが最大の論点ですが、既任の管理職にとってそれは済んだ話です。
同じ内容を全管理職に配ると、片方には物足りず、片方には難しすぎる研修になります。新任向けには役割認識と基本スキル、既任向けには組織づくりや後継者の育成、というように対象を分けて設計すると、それぞれに必要な内容を届けられます。
対象人数が少なく分けにくい場合は、共通部分を動画で全員に届け、対象別の内容だけを集合で扱う方法があります。分ける手間と届ける手間のバランスを取りやすくなります。
「指導する人材がいない」前提で組み立てる
厚生労働省の調査では、人材育成の問題点として「指導する人材が不足している」を挙げた事業所が59.5%で最多でした。次いで「人材を育成しても辞めてしまう」が51.6%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%と続きます。
出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」調査結果の概要(2026年7月31日公表・図36)
社内に教えられる人がいることを前提にした設計は、その人が異動や退職をした時点で回らなくなります。外部の教材や講師を使う部分と、社内でしか教えられない部分を最初に切り分けておくと、担当者が代わっても続けられる形になります。
自社の制度や事業の説明は社内でしか作れませんが、リーダーシップや面談の基本といった共通スキルは外部の教材で賄えます。この切り分けを最初に決めておくことが、継続の条件になります。自社の評価制度の説明を動画として一度整備しておくと、毎年同じ説明を繰り返す手間を省けます。制度改定があった年だけ該当箇所を差し替える運用にすると、更新の負荷も抑えられます。
実施した記録を残す
研修を実施したかどうかは、記録がなければ後から確認できません。誰が受講し、誰が未受講なのかが分からないと、次に何をすべきかも決められません。
形式によって記録の残り方は異なります。集合研修なら出席簿、動画なら受講履歴、OJTなら指導記録です。形式を組み合わせる場合は、それぞれの記録がばらばらの場所に残らないよう、確認する場所を決めておくと管理しやすくなります。
厚生労働省の調査では、計画的なOJTを管理職層に対して実施している事業所は24.9%と、新入社員(52.3%)の半分以下でした。研修は実施しても、その後の実践を支える仕組みや記録まで整えている企業が少ないことがうかがえます。面談の実施記録を残す、四半期ごとに振り返りの機会を設けるといった運用は、支援の抜け漏れを防ぐ手がかりになります。
記録は管理のためだけのものではありません。受講が進んでいない層が見えれば、その原因を確かめる手がかりになります。日程が合わないのか、内容が現場に合っていないのか、優先度が低く見られているのか、原因を仮説立てて確かめ、次の改善につなげられます。
管理職研修の事例
実際に管理職研修の運用を見直した企業の例を2社紹介します。
役員による直接フォローで受講率がほぼ100%に|ダイカンサービス株式会社様

ダイカンサービス株式会社様は、ダスキンのフランチャイズとして清掃・家事代行サービスなどを展開しています。管理職の役割を理解する機会が少ないうえ、全国に支店が点在していることから、義務研修を集合形式で一斉に実施しにくいという課題を抱えていました。
そこで必須研修を月次で配信し、役員が未受講者を直接フォローする体制を整えました。
役員による直接フォローで受講率はほぼ100%に達し、年末に実施したアンケートでは、社員の過半数が「積極的に活用している」と回答しました。
導入後の主な成果
- 役員による直接フォローにより、受講率はほぼ100%に到達
- 年末に実施したアンケートでは、社員の過半数が「積極的に活用している」と回答
まとめ:内容の性質で形式を分ける
管理職研修がうまくいかないとき、原因は内容そのものより、内容と形式の組み合わせにあることが少なくありません。制度の説明を集合研修で行い、面談の演習を動画で済ませようとすれば、どちらも中途半端になります。
管理職研修で扱う内容は、制度や考え方を理解する部分、状況に応じて判断する部分、実際にやってみて身につける部分に分かれます。この3つを見分けて、全員に同じ内容を届けたい部分は動画で、他者とのやり取りが要る部分は集合やオンラインで、現場での実践は日常業務のなかで支える、という割り振りが基本の形になります。
実施率の数字が示すとおり、管理職層への研修は新入社員向けに比べて手が回っていないのが実情です。すべてを一度に整えようとせず、自社で最も課題が大きい領域から着手し、記録を残しながら次の打ち手を決めていく進め方が現実的です。
よくある質問
Q. 管理職研修では何をするのでしょうか?
部下の育成と面談、チームの運営、目標管理と評価の3領域を扱うのが一般的です。具体的には、ティーチングとコーチングの使い分け、1on1の進め方、リーダーシップの基本、評価の納得感の作り方などが含まれます。会社ごとに制度が異なるため、自社の評価制度の説明を組み合わせる企業が多く見られます。
Q. 管理職に必要な研修はどれから始めるべきですか?
自社で最も課題が大きい領域から始めるのが現実的です。判断の手がかりとして、部下からの評価への不満が多ければ目標管理と評価、離職が課題なら面談や1on1、チームの成果にばらつきがあればチーム運営から着手する、といった見方があります。すべてを同時に整えようとすると、どれも中途半端になりがちです。
Q. 実施方法によって費用の考え方はどう変わりますか?
形式ごとに費目の構造が異なります。集合研修は講師費・会場費・受講者の移動時間が主な費目で、実施回数に比例して増えます。動画は教材の作成または調達と配信のしくみが中心で、受講人数が増えても費用は大きく変わりません。OJTは指導者の時間が実質的な費用になります。人数と実施頻度によってどの形式が有利かは変わるため、自社の条件で見積もる必要があります。
Q. 管理職研修の受講状況はどう管理すればよいですか?
形式ごとに記録の残り方が違うため、確認する場所を決めておくと管理しやすくなります。集合研修は出席簿、動画は受講履歴、OJTは指導記録が該当します。複数の形式を組み合わせる場合、記録が別々の場所に残ると全体像が見えなくなります。たとえばAirCourseのように、集合研修の受講記録も含めて同じ画面で管理できるしくみを使う方法もあります。







